自由すぎるのも困りもの
咲と話し合った次の日の朝、私たちはいつものように城の門の前まで来ていた。
もう、門兵さんとは顔なじみで、ちょっとした挨拶を交わす。
そうしていると、大きな門を開けてそこにゼノがやってきた。
「よっ、ちゃんと来たみたいだな。真面目で助かるよ」
「当たり前でしょ、ゼノ。ただでさえ他の軍の人は朝早くから頑張ってて気後れしてるんだから……」
「ん……。いつも申し訳ないです」
ユイは気まずそうに俯いてそう言った。
やっぱりユイも同じことを思っていたみたいだ。
気にしないでいられるほど、やっぱり図太くはなれないからね。
「おいおい、そう気負わなくていい。最も、本気で軍で働きたいというならその限りじゃないけど。まあ俺からしたら半分趣味みたいなものだ。そういう意味でも気にしないでくれ」
「あはは.……」
なんともゼノらしい返しに、思わず苦笑が漏れてしまう。
まあ私たちはゼノの言うように、彼らとは立場が違うから、考えすぎって言ったらそうなのかもしれないけど。
「さて、じゃあ行こうか。――と、その前に、俺としたことが、伝えないといけないことがあったのを忘れていた」
何かを思い出したようで、ゼノは一度動きを止めるとユイの方へ向き直る。
私たちは頭に疑問符を浮かべながら、その様子を見つめた。
「今日はシルヴィアは忙しいようで執務室に篭っていてね、君はどうしたい? 俺たちについて来てもいいし、城の資料室でも適当に漁ってくれてもいい。なんならシルヴィアの所へ行ってもいい」
「ええっ、そんな! それは少し――いや、かなり良くないのでは……?」
「ハハッ、アイツ君のことを気に入っているようだから、何とかなりそうなものだけど。まあ、今日ばかりは君の言う通り、君のことを構う余裕もないかもしれないな」
「は、はあ……」
ユイは若干呆れたように呟いた。
けれどすぐにその姿も元通りだ。
「では私は資料室の方へ伺いますね。暫くしたら訓練場の方へお邪魔させてもらうかもしれません」
「ああ、それは大歓迎だ。じゃあ、資料室へ行くなら一人側に付けておこう。言っておくから資料室の前で合流するといい」
「ありがとうございます」
「じゃ、また後で」
「はい、失礼します」
そのぐらいなんて事ないと、ゼノは軽く手を振ってユイを送る。
私もまたねと手を振って見送った。
「改めて、君の妹はしっかりしているなと感じたよ」
「なにそれ、私はしっかりしてないって言いたいわけ?」
「ハハッ、そうじゃないさ。俺とは大違いだなと思っただけだよ」
ゼノは軽く笑ってそんなことを言った。
それは言えてるなと思ったけど、心の内に留めておく。
そんな軽い会話を交わして、私たちはいつもの場所へと歩き出した。
ゼノは耳元に指を当て、誰かと通信しているようだった。
盗み聞きしてみれば、相手は資料室を管理している人みたいだ。
ユイに何かあったらただじゃおかないけど、いざとなったら私が何としてもユイを守る。
まあ、彼の手配なら大丈夫だろう。
それくらいは彼のことを信用している。彼も馬鹿じゃないし。
「そういえば、ゼノってどんな立場なの? 随分と偉そうにしてるけど、ちゃんと聞いたこと無かったなって」
ゼノが通信し終わったのを確認して、そんなことを聞いてみる。
すると、彼の背中が止まった。
後ろをついて行っていた私もつられて止まる。
「ど、どうしたの?」
「いや、まさか君がそんなことを聞いてくるなんてと思って」
声色から察するに別に怒ってないようで安心した。
ただ本当に、唐突にそんなことを聞かれるとは思っていなかったようだ。
もう一度歩き出して、ゼノは言葉を続けた。
「君の疑問ももっともだ。だからお答えしよう。俺は少々複雑な立場にある」
「へぇ、複雑っていうと?」
「知っての通り軍っていうのは上から下への階級構造だ。上にはお偉いさんがいて、下っ端はこき使われる。でも、俺と俺の軍は少しばかり状況が違う」
軍が階級構造なのはなんとなく分かる。そういうものだという知識が前世からあるし、側から見た感じ実際にそうだ。
けれど、彼はなんというか、自由すぎる。
「簡単に言えば何でも屋みたいな立ち位置で、俺たちは半分軍っていう組織の外にあるみたいなものだ。切込隊長でもあり、国防の要でもあり、市中警備もしてるような、フワフワとどこか宙に浮いたような役回りなんだよ。
実力はあるから上のお偉い様方には完全には縛られないし、魔王様にはまあまあ贔屓してもらっていて、直属みたいなとかもあるから、そこそこの権力と自由裁量権もある」
「それが、ゼノが自由そうな理由ってわけね。私からしたらなんか、何でも我儘やってるような印象だけど。私たちをこんな風に世話してるわけだし」
「ハッ、まさしくそういう訳だ。俺はこれからも我儘を続けさせてもらうさ。折角の人生なんだ、楽しい方がいいだろ?」
ゼノはニヤリと悪戯な笑みを私に見せる。
あははと苦笑いを返しておいた。
「さて、そろそろだな」
訓練場の方から聞こえてくる掛け声の音も大きくなってきた。
全く、どうやらゼノは今日も私と彼らを虐めて楽しむ魂胆らしいし、やめて欲しいものだ。
「ゼノが自由人だからって、私とあの人たちを遊ぶ道具にしないで欲しいんだけどなぁ」
「遊んではないさ、俺は至って真面目だよ」
「はぁ……」
嘘つきすぎるな、コイツ。
今日もどうやら覚悟を決めないといけないみたいだ。




