10.危ないものには、近づかない
私、最近ちょっとやせた気がする。
サイズフリーのローブごしに見る分には分からない変化だと思うが、下着姿で立ったまま足元を見ると今までお腹の脂肪に邪魔されて見えなかった両足が見える様になっていた。それに、心なしか身体も軽くなった気がする。
きつめの刑務作業を率先して引き受けたり、困った人がいる時は食事を分け与えるという厳しい自分ルールを決めた甲斐があった。あと、魔力を使ってこっそりとケガ人を治療してまわった効果も出たのかもしれない。
鏡で確認したいが、監獄内にそんな高級品はないのが残念だ。
「とはいえ油断大敵、痩せるために今日は何をしようかな」
本日は週に一度の安息日。
刑務作業がお休みとなる他、模範囚へのご褒美とガス抜きのため広場などが共同スペースとして開放され、異性と交流することが認められている日だ。まあ、今まで私が出向いた事はないし今後もその予定はないんだけどね。先日、メリーさんに呼びだされて忠告もされたし。
何でも『男性囚人のボスが私に興味をもった』と噂になっているらしい。お父様、敵も多かったみたいだしその関係だろうか。変に絡まれたりしないようにちゃんと危機管理しないと……うへぇ、気が重い。
「ストレスで胃液が分泌されたのか、お腹も減ってきた……っておばか!」
まだ投獄されて半年もたっていない。多少は痩せたとはいえせいぜい豚が子豚になったくらいの変化だろうから、ここで気を抜いてはいけまい。なんとしても処刑される前に長年連れ添った皮下脂肪には別れを告げ、昔のドレスとよりを戻さねば。
そんなわけで、えいえいむんっ、と気合をいれていると採光窓から何かが投げ込まれてきた。監獄に似つかわしくない上質な紙に蜜蠟で封をされており、宛名には私の名前が書かれている。どうやら手紙のようだが送り主の名前はない。
なんぞと思いつつ内容を読み込んでいくと、『昔、世話になった借りを返したい。本日秘密の茶会に招待するので指定する場所に一人で来られたし。もし欠席する様なら貴女と親しくしている他の囚人を順次呼ぼうと考えている』という旨のことが貴族っぽい言い回しで書かれていた。
え?
これはつまり……そういう手紙、だよね?
「いやいや、流石にこれに行くのは不味いでしょ……こんなところに乗り込むなんて、しぼうフラグじゃん。でも行かない場合は最近親しくなってきた他の囚人が代わりに呼ばれるって……」
その四刻半後……私は向かった先で、強面の男たちにとり囲まれていた。
「まさか本当に一人で来るとはな。その度胸は褒めてやるよ」
わ、私のあほー!
どうやら、『魔力で治療してくれたお礼にこっそり持ち込んだお菓子をご馳走します』的な茶会ではなかった様だ。やはり人間、調子に乗って欲をかくと碌なことにならないらしい。




