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無力な少女

「お前は鼻が利くと聞いたが、血筋に獣人がいたのか?」


 城内を歩いているとローウェルさんが、後ろから声をかけてくる。

 その話はアルフリードさんからだね。あまり私の事は話して欲しくはないんだけどねぇ……

 ちなみに先頭をアルフリードさんが歩いていて私は真ん中だ。

 何かあったら逃さないぞ、って空気がひしひしと伝わってくるよ。


「そうかも知れませんね」

「知らないのか? 自分の事だろう」

「平民に血統書のような物があるとでも? そんな物、生きるのに何の役にも立ちませんよ」

「そうか……だが、どちらにせよ、それは隠しておいた方が良い。獣人を彷彿とさせる能力を見せられたら、快く思わない者は多い」

「……ご忠告感謝致します。私も自分からバラすような事はしないのですけどね」

「う……すまない」


 アルフリードさんが呟くように謝る。

 特に何も聞いていないけど、そうやって少しくらい気にすれば良いんだ。

 私の事を勝手に話たんだから私はもっと怒っても良いはずだけど、これくらいにしておいてあげよう。優しくなったな私。


 相手がローウェルさんじゃなかったらヤバかったかもだけどね。いや、まだ分からないけどさ。

 今の獣人の発言からして、一応変に絡まれないように気を遣ってくれているのかもしれない。


 怖い雰囲気を持っているけど、実は優しい人なのかも。


 まぁ、私はそれくらいじゃデレませんけど!



 私達は城内を練り歩いていると、前方から派手な服を着た人がやってきた。

 派手な人は何人かの取り巻きを連れていて、見るからに偉そうな感じだ。


「チッ……なんで今日に限って、こっちにやって来るんだ」


 ローウェルさんがボソッと文句を言っているくらいなので、好意的な人ではないのかもしれない。


 気を利かせて廊下の隅にでも寄ろうかと思ったけど、一応私はアルフリードさんの妹という設定なので辞めておいた。


「おやおや……ローウェル隊長ではないか。これは手間が省けた」

「私に何か御用でしょうか? ゼブルス団長」


 ローウェルさんが私とアルフリードさんの前に出る。

 団長とな? つまりローウェルさんの上司で騎士のトップという事?

 このゼブルス団長とかいう人は、偉そうではあるけど、そこまで強そうには見えないんだけどな。

 騎士団だからって、必ずしも強さが必要って訳でもないのかな?


「惚けるのは無しにしよう。今日の早朝にマックレー伯爵の屋敷に押し入ったそうだな」

「押し入ったとは穏やかではありませんな。我々はマックレー伯爵の行方が分からないと報告を受け、迅速に行動したまでです」


 なんだろう……。

 ローウェルさんが言うと胡散臭いね。

 あと話し的に、私が仕留めちゃった貴族はマックレー伯爵って言うみたいだね。

 今度からは先に名前を聞いておかなきゃダメだね。失敗失敗。


「それなら何故、私に報告がこなかった?」

「どこかで連絡が途切れてしまったのでしょう。行方が分からなくなってから、そこまで時間が経っていないようでしたので我々も慌てていましたから。今後はそのような事がないよう気を付けましょう」

「ふん……それなら独断で動いたとして貴様の隊は一週間の謹慎を言い渡す。貴様も報告書と一緒に始末書も提出して貰うぞ……。それとマックレー邸から持ち出した物は、速やかに私の部下に渡すのだ」

「承知致しました。すぐに手配します」


 ふむ……。

 これはローウェルさんを毛嫌いしているだけなのか、それとも団長もマックレー伯爵と同類なのか……たぶん後者なんだろうなぁ。


 そっか、騎士団のトップもダメだったのか。

 アルフリードさんは良く無事だったね。


 すると団長が今度は私に視線を向ける。


「何故ここに部外者が居る?」


 団長の値踏みするかのような視線に、思わず後ずさりたくなる。

 我慢だ。ここは我慢。


「彼女には、彼の補佐について貰っております」

「ほう……彼は?」

「騎士オーベルです。以前、アルクーレでの功績を鑑みて、彼女と共に独自に魔薬調査を行わせています」

「なるほどな……」


 団長はチラッとアルフリードさんを見た後、また私を見る。


「だが、この娘には騎士を補佐するだけの能力があるとは思えんが? まだ幼くも見える」

「懸念はもっともですが彼女は有能です」

「そうか」


 団長がローウェルさんの言葉に頷くと、私に近づいて来た。

 目の前まで来ると、団長が私の顎をクイっと持ち上げた。

 顎クイとかやめてください。


「そこの小僧より私の方が貴様を満たしてやれる。どうだ? 私の所に来る気はないか?」


 これは私の能力目当ての勧誘?

 それとも別の目的……?


 移るつもりなんて無いんだけどね。


「せっかくの申し出ではありますが、私にはこちらの方が身の丈にあっていますので……」

「そうかそうか。では、いずれ私のモノになれるよう、今のうちに磨いておくと良い」


 団長はそう言うと私の顎から手を離して、横を通り過ぎる。


「――っ?!」


 団長が横を通り過ぎた時に、私の可愛いお尻を触られた。

 なんだ、あの人。

 貴族で騎士団長なのに痴漢行為に手慣れ過ぎでしょ……


 あー……鳥肌たった。


「ふぅ……いつもは仕事しないんだから、大人しくしていれば良いものを……」

「あんなに間近でお会いした事がなかったので緊張して、何も喋れませんでした……」

「下手な事を言って目を付けられるよりはマシだ。アイツは若い女は好きだが、若造が嫌いだからな」

「そ、そうですか……。って、シラハはどうしたんだ? 随分と目付きが悪いけど」

「お尻を触られたので、怒りと嫌悪感と殴りたい衝動と戦っているところです」

「すまない……僕のせいで」


 アルフリードさんがシュンと項垂れて落ち込む。

 別にお尻を触られたくらい、減るもんじゃないし気にしなくても良いのに……気分は最悪だけど。

 ただ私が精神的にゴリゴリと削られるだけだから……

 相手を殴れれば、いくらかはスッキリするんだけどねぇ。


「あの色ボケ団長め。……お前は、よく我慢したな。以前アレに平手をかました令嬢なんか、三日後に行方不明になったからな……」

「その方は、どうなったのですか?」

「…………俺は直接関わっていないから詳しくは知らないが、その令嬢は魔薬漬けにされて、下町の路地裏に捨てられていたらしい。性的暴行もされていたとか言われていたが、アレが関わってるのなら、まぁ本当なんだろうな……」

「その方の……その後は?」


 ローウェルさんは一瞬険しい顔付きになる。

 あまり軽々しく話して良い事じゃないもんね。


「同じ女としては、辛い話だぞ?」

「同じ女として聞かなければいけないと思います」


 ローウェルさんが呆れたように溜息を吐いた。


「令嬢はもはや廃人だ。毎日のように薬を求めて部屋で暴れていると聞く。……それと時折、性的暴行をされた時の事を思い出して、泣き叫ぶ事もあるらしい」

「思ったより詳しいんですね」

「…………俺の知り合いの妹でな。そいつから時々、手紙が送られて来る」

「仲がよろしいんですね」

「良かった、だな。今じゃ手紙には恨み言しか書かれていない」


 地雷だった……

 私もそこまで聞くつもりじゃなかったんだけど……


「ですが、その令嬢が襲われたのは隊長のせいではないです!」


 アルフリードさんが、ローウェルさんをフォローする。

 その通りなんだよね。

 なんで、その人はローウェルさんを恨んでるんだろ?


「その妹が俺に会いに来たらしいんだ。そこでゼブルスの目に止まってしまったんだ」

「それは……」


 それは不運だとしか言えないね。

 あの団長の立場を考えると下手には逆らえないし、ローウェルさんがいない所で遭遇したらアウトかも……

 って、そうなると、もしかして……


「もしかして、ローウェル隊長が一緒に行動しているのは、私達を守る為ですか?」

「……違う。怪しい人間を城内で歩かせられないからだ」


 ローウェルさんが、そっぽを向く。

 やっぱり、この人も良い人っぽい。


「でも、そのおかげで私は助かりました。ありがとうございます」

「アイツが好き勝手やっているのが気に食わないだけだ」


 それでも私達が助けられた事には変わりない。


「では隊長は、その薬漬けにされてしまった令嬢を治す手立てを求めているのですか?」

「魔薬なんて無い方が良いとは俺も思っているが、一番の理由はそっちだと言ったら軽蔑するか? 自分の事しか考えられない小さな男だと」

「思いません。自分も同じ立場なら同じ事をしたと思います」


 アルフリードさんが私の方を見る。照れるな……

 しかし、廃人となってしまった人の治療法か……


「薬漬けになってしまった場合、脳の奥底に薬を求めてしまう欲求が刻み込まれてしまいます。なので体から魔薬が抜けても、不意に魔薬を求めてしまう事があります」

「……随分と詳しいな。お前は、その知識を何処で手に入れた?」

「私の生まれ故郷では、わりとありふれた知識ですよ」

「お前の故郷は何処にある?」

「この世界の何処にも存在しませんよ……」


 ローウェルさんが沈黙する。

 私の言葉を疑っているのかは分からないけど、私がこれ以上喋るつもりがないと察してくれたのかもしれない。


 私も、あまり前世の知識をひけらかすつもりはないのだけれど、ローウェルさんの話を聞いてしまっては、少しくらい力になってあげたいと思ってしまうのは仕方がない事だと思う。


「お前の話が正しければ、治すことは出来ないんだな」

「薬を抜く事はできるので、あとはどうやって魔薬が手に入らない環境を作るか、ですよ。それは私ではなく、ローウェル隊長やアルフリード様の努力次第です」

「そうか……。アルフリード、魔薬を売り捌いたクソ野郎共は一人残らず捕まえるぞ」

「はい!」


 やる気が増したみたいで良かったね。


 話の切りがいい所で私達は城内調査を再開する。

 城内の道は簡単になら把握しているとはいえ、燕尾服の男が普段どこで仕事をしているのかは、さすがに知らないんだよね。


 だからこそ毒の匂いで場所の特定をしようとしているんだけど、何故か匂いを辿っていると城の中庭っぽい所に辿り着いてしまった。


「本当にここか? 誰もいないぞ」

「ですねぇ……」


 二人の視線が痛い。

 私もここに燕尾服の男が居ると思っていたから、ちょっと困ってるので、そんな目で見ないでください。


 とりあえず私は匂いの元に近付いて行くと、茂みになっていて人目のつかない場所に割れた瓶が落ちていた。

 これは、もしかして燕尾服の男が持っていた小瓶?


「それは?」

「毒が入っていた瓶の破片みたいですね。中身も入っていたみたいです」

「だが、こんな所に落ちているのは変だな」


 そうなんだよね。

 こんな茂みにまで来て小瓶を割っちゃいました、って事はないだろうから捨てたんだろうけど……


「事故ではなく故意だとすれば、その毒はもう必要ないと言うことか……対象が死んだのか?」

「嫌な事を言わないでくださいよ隊長」


 ローウェルさんの言葉で私はハッとする。

 それは最悪の予想。


 私は慌てて走り出す。


「シラハ?!」

「おい! 待て!」


 二人は一瞬だけ置いてけぼりになるが、すぐに私の後について来る。待てと言われて待ってあげる程、今の私に余裕はない。


 私は毎夜通る通路にやってくると、いつもの部屋――姫様の部屋を開け放つ。

 部屋の中からは血の匂い。

 最悪の予想が当たってしまった。


 私の目の前には、血溜まりに倒れ伏す姫様。

 駆け寄って姫様に触れると、姫様の体は冷たくなっていた。


「イリアス様!! 誰か医者を!」


 ローウェルさんが叫び、すぐに人を呼ぶ。

 もう手遅れだよ。


 助けられたのは私だけだったはずだ……

 燕尾服の男が姫様に対して、どんな感情を持っていたかは知らないけど、昨夜の様子からして、かなり思い詰めていたようだった。


 姫様を説得すると言っていたけど、生きる道を姫様が選んだ場合、自分の言いなりにさせる為に毒を飲ませるような男と一緒になってしまう。

 どう考えても幸せになんてなれるはずがない。


 それを考えれば燕尾服の男が凶行に及ぶ可能性は十分にあったのだ。


 私はそれを見落として、目の前に居た貴族に怒りをぶつけただけ……

 何をやってるんだよ……私は。


「あ…ぁあ……」


 涙が溢れてくる。

 私は助けたいと思った女の子さえ助ける事ができないんだ。



 私はなんて……無力なんだ。






ナヴィ「空気が重くて出られないなぁ……」

狐鈴「安心してナヴィちゃん。君の出番はまだまだ先だ」

ナヴィ「この人、酷い!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 「その妹が俺に会いに来たらしいんだ。そこでゼブルスの目に止まってしまったんだ」「それは……」それは不運だとしか言えないね 運は、関係ないでしょう。オークを堂々とのさばらせている騎士団が悪い…
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