43. 現状
しばらくして回復したリアンはランから情報を受け取っていた。
「イドルイデの国境に潜んでいる間者と接触したけど、情報がほとんど入ってこなかったです。各小国に潜ませていた間者も、多分全部やられたかと」
「やっぱりクロノア公国が関与している確率が高いわね……」
そう呟いた時、コンコンと扉が鳴った。
「リアン様、お客様がいらっしゃっています」
「わかったわ。客間に案内して。すぐいくから」
リアンは立ち上がると最終チェックをして客間に向かった。
***
客間で待っていたのはリューグとパトラだった。事前に連絡があったため、まったく驚かなかったが。
「殿下っ」
リューグはリアンを見た途端、立ち上がった。
「リグベル家が裏切ったと……」
「本当みたいね」
リアンの即答にリューグは苦い顔をし、パトラは焦ったように口を開いた。
「え、で、ですが、公爵様にはあの魔道具があると……」
「それはロイアルティーのこと? 」
「はい。その契約があれば、裏切れないと……」
「それは違うよ」
「え?」
即答で返したリューグにパトラは戸惑いの色を見せる。そういえばそんな話したなと思ったリアンは答えた。
「んー、確かに契約はあるわ。沢山の貴族たちの中で誓うことで破れにくくしてるだけ。ペンダント自体に力はない」
「え、では、あの話は……」
「別に嘘ではないわ。毒をある程度浄化する力はあれど、強制的に従わせる力はない。ただそれだけ」
それを聞いたパトラは唖然とする。
「だって、王に裏切ったとバレると、ただでは死なせてもらえないでしょ? それに、国中の国民から非難されるわけだから……公開処刑よりはマシね」
「そ、そんな。まさか、リューグ様……」
「……まあ、ね。あの後調べてみたけど、今殿下が仰ったまんまだったよ」
「では、様子を見るしかないのですね」
「ええ。ここで下手に出れば裏目に出る可能性が高い。でも、あまり慎重すぎても先手を取られるだけね。で? リューグ様は何をしにきたの?」
「一つは確認です。……殿下に弟がおられるのは本当ですか?」
「ええ。本当よ」
アデル・クラウ・アングニュートル。アングニュートル王国の第一王子で、赤茶の髪に碧眼の容姿を持つリアンの実の弟。
「……そうですか。殿下は嫁ぐおつもりで?」
「いいえ? まったく、これっぽちもありませんの。それに、国を乗っ取られる訳にはいかないしね」
リアンが嫁がない場合、残る選択肢は一つ。
ーー女王になること。
他の王位継承権を持つ者がいた場合、王女は政略結婚のコマに使われる。そうでなければ王女は邪魔でしかない。そのため、王になる以外に選択肢はなかった。
「安心しました。ではもう一つーー」
そう言ってリューグはリアンの目の前に跪き、手の甲に額を軽く押し当てた。
「殿下に永遠の忠誠を」
「……それは、票取り合戦をしろと?」
基本的に玉座は長男が継ぐものだが、例外がある。その場合、票取り合戦をする。要は公爵家の後ろ盾を多くもらった者のものとなる。
「ええ。もし、保護されている王子が本物だった場合、票取り合戦が一番安全で金のかからない解決法かと思いまして」
跡継ぎの問題で宮廷の勢力が分裂、あるいは内乱なんてあるが、票取り合戦はその中でも最も安全な解決法だった。
「と言うことは、アスコール家の票は確定と見ていいのですか?」
「父にはもう許可は取ってあります」
「となれば一対一。残りはウィケル家……」
「それならもう、勝ったも同然ですねっ」
確かに女王に硬い忠誠を誓っている彼ならリアンに票をくれるだろう。だが、
「どうだろう」
「どうかしら」
ランのセリフにリアンとリューグは固定するどころか、不安を煽るようなことを言う。
「へ?」
「こんな大掛かりな仕掛けをしているくらいだ。他にもなんらかの仕掛けがあると思って間違いない」
現在、ウィケル家当主はなかなかの歳であり、長男は現在外国にいて、次男は政治に興味を示さず、商売をしている。孫は長男が同じく外国に留学中で次男はまだ小さい。つまり今公爵に何かあれば、かなりまずいことになる。
「ひとまずはお披露目パーティーまで様子見ね……」
一週間後に王子のお披露目会がある。そこでリアンは計画を立てるつもりだ。そのためには事前に準備しておく必要がある。リアンは忙しくなると予感した。




