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私、このままでは死ねない ~お幸せ令嬢プティの監獄ダイエット~  作者: いのりん


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18.私、このままでは死ねない

 少し遅めの昼食を食べ、勉強に集中したいからと部屋に一人にさせてもらった私の頭脳は、難解な法律書の前にあっさりと白旗をあげた。


 眠気に誘われるまま、ふらふらとベッドに近づき綿菓子の様に柔らかいマットレスにボフンと横になる。


「ああ、気持ちいい……香りづけはハーブかしら……食欲を増すいい匂い……」


 住めば都とはよくいったもので監獄のベッドでもぐっすりと眠れるようになった私だが、王城の客間にあるそれは次元が違う寝心地だった。どれ、ここはひとつこのまま夢世界の扉を……


「ってダメダメ!その油断が命取りィ!」


 自分を叱咤し飛び起きる。


 危ない危ない、危うく罠にかかるところだった。

 巧妙なトラップに震える。


 きっと、私はいま泳がされている。

 一度隙をみせたら最後、惰眠どころか永遠の眠りにつくことになりかねない。




 あの日農園で気を失った私はなんと丸2日も眠っていたらしい。10食も食べ損ねた計算だ……あ、監獄の食事って一日3回だったわ。

 で、起きた後すぐ王城へと連行された。ちなみに乗せられた馬車は半年前にのせられた囚人用とは違い、偉い豪奢でサスペンションもしっかりしたやつだ。お尻も全然痛くならない。ジノに聞いた話では、私のお父様は冤罪で放免され、それに伴う私の連座もなくなったから監獄に居る必要がなくなったということだった。


 その時は正直「じゃあ、何でこのまま実家に帰れないんだろう?」って内心疑問だった。けど、出迎えにリブラ皇子が現れ、しばらく後ろ盾となり私を保護すると言ってきたことや、実は王城行き馬車も彼が手配したと知ったことで色々察した。


 私を公開処刑する気満々だった皇子。彼はきっと、今からでも難癖付けて私を処罰しようとしているに違いない。そういえば私、皇子の前で魔力を使ったし、脱獄しようとしてるところも見られているのよね……それにほら、『君はこんなところで死んではいけない』とか言われた気がするし公開処刑フェチなのかも知れない。うわ、悪趣味。


 それで自分の保身のために、現在は法律書を持ってきてもらい知識武装している最中だ。


 調べたところによると元々監獄に来た理由が冤罪で、魔力に関しても教会のでっち上げがあったから無罪放免となりそうなものだけど、当時ルール違反していたのは事実だしそこが微妙な所。そんな事情から、実は私は現在『保護観察期間』に該当する状態なんじゃないかと思っている。


 保護観察というのは、罪を犯した未成年が一定期間、保護観察官のもとで更生を目指す処分を言う。そこでの生活が模範的な物であれば処分が解除されそのまま社会に戻ることができるが、逆に怠惰な生活や荒れた生活が続くようだと更生の見込み無しとして厳しい措置に切り替わるらしい。


 王城では来賓として寛ぐように言われたし、なんならもっと贅沢するように勧められた。しかし、きっとそれは建前、罠だ。本当に自由にふるまったが最後、『わがまま放題で貴族にふさわしくない』とか難癖付けられて監獄に逆戻りや、最悪公開処刑パターンもあり得る。


 そこで現在は点数稼ぎとダイエット目的で毎日仕事がないかと探し、空いた時間は理論武装するための勉学に励んでいる。先日、一度皇子から差し入れられた菓子を全て使用人に渡したのは、我ながら鋼の自制心だったと思う。何が入っているか分からなかったし、1人で平らげるのも問題がありそうだったし、一度口にするともう止まらないことが自分でも分かっていたからね。あと、周りが太れば相対的に私の太さが緩和されるという打算もあった。でも、もう一度同じことがあったら耐えられる自信はない。


 あと、ここにきてからもずっとシスターが身につけるようなローブを着させてもらっている。ベッツさんからもらったドレスもスレンダーなメイドにあげてしまった。素敵なデザインだったけど、私が着るにはサイズがちょっとね……監獄に入る前は2まわりくらい大きいのじゃないと入らなかったから……


 ただ、そんなプレッシャーを差し引いてもここの生活は悪くない。食事は美味しいし、家具は使いごごちがいいし、お願いして用意してもらったサイズフリーのローブだって良い肌ざわりだ。


 それに事あるごとに皆私の容姿を褒めてくれるのもいい。もちろん、『スリムで素敵』とか言うのはお世辞と分かっているが、言われて悪い気はしない。お陰でいい夢を見させてもらっている。

 なお、そこから急に現実を見るのは怖いので鏡は絶対見ないようにしている。とういうか、頼んで周辺から撤去してもらった。


 そんな感じだから、実家ほどの安心感はないものの監獄よりはずっといい。だから、このままここで規律を守り、模範的な生活をしながら保護観察期間が明けるのを待とうと思う。


 そんなことを考えていると、控えめにドアがノックされた。


「はい」

「プティ様、来客がいらしております。開けてもよろしいでしょうか」

「ええ、どうぞ」


 では失礼しますと扉を開けたジノに続いて入って来たのは、メリーさん、ベッツさん、そして……第三皇子のリブラだった。皇子はなんかこう、すごく真剣(マジ)な顔をしている。


「り、リブラ様……?わ、わたくし何かやってしまったのでしょうか、なにかこう、知らないうちに怒られるようなことを……?」

「怒って?とんでもない。前にもいっただろう、私は君に危害を加ようなどこれっぽっちも思っていない、ただ君にとってふさわしい場を整えたいだけだ」


 彼の口調は穏やかだ。それが逆に恐ろしい。

 だって、『私は』危害を加えないってことは、裏を返せば人を使って法を介し処することを狙っているという意味だろうし、『君にとってふさわしい場』って、きっと処刑場のことなんだもの。この男はきっと、とんでもない腹黒に違いない。


「さて、申し訳ないが、監獄内のことに加えて君の実家での様子を調べさせてもらった」

「えっ……っ」

「そして、ここにいる三人も君が実家でどんな境遇にあったかを知っている」

「ええ?!」


 淑女らしさの欠片もない、腹ペコドカ食いお脛かじり虫生活をしていたってバレちゃったんですか~!?


「それは……あの、お恥ずかしい限りです」

「そんなこと、プティ様のせいではないでしょう!」

「いいえジノ、私が悪いの……」


 気持ちは嬉しいけど、ほらリブラ皇子とか呆れて何とも言えないって顔で首を振ってるから。


「そうだよ、アンタは悪くない!」

「父親がいなければそうはならなかったはずだ」

「それは……でも、元々の原因は私にあったと言いますか」


 みんなフォローしようとしてくれているし、つい『そうだそうだ、私は悪くなーい!悪いのは娘にゲロ甘だったお父様だー!』とかいいそうになるが、皇子の前だからね。

 裁判で減刑を勝ち取るには、明らかになった過去の過失については認めて、反省・更生の姿勢を見せるのが大事らしい。


「もういい。今、その件に関して君が頑ななのはわかった。ただその上で、君の意志を確認させてくれ。嘘を言ってもここに居るメリーが見抜くから、自分の心に素直に、正直に伝えてほしい。」


 美貌の腹黒皇子にそう言われ、ドキドキしちゃう。

 えっ、なに?なにか尋問でも始まるのかしら。



「私は君の実家についてこれ以上詮索し明らかにするつもりはないという前提で問おう、キミには今後二つの選択肢がある。ひとつは、このまま成人するまで王城に残る道。もう一つは、元いたところに戻る道だ。」

「えっ……?」

「さあ、どちらを選びたい」


 4人がじっと見てくる。これは、王城で保護観察処分を続けるか、それとも、すぐ監獄にもどるか選べってことよね。

 そんなの、決まっている。ご飯も美味しくて自由も利き、周囲もちやほやしてくれる王城一択だ。


「せ、成人するまで、王城に居る方で……」



 ***


 4人が去り、部屋には再び静寂が戻った。

 ベッドに腰かけたプティは一度思考を整理する。


 とりえあえず、成人するまでは王城での生活が続くらしい。この国では18歳で成人なので、そこまでの間模範的な淑女としてすごせば保護観察期間も終わり晴れて自由の身になれるはずだ。


 まあ、王城では自由に過ごせる時間が沢山あるし、少なくない額のお小遣いも貰ってるから現時点でも自由っちゃ自由なのだがあくまでも淑女っぽく振舞う中での自由だ。実家の様に自堕落の限りを尽くせる完全にフリーダムとまではいかない。


「上等じゃない、やってやるわよ」


 これから約1年間、模範的な淑女として過ごすことで再びの監獄行きや墓場行きを逃れ、再び本当の自由を手にするのだと決意を込めてプティは呟いた。


「私、このままでは死ねない」


 なお、もしも何かの偶然でこのまま勘違いムーブが続いた場合、かなりの高確率で愛の檻にとらわれ、時にネガティブに『人生の墓場』とも形容もされる類の契約を皇子と結ぶことになるのだが、それを知る者はこの場にはいなかった。


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