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第二十話 ハックマナイト

 ハックマナイトという宝石の、テネブレッセンス効果とは?

 紫外線を当てると色が変化し、ゆっくりと元の色に戻る現象だ。


 外部の影響を受けたことが一目瞭然ながら、その影響力が次第に消えていくのが露骨に分かる。そして何事もなかったかのように、本来の状態で佇むのだ。これは人間の感情にそっくりではないかと、私は常々思っている。


「宝石の場合は、とっても魅力的なんだけどさ」


 何となく手首をさすりつつ、私は溜息まじりに呟く。

 自分やその他の人間に置き換えると、いっときの情熱に燃えた後で、すっかり冷めてしまうといった状況だ。燃え尽きるほどの情熱とも言えるが、あまりいい印象に感じられないでいる。

 それに結局は元の姿に戻るところが、自分という存在が何者にもなれないことを示唆している気がした。そんなわびしさも含めて、ハックマナイト自体は素敵な宝石だと思っている。


「陰気で平凡な持ち主で申し訳ない……」


 私がちらりと視線を向けると、目の前の少年にも見える青年は、あっけらかんと笑った。


『そんなことないですよー。主さんは気にし過ぎですって』


 ここは私の夢の中。

 いわゆる明晰夢と言っていいほど、意識がはっきりとしている。


 そして彼は私が持つブレスレットに付いている宝石、ハックマナイトの化身だ。このような状態をアキラビトと言う。

 宝石を大切にしていると、その宝石は人の姿をとって持ち主の夢に現れる。そんな都市伝説が、私の元にもやってきていた。


「影響を与えられても変われない自分、誰にも影響を与えられない自分……」

『おっと。そうでもないんですよねー、これが。こうして私がアキラビトとして存在するのも、主さんが私を大事にしてくれてる影響な訳ですし』

「それは……まあ、そうかもしれないけど」


 確かに都市伝説でアキラビトは、大切にされた個体にだけ宿る宝石の化身だと言われている。不思議な現象だな……と、私は改めてハックマナイトを見つめた。


『だから主さんも私だけじゃなくて、他の誰かや何かの心に、ギュッと残ってると思いますよ』


 そう言って明るく微笑むハックマナイトは、美しい紫色の瞳をしている。

 それはハックマナイトが紫外線を浴びて、変化した後の色。


「……貴方の瞳は、ずっとその色なの?」

『アキラビトの状態だと、そうですねー』

「そっか」


 彼の返事を聞いた私は、久しぶりに笑顔を浮かべていた。




 ――今日もまた、いつもと同じ朝を迎える。

 でもそれは、きっとただの思い込みだ。いつだって世界は、変化を続けている。


「また、会おうね」


 お気に入りのブレスレットに話しかけると、ハックマナイトの色が僅かに濃くなった。

 それが錯覚じゃないってことを、私は知っている。




 ―おわり―


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

宜しければ、ご感想等いただけましたら励みになります。


本作はこの度で一区切りとなりますが、また再開するかもしれません。

その際はまた、お目を通していただけたら嬉しいです。

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