第三十話 宣戦布告の断罪
王城前広場に集まった観衆はまばらだった。
人々は「反断罪戦線」を恐れ、断罪見物を控えているのだ。
断罪見物を愛する俺としては、とても悲しい事態だ。
宰相ジークフリートは、勇者ソウマを捕らえた後に言った。
「公開断罪を行う。これは宣戦布告だ。『反断罪戦線』に屈せず、我々は断罪を続けていくことを宣言するのだ」
そしてすぐにこの断罪の場が用意されたのだ。
断罪台には腕を縄で縛られた勇者ソウマ、そしてジークフリートが上がった。勇者よりも強い「剣姫」クローデリアも、ジークフリートの背後で待機した。
「我々は、いや、この王国は、『反断罪戦線』には屈しない! ここにその一員である勇者ソウマを断罪する」
集まった少ない観衆が大きく歓声を上げる。今日集まっているのは、俺のような熱狂的な断罪ファンたちなのだ。もちろん俺の父も断罪台の前の最前線にいる。
「この者は偽聖女の容疑がかかっていた聖女エリシアを断罪の最中に誘拐し、『断罪』そのものを、つまり王国法自体を否定した。これは王国の治安を脅かす国家反逆罪だ」
ジークフリートは険しい顔でソウマを睨んだ。
「何が断罪だ!」
ソウマがジークフリートを睨み返して叫んだ。
「人の過ちを晒し、自分は無関係だという顔をして非難して、おまえらは非難される側の人間の気持ちを考えたことがあるのか?」
非難される者の気持ちがわかるから、罪も犯さず、目立たないようにモブ平民やってんだよ!と俺は心で叫ぶ。口には出さない。
「私もこの断罪の姿が絶対に正しいことだとは思いません。ですが、重大な罪を世に知らしめ、少しでも罪を抑制できるように王政府が考えた仕組みなのです。
それに、『人の気持ちを考えろ』とは言いますが、その言葉はそっくりそのままあなたに返しましょう」
ジークフリートが紙の束を手に取り、掲げた。
「このとおり、以前から、勇者ソウマに関する陳情が数多く届いていました。『勇者特権と言って、金を払わず店の物をとっていく』『態度が気に食わないと殴られた』『妻が気に入ったと手を出してきた』。こんな陳情がいくつもいくつも届いています」
「それの何が悪い? 僕は勇者として命をかけて魔物を倒し、おまえらを守ってやっているんだ! 対価をもらっているだけだ! 断罪なんかではなく、勇者の活躍をもっと見ろ!」
ジークフリートが呆れたようにため息をついた。
「あなたは、いえ、『反断罪戦線』は自由と博愛を何か履き違えているようです。中途半端に勇者の力を授けられて勘違いして好き放題やることを『自由』と言うのですか? 手当たり次第、女に手を出すことを『博愛』と言うのですか? 断じて違う! あなたのように腐った思考を持った強者から弱者を守るための断罪なのです!」
いつも冷静なジークフリートが熱くなっている……
観衆もジークフリートに同調し、怒号を上げ始めた。実際に被害に遭ったものも少なくないのだろう。
熱気に引き寄せられるように、人々が次第に王城前広場に集まり始め、以前のような人だかりになってきた。
「くそっ! こうなったのもあのモブ平民のせいだ。どこだ? その中で俺を見て笑っているのか? 出てこい! 殺してやる」
なぜか誰よりも俺のことを憎んでるね。
そのとき、クローデリアが俺の手を掴んだ。そして手のひらに何かを押し込む。
「ミスリルの破片よ。使って」
クローデリアは相当あの勇者が嫌いらしい。
俺はクローデリアに頷く。
俺はミスリル製の砕けた石片を固く握りしめる。
久しぶりに気持ちのいい断罪となりそうだ。
俺はスキルに設定する罪状を考えるが、勇者ソウマの罪状が多すぎて迷った。
——いや、簡単なことか。純粋な「悪人」を断罪するだけだ。
俺は深く息を吸い込む。
「クズ勇者め! 引っ込め! 『断罪の石投げ』」
腹の底から声を出し、ミスリルの石を投じた。
もしその石が自分に返ってくるのであれば、俺は即死だろう。それはそれでいい。あの勇者が悪人ではなく、俺のほうが悪人なのであれば、速やかにこんな異世界から退場しよう。
美しい弾道を描いて石はまっすぐ断罪台に向かう。
勇者ソウマと目があった、その瞬間——ミスリル石がソウマの眉間にヒットし、めり込んだのが見えた。
そして、ソウマが膝を落とし、前に崩れ落ちた。
俺とクローデリアは目を見合わせ笑った。
「死にはしないでしょう。勇者様ですからね」
「断罪の刃」パーティーによる、本日二度目の勇者討伐で、勇者の断罪は幕を閉じた。




