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再愛  作者: 千筆拓
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22/24

第22話:2人だけの再愛

6月29日、締め日の前日。蓮が再び店を訪れ、テーブルで重ねられた贅沢なボトル。唯月目線で明かされるのは、プロのキャバ嬢としてのリアルな本音だった。もし蓮が連れを伴って来店し「合番」になっていれば、せっかくの大口売上も同席したキャストと折半になり、自分の実績は半減してしまうところだった。それを防ぎ、彼の時間と大きな売上を独占できたことへの安堵。骨折の激痛を抱え走り抜けたバースデー月、蓮がもたらした決定打によって店内のナンバーツーへと昇り詰める。LINEで交わす「唯一無二」「再愛」の言葉の裏で、彼女は冷徹な夜の世界で掴み取った最高の果実を噛みしめていた。


 6月29日、月曜日。バースデー月の締め日を明日に控えた昼。


 二日酔いで頭を重くさせ、痛む足をかばいながらクロックスを引きずってネイルサロンへ向かう道中、私はスマートフォンの画面を見つめて小さく息を吐いた。


 勝てる。これで、今月の売上目標には完全に目処が立った。


 先週末、締め日直前の絶妙なタイミングで蓮さんが店に来てくれたこと。そして、金・ピンク・赤という三本のアルマンドを並べてくれたこと。あれが店内での私の立ち位置を決定づける強烈な一撃になったのは間違いない。結果として、私はこの怒涛の6月を、店内の『ナンバーツー』という輝かしい実績で締めくくることが確実となっていた。


 けれど、私が本当に安堵していたのは、そんな数字の計算だけじゃなかった。


 あの日、蓮さんが「1人で行こうかな」と言ってくれたとき、胸を撫で下ろしたのは本物だ。もし彼が誰か連れを伴って来店していれば、その連れのお目当てのキャストと同席する「合番」になってしまっていた。そうなれば、せっかく彼が開けてくれた高額なシャンパンの売上も相手のキャストと山分けになり、私に入る実績は半分に削られてしまう。彼との特別な時間も、狙った演出も、すべてが不完全な形で散らばっていたはずだ。誰の邪魔も入らないマンツーマンの空間で、彼の大きな売上と時間を一人で独占できたこと。それこそが、何よりの勝利だった。


 もちろん、私の周りには蓮さんだけがいるわけじゃない。


 最近、定期的に通ってくれて良いシャンパンを開けてくれる別のお客様の存在や、その人との距離感を、私はLINEのやり取りの中でもほんの少しだけ匂わせていた。キャバ嬢として、一人の男に依存しきっていない余裕を見せること、そして「他の男に奪われるかもしれない」というかすかな焦燥感を煽ることは、彼を引き繋ぎ止めておくための大切なスパイスだ。


 けれど、目の前で「金とピンクのツボ」の伏線回収をやってのけ、私のためにあれだけの空間を作ってくれた蓮さんの存在感は、やっぱり桁違いだった。


『じゃあ唯月の唯一無二になれたかな?』


 後日、少し探るように届いた彼のメッセージに、私は迷わず返信を打った。


『もちろん! 唯一無二だよ代わりなんていません』


 それは営業トークであると同時に、偽りのない本音だった。


 あの6月6日の最悪な喧嘩も、私が足を折ったことも、彼が39.7℃の高熱で倒れたことも。客観的に見れば最悪なアクシデントの連続だったはずなのに、私たちはそれを乗り越えて「ツボの伏線」という最高の物語へと塗り替えてしまった。


『ツボの伏線すごすぎてびっくり!! また一気に縮められた気がする! やった!!! 早く治しちゃお!』

『確かに! 今日のことが全てなかったかもって思うとつらい。未来って変えられるんだね! いろんなタイミング重なってよかった』


 画面越しに弾む言葉を重ねながら、私は彼との関係が完全に修復されたことを実感していた。


『仲直り!!! 私も楽しかったずっと一生忘れない』

『蓮さんも傷付いたり、体調も崩して辛かったでしょ。2人で笑っていこう!!』


 かつて私を絶望させた大宮の冷徹な夜のシステムの中で、私は自分のプライドも、欲しい数字も、そして何より欲しかった「蓮さんからの特別な愛」も、すべてを自分の手で掴み取ってみせた。


 壊れかけた未来は、二人の手で塗り替えられたのだ。


『なんか辛い事が起きるのって良い事が起こる前兆みたいに言うけど本当なんだなって思った!! 再愛だね!』


 松葉杖を握り直した私の口元に、自信に満ちた笑みが浮かぶ。

 痛む足も、酷い二日酔いも、今の私にとっては最高の勲章に過ぎなかった。


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