第18話 せっしゃの強さは有線式でござる!
コラーダは、ちゃんと見えていた。
右から来る。
肩が上がった。
次は足払い。
「左へ避けて、後ろへ下がるでござる!」
言った通りに動こうとした。
右足が左足の行く先を塞いだ。
ズデーン♡
『……目で追う事は出来ていたようだがね』
「身体が聞いてくれぬでござるぅ……(´;ω;`)」
大学での再検査は、そんな具合だった。
ユリエルたちが身体の働きを記した情報まで調べ直しても、今すぐ全部が直る答えは出ない。
座学、優秀。
観察、索敵、情報処理、後方支援も優秀。
そこから、自分の身体を動かして戦うと、途端にこうなる。
「ソフトパンチャーも買ったでござるのに……」
三毛柄の肉球で頬を挟む。
「それは手加減する道具なんヨ。転倒防止装置やねーんヨ」
『今日はここまでにしよう。考え続ければ解けるとは限らぬからね』
哲人が差し出した手を、コラーダが握った。
立ち上がる時、またちょっとつまずいた。
* * *
晩飯と風呂を済ませたら、息抜きである。
ヒットの社会では、寝る前の少しの時間を、一万倍に加速した仮想空間で遊ぶことも珍しくない。
今夜の行き先は、共用ダイブ空間。
VRぼくのなつやすみ風の田舎だった。
蝉が鳴いている。
縁側に蚊取り線香。
畳の上では、首を振る扇風機。
哲人、ミラリィ、コラーダは、そろって小学生姿になった。
ただし、中身はそのまま。
『ほう。この畳の擦れ具合はよいね』
いきなり家屋の出来を褒める小学生。
「ン……麦茶、持ってきたよ……♡」
理仁亜だけが、白いワンピースと麦わら帽子のお姉さん姿だった。
哲人の前へ座布団を敷き、麦茶を置き、せっせと世話を焼く。
「てっちゃん、こっち……扇風機、当たるよ……♡」
『うむ、ありがとう』
「リニアだけdo-jinなんヨw」
「はわ! 青田狩りの痴女でござるか!?」
「にょほほw 知っとるのか尿電!? なのヨw」
「にょ、尿っていうなぁ~でござる!(´;ω;`)」
「ン……ッ! ンン……♡(カァァ♡)」
「にょお? にょほほ……さてはウ=スイ本大好きだなおめー、なのヨw」
「ン……ッ、ンン……あうう……♡」
宇宙聖女はまぁまぁムッツリであった。
『やれやれ、何の話をしているのかね? さて、今日はどうするかね?』
「にょおお! コイツで勝負なんヨ!( ゜Д゜)(ガラッ!)」
ミラリィは押し入れから、ちょっと黄ばんだエイシェントゲーム機を引っ張り出した。
『ほう、アレかね……よかろうw 99990のハンデをやろうか?w』
「にょおお! フヨウラ! なのヨ!(# ゜Д゜)」
ブラウン管風モニターの前へ、どっかり座る。
カセットを、ふーふー♡
ガチャッ。
ガチャガチャ立志伝SDガンジャムラッピング戦記。
三百年以上、遊び尽くされながら遊び終わらない超スルメゲーである。
『仮想の端子にも吹くのかね』
「儀式なんヨ♡」
「儀式でござるか?」
哲人とミラリィが対戦する。
小さな機体が拠点を奪い合い、資金を貯め、仲魔を生産して増やす。
そしてユニット同士ぶつかれば戦闘画面へ。
ミラリィは強そうな部隊を揃えた。
哲人は、その部隊が留守にした本拠地へ、予め伏せておいた部隊を向かわせた。
「にょわ!? くせものなのヨ!」
『フッ、懐ががら空きだぞw』
「にょおお! やらせはせん、やらせはせんのヨ!( ゜Д゜)」
本拠地に控えるは大将であり最強の戦士「武将yガンジャム」。
『フッ、如何に強大な力も当たらねばどうという事はない! そこだ! 失礼剣!』
「にょわ!? 逃げながら斬られたんヨ! ミラリィのyガンジャムがぁ~なのヨ(´;ω;`)」
決着♡
最後はダブルyガンジャムのギガビームが天高く放たれ。
その拍子に落ちて来たコロニーの下敷きになって全てが吹き飛んだ。
『フ……イクサとはかくも虚しいものよ……』
「ンン……カワイイ見た目なのに……意外と深い……ね?」
「何にせよ旗折れでござるな!(*´Д`)」
「くやしぇーい!(´;ω;`)」
ドッタンバッタン。
『守備隊まで連れてこちらの本陣に殺到したら、そうなるよ』
「正面からヤリ♂合うんヨ!」
『勝利条件が旗折れなのを忘れてはならぬよw』
コラーダが、おずおずと手を挙げる。
「面白そうでござる。せっしゃもヤッ♂ていいでござるか?」
* * *
最初は、ひどかった。
決定のつもりで取消。
明後日の方向にビームを発射。
ミラリィが大いに喜んだ。
「にょほほw 新兵はつれーのヨw」
「しばし待つでござる。この数字は、撃てる回数でござるか?」
『ああ、実弾兵器は強力だが弾数に気をつけたまえ。一戦闘毎に回復はするから使い切っても無くなる事はないよ』
「なるほど……補給は気にせんでもよいでござる……と( ..)φ」
コラーダは画面と説明を見比べた。
移動に使うもの。
補給で戻るもの。
攻撃の届く距離。
そして、何をすれば勝ちになるか。
指が迷わなくなるまで、そう長くはかからなかった。
ミラリィの大部隊が迫る。
コラーダは、わざと弱い機体を前へ出した。
「ごっつぁんなんヨ!」
追う。
逃げる。
もう一度追う。
「……にょ?」
時間切れ。
ユニットは有らぬ方向へ弾き飛ばされる。
母艦へ戻る道には、さっきいなかった敵がいる。
その頃、反対側ではコラーダの小部隊が、無人の拠点を取っていた。
「にょおお! おめー、いつの間に!」
「そちらをご覧になっている間でござる♡」
最後の戦闘でも、コラーダは追いかけなかった。
飛び込んでくる相手を待ち、着地したところへ一発。
大逆転♡
崩れ落ちるミラリィ陣営の武将yガンジャム。
心なしか彼の表情は「しっかり指揮せいやダボハゼが!」と言っているようにも見えるw
「くやしぇーい!(´;ω;`)」
今夜二度目のドッタンバッタン。
コラーダは、しばらく勝利画面を見ていた。
「おお……せっしゃ、これで勝ったのでござるか?」
『うむ。見事なパレス強襲だったね』
哲人はコントローラーを握る指先を見ていた。
「にょおお! ラッピング戦記は時間かかるのヨ! 次はコイツなんヨ!」
ミラリィが取り出したるは、灰色のエイシェントゲーム機であった。
『フッ、格ゲーでキメ♂ようというのかねw』
「exactly(その通りなのヨ)!」
次は路上闘士其之弐。
通称ロジツー。
陣取りとは勝手の違う、純粋な格闘ゲームである。
ここでも、最初は負けた。
しかしコラーダは、同じ飛び込みを三度は食らわなかった。
届かない拳を見送り、伸びた腕が戻る前に当てる。
ミラリィが大技を出すと、きちんと防いでから反撃した。
「おめー、どーやったら今の返せるんヨ! にょわ!?」
ウワァ、ウワァ、ウワァ……
デンデンデン♪
ユールーズw
ガーハッハッハ♡
テレッテーテー、テッテレテテテレン♪
ロシアノダイチヲオマエノチデアカクソメテヤロウカ!?
「くやしぇーい!(´;ω;`)」
「せっしゃ無敵でござるw もう何も怖くないでござるw」
立ち上がって胸を張った、その瞬間。
ミラリィが、ぬっと立つ。
「にょわー!( ゜Д゜)(ガシッ♡)」
ぬこ首相撲、開幕♡
「ほぎゃ! コマンド! 投げ抜けコマンドはどこでござる!?」
「ここにはねーのヨ!」
ニャイニャイニャイニャイニャイ!
ドアホ! ブタゴリラ!
陰陽図みたくなり、ぐるぐる回転する二匹のぬこ。
コラーダ、三秒で座布団へ帰還。
哲人は、ふむ、と顎を撫でた。
* * *
『きみは、分かっているのだね』
「何がでござる……?」
『相手を見て、何をすべきかを決める。それは、検査でもできていた』
哲人はコントローラーを指す。
『それを自分の全身でやろうとすると崩れる。しかし、これを通すと間に合う』
見て、決めて、押す。
うまくいかなければ、次を変える。
コラーダは、その繰り返しが速い。
『ガーディアン時代、天雷(普通の戦闘機)で支援をしていた時も、操縦はよかった。操縦桿も、考えてみれば入力装置だ』
「あれは唯一せっしゃにできる仕事だったでござるよ(*´Д`)」
『なら、その得意を、もっと使ってみようではないか』
本人を動かすところでつまずくなら、間に別の手段を挟む。
現実の戦闘を、ゲームのように操作できる形へ。
「……せっしゃ、ミラリィ殿を立ちスクリューで投げられるでござるか?」
「立ちタイフーンで返り討ちなのヨ!」
『これこれ、目的を見失わないように』
* * *
翌朝。
哲人は蒟蒻号の傍らで、蔵智を発見した。
ツナギ姿のまま、椅子で寝落ちしている。
見上げると、フルアーマーパック・組付完了。
抱えている端末にはセルフチェックのシークバーが牛歩していた。
『蔵智君。そろそろ起きたまえ』
「ん~……そこ、増槽が……」
『私の腕だよ』
相談は、ちゃんと起きて朝飯を食べてからである。
昨夜の対戦記録を見せると、蔵智の目が開いた。
「あ~。自分で動くと駄目で~、外から動かす入力ならいいんだ~」
『近接戦闘も、その形にできぬだろうか?』
「できると思うよ~。判断はコラーダさん~、細かい機械制御はこっち~。まず仮想試験からね~」
哲人が使い方を考え、蔵智が動くものにする。
必要な元機体と部材は、いつもの榛名重工へ発注した。
「”毎度ありがとうございます! 追加の専用機案件ですね! ええ、ぜひ、ぜひ弊社に!”」
営業マンの揉み手が加速する。
指先が見えない。輪郭が黒い。
とうとう事象の水平線を描き始めた。
「商売の重力はつえーのヨw」
* * *
設計と仮想試験を詰め、届いた実機で調整を重ねる。
数日後、コラーダ専用兵装が二つ揃った。
一つは、二軸スティックコントローラー操作変換型MDF。
複雑な操作を二本のスティックとボタンへ割り振る、中・遠距離支援用である。
本人の全身動作をそのまま写すモビルトレースには頼らない。
人型時もコントローラー操作が可能である。
もう一つが、近接戦闘用高性能義体。
機体コード「3C」である。
オプションサービスで容姿を自由に選択できるオート・マトンだ。
「ほわー! せっしゃが、もう一人いるでござる!」
褐色肌と赤毛、すらりと長い手足。
ただし、目隠しにワインレッドの衣装、黒いレオタードと袖。スカーレットのストッキングに、金色の裏地と装飾。
ゴシック調に着飾ったコラーダが、すました顔で立っていた。
「むむ! こちらのせっしゃの方が恰好良いでござる!」
「にょほほw こっちが本体なんヨ!(ゲラゲラ)」
「せっしゃはせっしゃでござるぅ~!(´;ω;`)」
『ンフッw 分かりやすくて良かろう。蔵智君、説明を頼む』
「桶~w こっちは、この灰色コントローラーで動かすよ~」
蔵智が渡したのは、懐かしい形のゲームパッド。
そこから延びたケーブルが、3Cへつながっている。
「なんと! 有線でござるか?」
「虚天廊の中で~、無線が通るか分からないからね~」
コラーダが十字キーを押す。
3Cが歩いた。
ボタンを押す。
すっと構えた。
つまずかない。
「おお……!」
声が、ちょっと震えた。
哲人やミラリィの動作を記録し、機体で再現できる範囲へ調整した技が用意されている。
だが、全部は載らない。
「セットポイントが、この機体に積める技の上限ね~。複雑で負担の大きい技ほど、いっぱい使うの~」
コラーダが強そうな連続技を選ぶ。
残りポイント、不足。
回避を外す。
『それは勧めぬ』
「で、ござるな……」
今度は大技を戻し、回避と受け身を残した。
モダン操作スタイルなら、組んだ技を一つのボタンで出せる。
ただし、載せていない技まで生えてはこない。
「先に編成するところから勝負なのでござるな」
『その通りだ』
コラーダは、もう説明を聞く顔ではなかった。
自分で使い方を考える顔になっていた。
* * *
試運転の相手は、ミラリィ。
コラーダは防護区画でパッドを握った。
3Cが持つのは、訓練用に調整した二振りのフレキシブル長巻。
ミラリィが踏み込む。
コラーダは慌てて全部押したりしなかった。
一歩引く。
ぬこぱんちを片方で受け流し、もう片方を返す。
ミラリィの髪が、その切っ先を弾いた。
「おめー、中々ヤリ♂よるのヨw」
「そうでござろうw」
3Cの金の裏地が翻る。
追い打ちはしない。
距離を取り、ケーブルが絡まない側へ回る。
コラーダの視線は、相手と機体と残りエネルギーを忙しく往復していた。
次はソフトパンチャーでの打撃と投げ。
続いて、槍、斧、槍斧へ切り替わるスラッシュハルバードの間合いを確認する。
どの武装でも、生身の時とはまるで違った。
ミラリィに勝てはしない。
それでも、何をされているか分かり、次の行動を返せている。
最後に断線試験。
3Cが反撃へ入る直前、蔵智が試験用接続を切った。
「あっ、今! 今なのでござる!」
3Cは、くるっと背を向けた。
スタタタタ……。
「ほな……」
と言わんばかりに、再接続地点へ一直線♡
「にょほほw ルラギって去によったんヨw」
「な、何ででござるか! 割と良いところだったのにでござる!」
「それはしないよ~。ケーブル切れたら~、戦闘も終わり~。味方が困ってても、勝てそうでも~、切れたら帰っちゃうんだ~(*'ω'*)」
『装備を失った時は、君自身が退く必要がある、ということさ』
「あうう……承知したでござる……やはり楽して強くはなれんでござるな……」
再接続後、コラーダはきちんと撤退操作も練習した。
練習はした。
その上で、最後には、やはり調子に乗った。
「んー、やはりせっしゃが最強なのではござらんかw」
ミラリィ、真顔。
「いや、おめーはしょぼいのヨ」
「なっ!? 3Cの強さはせっしゃの強さでござる!(´;ω;`)」
「おめー完全にコイツに頼り切ってるのヨw まだ中途半端なんヨw」
「中途半端っていうなぁ~でござる!」
パッドを置き、区画を出て、生身で掴みかかった。
ニャイニャイニャイニャイニャイ!
ドアホ! ブタゴリラ!
陰陽図みたくなり、ぐるぐる回転する二匹のぬこ。
「ほわぁ~! でござる!><(どしっ♡)」
「にょほほw おっと、ミラリィの拳に汚ぇシッコが憑いちまったのヨw」
「まだ漏らして居らぬでござるぅ~(´;ω;`)」
ミラリィの足元に、本物だけが転がった。
偽物は立っている。
「やっぱこっちが本物なんヨw」
「せっしゃがせっしゃでござるぅ~(´;ω;`)」
* * *
『調査へ連れていく目処は立った。しかし、これで何もかも片付いたわけではないよ』
哲人はコラーダを起こし、試験結果を見せた。
基礎自衛と、装備なしで退く訓練は今後も続く。
もう一つ、うまく動かせるからこそ、見えた限界がある。
機体も武器も、今ある近代兵器なのだ。
『どれだけ正確に当てても、その武器の出力より硬い相手は倒せぬ』
「フルコンボ入れても0 DAMAGE♡なんヨ」
「せっしゃの指だけ疲れるでござる……」
「だから、これから育てようね~。武器を強くしたら、支える機体と電源も~。蒟蒻号から~外部給電するのもいいかも~(*'ω'*)」
旅先で新しい素材や技術を得たら、持ち帰る。
組み合わせられる技も、少しずつ増やす。
コラーダは、パッドを持ち直した。
「まずは、今ので誰かを助けられるようになるでござる」
『うむ。それでよい』
そこへ、船体試験の完了通知が入った。
フルアーマー蒟蒻号、完成。
ジェネレーター出力、五〇%増。
装甲、二五%強化。
連装砲を二門追加し、対空銃座とミサイルセルも増設
推進力と機動性は一〇〇%向上した。
増設コンデンサでエネルギー伝達効率も改善し、傷んだ追加装備は個別に切り離せる。
「それから、おでんも広がったよ~」
『……おでんが?』
Gエクスパンションディフューザー。
従来より広く照射でき、事前充填のために艦内の一部へのエネルギー供給を削る必要もなくなった。
ただし、フルアーマーパックを外せば従来の仕様へ戻る。
「にょおお! あっつあつおでんスプラッシュなのヨ!」
「顔にはひっかけないで欲しいでござるぅ~><」
『ますますレガシーパフォーマンス染みて来たな』
ブリッジへ上がり、航路を呼び出す。
セトノウチ星系航路・久松失踪事故宙域。
出航許可を確認。
積荷と装備を固定。
全員着席。
コラーダはベルトを締め、隣の専用ケースも確かめた。
今度は、自分で扱える道具を連れていく。
『よし、皆の者。親父ぃ捕獲に出陣じゃあ!』
「にょおお!」
「ン……行こう……♡」
「了解でござる!」
推進器が点火した。
背中を押す確かな重みとともに、着膨れした我が家が動き出す。
宇宙の道は途切れていた。
こちらのケーブルは、しっかりつながっている。
続く♡




