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紀夫たちはゲーセンに留まり、さらに別の筐体へと移動する。当初の予定にはないが、輝沢さんにいいところを見せるためだ。こっそり槇島は紀夫を問い質してくる。
(ちょっと、話が違うじゃない? もっと誰でも遊べるようなので楽しむんじゃなかったの?)
(いいんだよ、このゲームで俺の強さを見せつけるんだ)
紀夫が向かったのは某機動戦士の対戦ゲームである。自分の好きな機体を使って2on2での対戦が可能だ。
「輝沢さん、敷居が高いゲームだから、まず見ててくれ。たまには観戦もいいだろ。槇島、やろうぜ」
ブツブツ言っていた槇島だが、紀夫が誘いに応じる。
「……まぁ、別にいいけど」
「じゃあウチは後ろから見てるから、がんばってね!」
輝沢さんに応援されるなら、勝たないわけにはいかない。筐体の画面を見て、紀夫はほくそ笑む。平日昼間で人が少ないため、相手は一人だけだった。紀夫は槇島とのコンビである。これはもらった。
このゲームは2on2であるがCPUがバカなので、二対一だとまるで勝負にならないのだ。紀夫はぶっちゃけヘタクソだが、槇島はそこそこやれるので間違いなく勝てる。
「俺が……ガ○ダムだ!」
紀夫はクアンタを乗機に選び、小声でぼそりとつぶやく。ちなみに槇島はデスサイズを選んだ。相性がよいコンビである。wikiで見たから間違いない。
「向こうはノルンかよ……。ま、問題ないな」
相手はバランスブレイカーで有名な厨機体をチョイスしてきた。しかしどんな機体を使おうが、二対一で勝てるわけがない。
「やっぱ最後はバーストアタックで勝ちたいよな……! さぁ、俺に跪け!」
必殺技でかっこよく敵を沈める図が紀夫のポンコツ脳に映った。紀夫は勝利に向けて、開戦と同時に突撃する。
数分後、紀夫は筐体の前で身を震わせていた。画面に映っているのは敵の射撃で爆散する紀夫の愛機。敵の体力ゲージはほとんど減っておらず、ほぼ完封負けである。紀夫も槇島も射撃が弱い機体を選んだのが間違いだった。敵の豊富な射撃武装で近づくことさえできず、制圧されてしまったのだ。
「相手、相当やり込んでるわね……。私たちじゃ無理だわ」
「長谷、勝負の世界ならこういうこともあるよ」
槇島は素直に相手の技量に感心し、輝沢さんは紀夫を励ましてくれた。作戦失敗であるが仕方ない。俺だって、負けることくらいある……。
紀夫が敗北を噛み締めていると、向かいの台にいる相手は、小さく吹き出す。
「プフッ、弱っ……」
「テメェッ……!」
顔面トランザムした紀夫は向かいに回り込む。いたのは高宮だ。引き籠もりのくせに珍しく外に出ていたらしい。てめぇは懐古厨らしくザクでも使ってろよ。
「コヒュッ、な、長谷君……! ち、違うんだ。これはそういう意味でなくて……」
顔を真っ赤にした知り合いの顔を見て高宮は面白いくらいにうろたえるが、問答無用だ。紀夫に恥をかかせた罪は重い。紀夫は台の脇にあった灰皿を引っ掴み、振りかぶる。
「くらえ、GN灰皿!」
「ふぎゃっ……!」
紀夫の灰皿は見事に高宮の頭部に命中。変な声を出して高宮はひっくり返った。ゲーセンでは、マナーを守って楽しもう! よい子のみんなはゲーセンでリアルファイトしちゃだめだぞ!
その後、相手が知り合いだとわかった高宮は接待プレーに徹してくれたため、紀夫たちは存分にゲームを楽しむことができた。こいつは人の目があればそこそこ優しいのだ。一人のときはゲスい本性丸出しであるが。
「つ、次はクレーンゲームにしようか……。こ、こ、こういうのにはコツがあってだね……」
高宮はどもりつつもホームの強みを活かしてゲーセンの中を案内する。ダブルデート気分になっていたらしく、高宮は珍しくハイテンションで初心者にも取っつきやすいゲームを次々と紹介してくれる。槇島は話す度に赤くなったり青くなったりする高宮を笑い、輝沢さんも面白いキャラだと高宮を認識したようだった。
紀夫は若干空気化していたが、まぁいいだろう。でしゃばり過ぎないのもときには重要だ。要は遊びに行くという提案を誰がしたかである。高宮が踊れば踊るほど紀夫の評価も上がるのだ。
「ま、槇島さん、輝沢さん、どうぞ……!」
クレーンゲームで見事にゲットした地縛霊ネコと電気ネズミのぬいぐるみを槇島と輝沢さんに渡した瞬間は、高宮の人生の絶頂期だったに違いない。ついでに行き先にゲーセンをチョイスした紀夫の株もストップ高だ、多分。
日が暮れる前に引き上げることにして、電車に乗り込む。輝沢さんは遊び疲れたのか眠ってしまい、槇島は気味の悪い笑みを浮かべてスマホをいじっていた。
「ぐふふふ……最近健全に行き過ぎちゃってるからね、こういうときに栄養補給しないと……!」
そう言いながら槇島はよだれを垂らす。槇島は公共の場では見てはいけないものを見て、一人興奮しているらしい。俺でもやらんぞ、そんなプレイ……。
女子二人から離れて暇になったので、電車の中で紀夫は高宮に説教してやった。
「おまえも何やかんやでノリノリだったな。一人でアニメより、たまにはいいだろ。だからこの前、俺の誘いに乗っておきゃよかったのに……」
紀夫は山科さんとの旅行の下見に高宮を誘った件を持ち出す。あのとき、高宮は「手に入らない三次元女より二次元を選ぶ」などと叫んで、一方的に電話を切った。これは謝罪と賠償が必要だろう。
「ハハハ……。そうだね……」
高宮は力なく笑う。どうやらこいつも当時のことを少しは反省しているらしい。今日、一時的に主役を譲っていい目をさせてやった甲斐があったというものだ。
「この調子でいけば、おまえも彼女ができるかもな!」
紀夫は脳天気に言うが、高宮は首を振った。
「いや、そんな簡単にはいかないよ……。一番ほしいものは、いつも手に入らないんだ……」
そのまま高宮はうつむいてしまう。相変わらず無駄に頑ななやつだ。
紀夫たちは駅で解散する。輝沢さんは去り際にお礼を言った。
「長谷、槇島、今日はありがと。ちょっとだけ、気分が晴れた気がする」
「その調子で森橋のことなんて忘れちまえ。あいつはいいやつだけど、いい男なんてあいつ以外にもたくさんいるんだ」
俺とかな! とまでは言わなかったが、紀夫は胸を張る。グダグダではあったが、輝沢さんが気分転換できたなら結果オーライだ。
「高宮もありがとうね」
「え、あ、こ、こ、こちらこそ」
輝沢さんに声を掛けられ、女子に免疫のない高宮はどもりまくっていた。高宮はこういうところがダメだから格好がつかない。その点、紀夫は違う……はずである。
「やっぱ、コウくんのことは忘れなくちゃだよね……」
誰に言うでもなく輝沢さんはつぶやき、空を見上げる。春ということで大分日が落ちるのも遅くなってきた。まだオレンジに染まりきっていない空が、輝沢さんの瞳に映る。
「そ、そうだな! 輝沢さんにもっとふさわしい男が、いるかもしれないぜ! あ、案外近くに……」
輝沢さんは紀夫が言わんとしていることを察しているのかいないのか、寂しげな笑みを浮かべる。
「うん。長谷の言う通りかもね……。コウくんよりいい人、いるのかもしれない……」
輝沢さんは少しだけうつむく。輝沢さんの視線の先にいるのは紀夫だ。紀夫は内心の動揺を抑えて、「元気出せよ!」と笑った。




