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私、このままでは死ねない ~お幸せ令嬢プティの監獄ダイエット~  作者: いのりん


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プロローグ

★過日、ご好評を頂いた短編の連載版です

★マイ推し作家、中村颯希先生の作品群から多大な影響を受けています(拙者、『無欲の聖女』大好き侍に候)

★だから、完結まで毎日二話ずつ投稿も真似しちゃう


 囚人護送用の馬車というのはどうやら、貴族用のものとは違いサスペンションがだいぶお粗末らしい。

 だって今、整地されている道を走っているというのに、結構な振動があるもの。


 そんなガタゴト揺れる馬車の中で、カチカチと歯を鳴らしながら私は呟いた。


「このままでは死ねない」


 車内には熱がこもり若干蒸し暑い……にも関わらず、私がかいているのは冷や汗だ。

 恐怖によって震える身体。

 それに伴って、二の腕についたセルライトもプルプルと揺れる。


「たとえ死は避けられないとしても、このまま死ぬわけにはいかないわ。誇りのために、絶対に……」


 平民の方は中々理解出来ないみたいだけれど、貴族というのは自分の命よりも、誇りを大切にする生き物である。


 誇りを重視しすぎた結果、屋敷や庭や調度品にバンバンお金を使い借金を重ねた貴族が破滅したという話もよく聞く。


 え、それは誇りというよりも見栄じゃないかって?

 私も今、それちょっと思った。


 とまあ、私もそんなどこにでもいる見栄っぱり貴族の一人娘なんだけど、先日お父様が緊急逮捕され、私も連座になってしまった。

 お父様は否定していたけれど、憲兵隊が言うにはどうやら裏で散々悪どい事をしていたらしい。


 まさか、という気持ちになった。

 私にとっては優しく素敵なお父様だったから。


 しかし心のどこかで、やっぱりね、と腹落ちしたこともまた否定出来ない。


「だって、不出来な娘に甘い成金男爵なんて歌劇では大体悪役だし、ちょっと悪いことしてたのは私も知っているし、とういうか共犯みたいなもんだし……きっと他にも色々やってたんだろうなぁ」


 お母様を亡くした後、後妻を迎えることもなく、私を溺愛してくれていたお父様。

 国は十五を過ぎる前には娘をデビュタントさせることを推奨するが、彼はいろいろ理由をつけて無視していた。

 そんなお父様の「プティはお嫁になんて行かなくていいからね、ずっと家にいていいんだよ」という言葉に甘えて、生まれてから今まで16年もの間、引きこもり&脛齧り生活をしていた私だからこそわかる。


 我が家は長年、男爵家には分不相応すぎる絢爛豪華な生活をしていたのに、全然お金に困った様子がなかった。

 それこそ、幼い頃に一度だけお邪魔した王城のそれ並の調度品を揃え、毎食高価な物ばかり食べていたのにである。


 しかし現在、そのツケで私はとっても困っている。

 なにせ、一族連座として私も一年間の懲役の後、広場で衆目監視のもとギロチンにかけられる事が決まってしまったのだから。


 非常にまずい。

 貴族の誇り的な意味で、非常にまずい事態になってしまった。


 罪人として処刑される事が?ノンノン。


 命惜しさこそあるが、処刑される事自体は貴族の誇り的にはセーフ案件。

 なにせ、上手く最後を飾った令嬢などは『悪の華』とか持て囃されたりもするのだから。

 過日、処刑の時刻を告げる鐘の音を聞いて『あら、おやつの時間だわ』と言ってのけた令嬢なんかは特に大人気で、歌劇にもなっている。


 だから問題はそこではない。

 問題なのは、貴族の女はもれなくミスコン強制参加のルッキズム全盛のこのご時世に「でもそんなの関係ねぇ!大丈夫大丈夫!」とデビュタントもせず毎日美食や絶品スイーツを心ゆくまで堪能していた今の私のお幸せ(ハッピー)な外見である。


 勿論私とて年頃の乙女。

 鏡で、美形の両親から受け継いだパーツの良さを台無しにするドスコイな頬や顔や雪だるまのような体型をみてヤバいと思ったことは何度もある。

 過日、お世話してくれるメイドが陰で「ピンク髪で丸顔で……プティお嬢様ったらまるで子豚さんみたいねぇ」と話すのを聞いてしまい、ベッドで一人頭を抱えたことも。


 カレーは飲み物!とばかりに、毎日目の前にあるものをたらふくお腹に詰め込んで血糖値スパイクで酩酊しながら牛になるのが身体に悪いことも分かっていた。


 飲臥応膨(いんがおうほう)と言われたらその通りだ。


 だが敢えて言おう。

 止まれなかったのは私のせいじゃない。


 あるのがいけない!

 あるのがいけない!


 大事なので2回言いました。



 そんなドカ食い大好き腹ペコお脛齧り虫の歴史を物語るのが、現在の私の体型。

 このまま衆目環視の下で処刑されたら『あの太っていた人』として、語り草になってしまう!

 それだけは絶対に嫌だ!



「どんなに素敵な決め台詞だって、誰が言うかによって全然印象が違うものね……」


 呟きつつ、かつて鑑賞した歌劇のクライマックスを、自分を主人公に置き換えてイメージしてみる。



 それではご清聴下さい。


 ~悪の華。主演:プティ・ロースターVer~


 ***


 人生最後の日。広場に集まったのは怒れる民衆たち。

 囃し立てられ罵倒される中、ピンク色の髪をした貴族の少女は一切動じる様子をみせない。凛とした態度で、逆にカリスマ性すら感じさせる足取りで処刑台へとのぼる。

 罵声から一転、「この女はただ者ではない」という雰囲気になり唾をのむギャラリー。

 終わりを告げる鐘がなる。

 彼女は民衆などには目もくれず、散り際に一言


「あら、おやつの時間だわ」


 切断音と共に舞台が暗転、〆のナレーション。


 後に人々はこう語る。


『アイツ、どれだけ食い意地が張っていたんだ……』


 ~fin~


 ***


 あかん!

 これじゃあデビュタントならぬデブ担当……ってやかましいわ!


「で、でも大丈夫、監獄に絶品スイーツはないもの。そうよ、処刑台に登るまでの間に痩せることが出来れば……」


 私が処刑されるまで後一年。

 しかし逆に言えば残り365日もある!

 クヨクヨしていても仕方がない。逆にプラスに考えよう、今から私がドナドナされる場所は、望む結果にコミットするダイエット施設であると。


 むん、と両手でファイティングポーズ。

 そして試合前の減量に臨む拳闘士(ボクサー)がごとく、気合を入れて宣言した。


「やってやる、絶対に痩せてみせるわ。」


 昔のドレスとよりを戻してみせると不敵な笑みを浮かべ、ペロリと唇を舐める。

 口の端についていたチョコレートの味がした。甘い。

投稿時間は8時と20時です

初日、二日目、最終日前日、最終日は12時にも投稿します

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― 新着の感想 ―
悪の華といえばBUCK-TICK
その歌劇、連作「悪○召使」「リ○レット・メッセージ」って続くんかなぁ…。「茶○カプリシオ」も好きですよ…。 果たしてプティちゃんは紡ぎ上げる物語は、茶番となるか歴史となるか…。
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