小野寺純の性体験の聞き取り④
「僕はナツキの唇に――」
「ストップ!」
俺は小野寺の朗読を遮った。
「長すぎる! とりあえず一旦終了」
小野寺はきょとんとした表情でこちらを見て、「はあ、わかりました」と、手記を丁寧にたたみ直した。
「それで、簡潔に言うとセックスして童貞を卒業したんだな?」
「はい」
彼は自信ありげに答えた。
続きを聞いてみたい好奇心。ゲーム時間が浪費された焦り。自分ができなかった憧れの状況で、この少年が童貞喪失したという妬ましさ。俺の心の中は、そんな複雑な感情が渦巻いていた。
俺は手元のメモ帳を見返した。
彼の今の話は真実だろうか?
小野寺純君とナツキちゃんは最寄り駅が同じで、体育祭の準備の後一緒に帰ったりしたことがきっかけで仲良くなった。
今は九月だ。三か月前から付き合いだしたということは、六月から、ということになる。しかし、体育祭というと秋にあるイメージだ。年間行事予定を組む際、わざわざ梅雨の時期を選ぶだろうか。それに六月は、部活によってはインターハイ予選などで忙しい時期でもある。そういう違和感はある。だが「うちの学校では六月にあります」と言われればそれまでだ。六月に体育祭をする高校があってもおかしくはない。
そして、夏祭りの日にキス。
夏祭りは七月か八月にある。キスから一、二か月後に初体験。時系列的にはこれもおかしくない。社会人と高校生の一か月の長さの感覚は全く異なることを考えると、特段恋の進展スピードが速いとも思われない。
初体験の日、彼らは映画を見に行ったが、玉川上水駅に映画館はない。手記の最初に玉川上水駅に戻って来たという描写もある。玉川上水駅は、確か西武拝島線と多摩都市モノレールの二線が利用できる。もし電車を使って映画館に行くなら、立川か昭島あたりが近い。もし小野寺がこのことを正確に答えられなかったら、手記は創作の可能性も否めない。
「純君。初体験の日に行った映画館、観た映画、上映開始時間を教えて」
小野寺は俺の問いに答えた。
これがでたらめなら俄然小野寺は怪しくなるが、当然それを指摘できるほどの映画情報は頭に入っていない。日常生活でいかにネット検索に依存しているか痛感する。
「福助!」
裏を取るにはこいつに頼るしかなかった。




