第三十六話 ダンジョンの断罪4
ガルドの犠牲により、俺たちはダンジョンを先に進んだ。
俺たちパーティーは沈痛な雰囲気に包まれていた。
すでに二人のメンバーを失ってしまった。
斥候リネット、そして重戦士ガルド。
短い付き合いではあったが、悪い奴らではなかった。少しでも見知った者たちが死んでしまうのが、ここまで精神的に堪えるものだとは……
その上、俺たちはまだダンジョン攻略と聖女救出の途上なのだ。このような事態になっても、ダンジョンから退くこともできない。
近接戦闘では最強クラスの「剣姫」クローデリアがいるので、魔物相手に遅れを取ることはないだろう。
しかし、トラップだらけのこのダンジョンで、トラップを検知し、回避する斥候がおらず、高い防御力でトラップを防げる可能性がある重戦士までいなくなってしまった。
これからはトラップにかかってしまう覚悟をしておかなければならない。
万が一そうなれば、神官セシルの治癒が生命線になってくるだろう。
最大限の注意をしながら俺たちは進んでいく。魔物が出れば、俺がその姿を視認する前にクローデリアが瞬殺する。
奥に進んでいくと、扉に行き当たった。
その扉には何か見慣れない文字のようなものが刻まれていた。
「古代魔法文字ね」
ノクティアが文字を見て言う。
「トラップのヒントか? 何と書かれているかわかるか?」
「ちょっと待って……。『正義と善意は悪』と書かれているわ」
謎かけ?
「どういうことだ……」
「わからない」
ノクティアが呟く。
わからずとも進む以外の選択肢はない。
そして現状のパーティーのメンバーを見たところ、犠牲となっても最も影響がないのは……
「俺が開ける」
そういうと同時に俺が扉を押し開けた。
「待って!」
クローデリアが叫ぶが、もう遅かった。
扉を押して開けると、扉一面から細かい針のようなものが剣山のように飛び出してきた。
「いてぇ!」
「ユウマ! 大丈夫?」
クローデリアが心配そうに俺の顔を覗き込んでくるので、笑顔を向ける。めっちゃ痛いけど。
「ぜんぜん大丈夫だ。俺は『断罪の使徒』Xだ」
この期に及んで名前を気にしてしまう俺。
「中は何もない。入ろう」
痛みを誤魔化すように俺は他のメンバーを促す。
扉の奥は部屋になっており、中央に祭壇のようなものがあった。
部屋の四方には扉のようなものはなく、聖女エリシアの姿もない。
「くそっ、行き止まりか」
せっかく手を痛めて扉を開けたのに。
「いや、待て。祭壇に何か仕掛けがあるんじゃないか?」
ノクティアが言う。
俺が率先して祭壇に手を当て、何かないか探る。
「ユウマ、もう少し慎重に……」
クローデリアが声をかけてくるので、「俺は『断罪の使徒エック……」と言いかけたところで足の力が抜け、転倒してしまった。「エック」って……
それにしても手が痛む……。
「毒か、あるいは呪詛の類いかもしれないですね」
神官セシルが言う。
「信用できないと思っていましたが、見直しましたよ。危険を省みず、自ら扉を開き、何があるかも知れない祭壇を率先して調べるとは。まるで我々を危険から遠ざけてくれているようですね」
何か褒められている気もするが、そのセシルの声も遠くで聞こえているような感覚になっていく。
セシルがごにょごにょ何か言っているようだが、もう何を言っているかわからない。
俺もいよいよここまでか……。
願わくば、他の皆……少なくともクローデリアは無事にこのダンジョンを脱出して欲しい。
「浄化」
あれ……なんか気分が良くなってきたぞ。
足にも力が入ってくる。立てそうだ。
「浄化魔法が効きましたね。よかった」
セシルのごにょごにょは詠唱だったのか。助かった。
「ありがとう」
素直に感謝だな。
「私は正しいことをしただけです」
そうセシルが言うや否や、セシルが白く光り出した。
後光がさしたか……と思ったが、光っていたのは祭壇の方だった。
……いや、やはりセシルも光っている。
光りすぎている……。
「おい、セシル……」
完全に光に包まれたセシルの姿は直視もできないほどになった。
やがて光が収まると、そこにセシルの姿はなかった。
轟音が鳴る。
祭壇が地中に下がっていき、下へと続く通路らしきものが現れた。
「善意」によって俺を治癒するという「正しい」行為をしたセシルが、隠し通路を開くための贄になったということか……




