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Last Song Blues ブルースは愛の歌 ~未来へ~

「もーっ、だから遅刻しちゃうって言ったじゃないの!あんたと違って、アタシは朝早いんだからね!」

「だから悪かったって。けど、しょうがねぇだろ。ここんとこお互いに忙しくて、お前が泊まりに来るのも久々だったんだし……」

「だっ、だからって3回もするなんて……」

「いやいや、俺は2回でギブアップっつったろ。3回目をねだってきたのはお前だぜ」

「うっ、うるさいわね!そりゃあアタシだって、久しぶりに陽太とその……、できて嬉しかったんだから。そっ、それより伊吹さんとこの出産祝いだけど、ちゃんと用意したんでしょうね?」

「心配すんなって。つーか、もう三人目って……。お盛んすぎるだろ。まあ、夫婦仲が良いのはいいことだけどな」


 あれから、4年の月日が流れようとしていた。

 大学を卒業した可憐はそこそこ大きな企業へと就職し、更に週末は空手道場の師範を務めるなど、毎日を忙しく過ごしている。

 一方の俺はといえば、念願かなってプロのブルースミュージシャンに……、などといううまい話など、残念ながらあるわけがなかった。

 その後も店長の伝手で、何人かのレコード会社の人の前で演奏する機会はあったものの、結局はプロになれるほどの才能も、全てを捨てて頑張る度胸もなかったようだ。だが、好きな音楽の道から離れるのも寂しいものがある。

 迷った末に、結局俺は店長と同じ道を選ぶこととなる。

 とは言っても、いきなり音響会社に就職できるわけでもないし、ライブハウスを経営する資金があるはずもない。そんな俺に救いの手を差し伸べたのは、またしても店長だった。


『最近経営が順調でな。今度趣味の2号店を出そうと思ってんだよ。だが、いかんせん人材がいねえ。で……だ。どうだ陽太、店長やってみねえか?もちろん、社員扱いでだ。まあ、給料は大して変わんねぇがな』


 その言葉に、俺は一も二も無く飛びついた。給料がそれほど変わらなくとも、社会保険や福利厚生が充実するのはありがたい。それに最近少しばかり真剣に考えるようになった『未来』の事だって、間違いなく正社員のがいいはずだ。

 店長の言う2号店とは、出演者をジャズ、ブルース、プログレッシブロック、AORなどに限定した、まさしく大人の趣味の店であった。

 たしかに若者が集まるようなチョイスではないし、儲けが期待できるような集客数でもない。

 だが、常に同好の士が集まり閑古鳥が鳴くわけでもなく、赤字にならない程度には運営できていたし、何よりも俺にとっては居心地のいい場所だった。

 思えば、店長は俺のためにこの店を作ってくれた……、というのはさすがに考え過ぎだろう。だが、全くそういう気持ちがなかったとは考え辛い。ホント、この人には一生頭が上がんねぇよ。

 

「なぁ可憐」

「なによ?遅刻しちゃうじゃない」

「俺さ、引っ越そうと思ってるんだよ」

「え?そりゃあこんなオンボロアパートよりいいところは、いくらでもあると思うけど。急にどうしたの?」


 俺の言葉に、玄関へと向かっていた可憐は訝しがるように足を止める。

 

「いや、収入も安定してきたし、貯金も出来たしさ。いつまでもこの一人暮らし用のボロアパートってわけにもいかないだろうし、二人で住むには狭すぎるだろ?実はもう、ほぼ決めてきたトコがあるんだよ」

「陽太……?どういうこと?」

「ああもう、鈍いな!つまりだ、一緒に暮らそうっつってんだよ。俺と結婚してくれ、可憐!」


 俺の言葉に、可憐は驚いたように目を見開く。そして数瞬の後、その瞳から涙が溢れてきた。次の瞬間……。

 

「うおっ!あ、危ねえだろうが」

「だって、だって……」


 俺の胸に飛び込んできた可憐を、なんとか受け止める。

 

「で?返事は……、ど、どうなんだよ?」

「オッケーに……、決まってるじゃない!バカ……」

「そっか……。ありがとな」


 泣きじゃくる可憐をそっと抱きしめ、優しくキスをする。そして……。

 

「ん……、あん。ダ、ダメよ陽太……、朝からそんな……、お、お仕事が……。んんっ……。ダメ、ダ……、ダメって言ってんでしょうがぁぁぁ!!」

「ぐぼぉぉぉっ!」

「何考えてんのよ!今から仕事だってのに!」

「い……、いや……、悪かった……って。つ……、つい……」


 だが、腹を押さえてうずくまる俺の耳元に顔を寄せると、可憐はそっと囁いた。


「今夜また来るから。ちゃんとご飯作って待ってるから、陽太のお仕事が終わったら……ね」


 ☆ ☆ ☆

 

「やれやれ、相変わらず容赦ねぇよなぁ。けど……」


 俺は出かける間際の可憐の言葉を思い出していた。それと同時に耳元にかかる吐息の感触も思い出す。

 

「あ~……、どうすっかなぁ……」


 俺が悩んでいること。それは、その感触を思い出したせいで、マグナムがめっちゃ元気になっていることだ。昨晩3回も出したというのに……。

 いっそのことオ○ニーでもして発散させようかと思ったが、今晩また可憐が来るというのだ。夜の楽しみまでに、回復に努めたほうがいいだろう。

 夕べのハッスルのせいか、喉の渇きを覚えた俺は冷蔵庫へと向かう。そして、そこに張ってある一枚の色あせたプリクラへと語りかける。

 

「へへっ、どーよ。ついにプロポーズしたぜ。これならお前が遊びに来る頃には、ホントに俺に子供がいるかもな」


 そこに映っているのは、俺と可憐、そして間に挟まれて笑う金髪の幼女。最後の一週間の時にゲーセンで撮ったものだ。今となっては、あれは夢だったんじゃないかと思うこともある。だが、そこにあるものが、俺とメルの過ごした日々が間違いなく本物だったことを示している。

 

「さて、寝不足だし、飯食ったら夜の仕事に備えてもう一眠りすっかな」


 可憐が作っておいてくれた麦茶と朝食を手に居間へと向かう。そして、何となくだがテレビのスイッチを入れる。今までテレビなど置いていなかったが、可憐が泊まりに来るようになってからは、あまりに何もないのもなんだかと思い購入したのだ。

 ちなみに両家の親(主に母親だけだが)からは、可憐のお泊り許可は出ている。ただ、さっさと結婚しろ圧力がすごいことになっているが……。

 だが、それも今日までだ。近いうちに二人で報告に行くとするか。

 

「なんだよこいつ……。また出てんのかよ」


 偶然に映っていたのは、朝のワイドショーだった。だが、時間帯を考えれば別に普通のことだ。嫌なら見なければいいだけのことだし、別に文句を言う筋合いでもない。だが、問題はそこに映っているアイドルタレントだった。

 

『こんどSozaさんは、新曲を出されたそうですね』

『ええ、夢見る女の子達に向けた、僕らしい曲に仕上がったと思います』

『ズバリ、この曲の聞き所はどこでしょう?』


 そこに映っていたのは、女性リポーターの質問ににこやかに答える、総左衛門の姿だった。

 

『当然僕の歌とルックス……と言いたいところですが、今回はバックの演奏にも注目してください。僕がデビュー前から信頼を置いてきた仲間、フライング・ハイのメンバーが演奏していますからね。音楽通も絶対に唸らせることが出来る、最高の仕上がりになりましたよ』


 あれからどんな心変わりがあったのかは知らないが、総左衛門はアイドル歌手としてデビューした。そしてその地位が不動のものとなった頃、強引にではあるが天空飛翔のメンバーを自分のバックバンドとしてデビューさせたのだ。

 メンバーのルックス的に女性ファンには不評のようだが、それでも一部の耳の肥えた音楽ファンにはその実力は好評のようで、このまま行けば単独デビューも夢ではないだろう。

 

「キザったらしいことしやがってよ……」


 まあ、あいつにも仲間を思う心があったのだろう。まだ続いているインタビューの途中でテレビを切ると、俺は可憐の残り香が漂う布団に潜り込んだのだった。


 ☆ ☆ ☆


「ちょっと!こっ、こんなことをしたら怒られてしまいますわ!」

「え~?でも、特別なことがあったら、姿を見せなければ来てもいいって言われてるよ」

「そっ、それはそうですけど……。で、でも、ママや先生の許可も取らずに……」

「大丈夫だよ。それよりも、大きな声出したら起きちゃうかも知れないよ。見つかったらそれこそ大変だよ」

「ぐっ……!相変わらず貴女は考え無しというか、図々しいというか……」

「ふふふ、これで良し!っと」

「まったく、こんなうだつの上がらない男の、どこがいいんですの?」

「ふふふ、だってロ……ちゃんだって、パパにいいことがあったら、お祝いするでしょ?」

「もっ、もちろんですわ!それは当然、淑女の嗜みですから!」

「しーっ。静かにしないと」

「むぐっ……」


 夢の中で、懐かしい声を聞いた。

 ほんのちょっとだけ大人びた声は、あいつらが成長したら、きっとこんなふうになるだろうという感じの……。

 パタパタと動き回っていた音は、俺の枕元付近で止まる。そしてその気配は、しばらくそこから動かなかった。

 

「じゃあね……」


 ☆ ☆ ☆


「メル!?」


 枕元に気配を感じた俺は、慌てて飛び起きた。だが、当然のごとく周りには誰もいない。時計を見れば、昼を過ぎたあたりだ。可憐が来るにしたって、いくらなんでも早すぎだろう。


「夢……だよな……?」


 なんというか、夢と現実が織り交ざったような妙な気分だった。もしかしたら、久しぶりにメルの写真に話しかけたことで、そんな気分になったのかもしれない。

 興奮したせいか、喉の渇きを覚えた俺は冷蔵庫へと向かう。そして、ドアを開けようとした時だった。メルとのプリクラの横に、もう一つ何かが張ってあることに気付く。

 それは先ほどまでは無かったはずの、真新しいプリクラだった。

 そこには、金色の髪と銀色の髪の、二人の少女が映っていた。どちらも小学校高学年くらいだろう、驚くほどに美しい少女達だった。俺の知っている幼女達が成長したら、きっとこのような美しい少女になるだろうというような……。

 金髪の少女は活発そうで、前を向いてにこやかに笑っている。

 片やお嬢様風の銀髪の少女の方は、金髪の少女に腕を引かれ、やや迷惑そうな顔をしている。だが、どことなく楽しそうな表情をしており、二人の関係が良好なものだろうとわかる。

 そしてプリクラの上下には、丸文字でメッセージが書かれていた。

 

『おめでとう!お姉ちゃんを大切にね』

『おしあわせに』


 そして俺は、先ほどの夢の意味を知る。

 

「ははっ!生意気言いやがってよ。お前らが来る頃には、たくさん子供作っといてやるからな。俺の苦労と楽しみを、とことん味あわせてやるから覚悟しとけよ!」


~Fin~


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