第二十八話 大捜索作戦(前編)
「クローデリア様、一体何があったのですか?」
今度は聖女エリシアが誘拐され、手がかりはクローデリアしかない。そもそもエリシアは断罪されるべきだったのか?
「この間、ユウマが公爵家で食事をする前のことなんだけど、エリシアを呼びに行ったときに、食事の後に外出するよう言ってきたのよ。お父様が私に秘密の用事があるとかで。それでユウマと別れた後に、帰ろうとしたらお父様に拉致されたの」
うんん? またよくわからんぞ。
「お父様が拉致ってどういうことですか?」
「馬車に乗せられて、ちょっとね……お父様、すごく怒っていたわ」
「なぜです? 公爵に何があったんですか?」
「違うの。ユウマが私を抱きしめていたのを見てしまったらしくて。『あの男は何なんだ。はしたない』って」
俺の記憶では、抱きついてきたのはクローデリアの方だったと思うが!?
「ちゃんと責任を取ってもらわないとどうなるか……お父様怖いから……」
「責任って……」
平民が公爵令嬢にどう責任を取れると!?
「真剣に考えてね」
何を?
「それで公爵はなぜクローデリア様を拉致したのですか?」
俺が尋ねると、クローデリアが気まずそうに顔を伏せた。
「……ユウマには言えないわ。機密事項なの。でも反断罪戦線とかいうのとは関係ないから」
そう言われると改めて貴族と平民の差を思い知らされるな。
「わかりました。クローデリア様を信じます」
クローデリアは申し訳なさそうに「ありがとう」と言った。
※
ジークフリートとクローデリアも個別に話をしたようだが、ジークフリートも十分な手がかりは得られなかったようだった。なお、ジークフリートには「機密事項」の内容も話したそうだ。
そのすぐ後に、宰相ジークフリートの号令で急遽冒険者たちが招集されることになった。もちろん、聖女エリシアと、彼女を誘拐した仮面の人物を捜索することが目的だ。
冒険者ではない俺は帰ろうとしたのだが、クローデリアに止められた。
「ユウマも冒険者になるのよ」
そう言うクローデリアの目はいつになく真剣で、殺意すら感じるほどだった。怖くて仕方がなく、自然と俺は首を縦に振っていた。
冷静になって後から考えても、公爵令嬢でA級冒険者のクローデリアが、社会的にも肉体的にも俺を殺すのは容易なはずだったので、断りようがなかった。よくわからない「責任」を取れとも言われたので、背後の公爵も怖かった。
そんなわけで王都の冒険者ギルドであっという間にクローデリアが書類をまとめ、ものの10分で俺は冒険者パーティー「断罪の刃」の一員となってしまった。書類は不備だらけで、受付嬢が申し訳なさそうにつき返そうとしたのだが、たまたま居合わせたギルドマスターがクローデリアの姿を認めると、俺ばりの卑屈な笑顔を浮かべて、なぜか無条件に「受理」とされた。
そして気づけば俺は王城前広場で冒険者として立っていた。
ヤジと石しか飛ばせないのに。
王城前広場に集まった冒険者たちは、見るからに強そうな者たちばかりだった。
「上位ランクの冒険者ばかりだわ。『勇者』もいるわね」
クローデリアがぼそっと言った。
「勇者……?」
勇者とか本当にいるのか……? もしかしたら同じ転生者なのか?
「こっちに来るわ。面倒なのよね……」
「何が面倒なんです?」
俺がそう尋ねているところを遮るように、勇者がクローデリアに声をかけてきた。
「クローデリア様!」
クローデリアの顔に露骨に嫌悪と警戒の色が浮かんだ。最近は彼女との距離が近すぎて忘れていたが、クローデリアはもともときつい感じの性格なのだ。
「クローデリア様、今日もお美しい」
近づいてきた勇者が、満面の嫌悪顔のクローデリアに言う。人の気持ちを無視することに長けていると見える。
「ところで、勇者パーティー入りのことは考えていただけましたか? あなたと僕が組めば、王国民の人気と支持を集めて、大きな成果も挙げられると思うのですが……」
「勇者様、申し訳ございませんが、私はソロ……あ、新しい冒険者パーティーに加入しましたの」
10分前に結成したパーティーのことをもう忘れそうになったか……
「えっ……」
勇者の男の表情が露骨に不快感を示す。あんたら感情剥き出しにしすぎだ。
「どこのパーティーです? 『紅蓮の狼』ですか? 『蒼の雷槍』ですか? なぜです? 勇者パーティーのほうがどこよりも大きな功績を得られるはずです……」
「『断罪の刃』です」
「……聞いたことがないですね。どんなパーティーなんですか?」
勇者は追求の手を緩めない。
「どんなパーティーかですって? それは……魔物も人間も関係なく悪いやつを断罪するパーティーに決まっているではないですか」
クローデリアが当然だろうとばかりに返した。
「パーティー構成は?」
「なぜそんなことまで話さないといけないのかしら」
「なぜって勇者パーティーを蹴ってまで『剣姫』が他のパーティーに加入を決めた理由を納得したいからですよ」
もうそれ以上ハードル上げるのやめて……
「あの……俺がそのパーティーのメンバーです。一応、後衛の攻撃職的なやつです」
ヤジと石を投げるだけだけど。
「おまえが……」
勇者が俺をじっと見る。
「こいつ、ザコじゃないか。『断罪見物人』? なんだそのふざけたジョブは? スキルは罵声と石投げで、ステータスも平民並み……おまえ、ただのモブ平民じゃないか! なぜおまえのようなやつが……転生者か?」
ステータスも身分も見られるのか……くそっ。
「はあ、まあ、そうです」
「転生者がなぜそんな低いステータスでゴミスキルしかないんだ? 何か隠しているのか?」
「安全なところからヤジと石を投げたいだけなんで……勇者様みたいに危ないことはちょっと……」
勇者は改めてクローデリアのほうに向き直った。
「なぜこんな志の低いザコモブを『剣姫』のパーティーに入れたんです?」
……こんな辱めを受けたくないから、目立たないようにモブ平民やっているっていうのに……俺は、おまえのように偉そうにしているやつがうっかり悪いことに手を染めて断罪されるのを、離れたところから見てヤジと石を飛ばすのが生き甲斐なんだよ!
「そのような失礼な物言いはおやめください。
彼が私のパーティーに入ったのではなく、私が彼のパーティーに入ったのです。リーダーはこのユウマです」
そうなの? 無理やり冒険者にさせられただけじゃなくて、勝手にリーダーにされちゃってるの?
「ユウマは私を何度も救ってくれた恩人なんです。それにあなたが思うよりも有用なスキルを持っていますのよ。後衛の攻撃職としてもたぶんとても頼りになりますのよ」
挑発はもうやめてください。あと「たぶん」って小さく言ったね。
勇者が俺を睨む。鋭い眼光に睨まれるだけで、致命的なダメージを喰らいそうだ。きっと勇者とモブ平民の間にはそれくらいの力の差があるに違いない。
そして勇者は俺に言う。
「貴様、覚えておけよ」
……何を?




