平木直太のクソ推理
「童貞が誰かわかったぞ!」
俺は叫んだ。
対象者の五人は目を丸くした。
《ほう。それは早いな。ちなみに最終アンサーは規定の解答用紙に書いて提出するルールとなっている。解答用紙はタイムアップ五分前にしか渡さない。まだ時間はたっぷりある。焦る必要はないぞ》
「いや、もうわかった。これしか考えられない」
《もっとじっくり聞き取りをしないと何もわからないぞ》
「どうしても言いたいんだ」
《そうか。じゃあ勝手にすればいい。話すのは自由だ》
「平木さん。大丈夫なのかい?」
近藤が不安げに聞いた。
「あのさあ、僕、まだ話してないんだけど」
今市もそう言った。
「大丈夫です!」
俺は名探偵よろしく、一つ咳払いをした。
「ではまず、福助の言った問題文からおさらいすることにしましょう。『この五人の男の中に一人童貞がいる』この言葉こそが、実は引っかけだったのです」
《待て。私は――》
福助が何か言いかけたが、俺は構わず続けた。
「この五人の男とは誰を指すのか。俺はてっきり対象者の五人のことだと思い込んでいました。それが間違いだったんです」
《おい待て。どういうことだ?》
「小野寺純。あなたは女性ですね」
俺は小野寺を指さした。
「あなたは身長一六〇センチ代。細身でかわいらしい顔をしている。服装や髪型次第では男性でも女性でも通用する。もう一人、ホストの黒咲さんも女性のようなきれいな顔立ちではあるが、一八〇近い長身で筋肉質。女性というには無理がある。ともかく、対象者五人の性別の内訳は、四人の男性と一人の女性で構成されていたのです。しかしこれは、嘘をつかない福助の『五人の男』という言葉と矛盾する。ということは、この部屋の中にもう一人、男性が隠れているということになる。だから俺はいくら尋問しても童貞を見つけられなかったのです」
俺は茫然としている対象者達に構わず、早口でまくし立てた。
「俺が、純君は女性であると疑ったきっかけは、純君の彼女の名前でした。彼女の名前はナツキだが、手記の朗読を聞いている限りでは、音だけでそれをとらえている。だから先入観で、奈良の奈にムーンの月で奈月、などと勝手に字を当てて想像していた。しかし、ナツキという名前の漢字が、季節の夏に樹木の樹の『夏樹』であれば、たちまち男性の名前になる。一方、純という名前も男性でも女性でも通用する。もし純とナツキの性別が逆だったら。そう考えて初体験の手記を振り返ると、見える景色がまるで変ってくる。巧妙にごまかしてはいるが、自分のことを、僕、という女性がいてもおかしくない。雨でインナーが透けたとは言っているが、キャミソールやブラが透けたとは言っていない。最近の若者は、男性でもTシャツの下にインナーを着ることも多いから、男性のインナーが透けて見えてもおかしくない。また、ポンパドールは男女両方のパターンがある髪型だ」
小野寺は言葉も出ない様子だ。
「そして、分岐点の交差点から二人でマンションへ向かう場面だ。女性である純ちゃんが、彼氏の夏樹君の手を引っ張って自宅に連れて行く。夏樹君はその握力に、痛いよ、と言う。俺は、純ちゃんの体験談を途中までしか聞いていない。これが失敗だった。おそらくその後、夏樹君が純ちゃんに挿入するシーンが出てくるに違いないのです。小野寺純が女性であることを踏まえた上で、ゲームの解答に戻ります。では、五人目の男は一体どこにいるのでしょうか」
俺は勿体ぶった後、こう言い放った。
「それは、この部屋を見ればわかる(図1)。あそこだ!」
俺は対象者の後方の壁を指さした。
五人が一斉に後ろを振り返った。
そこには、壁が一部分出っ張っている箇所があった。
「あの柱の中に童貞が隠れている! そうだろ。福助!」
図1 ゲーム室の見取り図




