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また明日。

 張り込み調査一日目


「飽きた……」


 はい、私です。シラハです。

 今日は張り込み調査一日目なんだけど、半日も経たずに飽きました。

 というか退屈で死にそうです。


 お店の人とお客のやり取りを離れた所で見ているだけとか、一時間で飽きますとも。


 あー……寝ちゃおうかなぁ。あとで異常ありませんでした、とか言っておけば問題ないよね。


 と、言いたいところなんだけどねぇ……。

 いや、どんなに面倒でも途中で投げ出したりはしませんよ? ホントだよ。


 昨夜、私はまた姫様ことイリアス姫に会って来た。

 そこで私は懲りずに【解毒液】を使ったのだけれど……そこはほら、情報を得る為には仕方なくってやつだよ。


 姫様には口止めをしておいたけど、そこは姫様を信じるしかないよね。

 もしも誰かに話されたら速やかに王都から出よう。


 まあ、もしもの話は置いておいて……。

 結論から言えば、姫様は毒を盛られていたのだと思う。

 もしかすると【解毒液】が病気にも効いちゃう、なんて事もあるのかもしれないけどね……。


 まとめると、この国ヤバイって事なんだよ。

 王都に魔薬は蔓延してるし、姫様は毒盛られて監禁されてるし!


 姫様が足枷をつけて閉じ込められているのを王様は知らないの?

 だとしたら、体調が悪いのに見舞いの一つもしていなかったことになるよね。実の妹なのに、仲悪いのかな……。

 でも姫様の様子からすると、姫様は王様を慕っているみたいだったんだよね。


 となると、何かしらの事情から姫様の様子を知る事ができなかったのかも……。

 王様に事情を聞こうにも、もし王様本人が姫様を閉じ込めていたのだとしたら、姫様が危ないだろうしなぁ。


 姫様には、治ったと周りに知られたら危ないです。と伝えて当分の間は病気のフリをしてもらうことになった。

 姫様は不満そうだったけどね。


 今のところ魔薬と姫様の毒が関係しているかは分からない。はっきりしているのは、面倒事が一つ増えてしまったという事だけだ。まぁ自業自得だけどね。


 だけど、姫様は助けてあげたい。

 姫様が一人で部屋に閉じ込められているのが、昔の私と重なってしまったとはいえ、ポロッと自分の事を語ってしまった。

 でも、それのおかげか姫様に拒絶される事もなく治療が出来たから良かったのかな?


 とはいえ、姫様の病気を治しただけじゃ助けたとは言えない。

 毒を盛っていた犯人を捕まえなければ、姫様はいつまでも命を狙われ続けてしまう。

 でも、そっちに関しては手掛かりが何もないので困った。


 あ、待てよ……。


 厨房で姫様の食事を運んでいた燕尾服の男は、誰かと話をしていた。

 毒を入れるだけなら料理人も怪しいけど、料理人は姫様の様子を確認出来ていないようだったし、そうなると料理を届けに行っている燕尾服の男が一番怪しいのかもしれない。


 今日の張り込みが終わったら、また厨房にでも行ってみよう。それでも何も掴めなかったら、また王様の所にでも忍び込むしかないかな。

 また、有無も言わさずに仕事を押し付けられなければ良いけど……。



 とにかく今は、この退屈な張り込みに耐えるしかないね。


 結局、今日一日は何も起こらなかった。

 見張っている店で、何か問題でも発生しないかと期待してしまうなんて……。

 退屈とは人を変えてしまう恐ろしい時間だよ。


「僕の方も異常は無かったよ。一日お疲れ様」


 アルフリードさんは平気そうな顔をしている、さすが騎士様だね。一日中、直立不動のまま警備とかしているのかな?

 それとも何かコツでもあるのかも?

 あまりに張り込みが長引くなら教えてもらおう……。


「お疲れ様でした。……それでは、また明日」

「ああ、また明日」


 私はアルフリードさんと別れると、夜勤の人の為なのか夜になっても営業している屋台から、鳥の串焼きを購入する。

 ふあぁ…良い匂ひ。と、イカンイカン。これはまだお預けだよ。



 今日で三日目……と慣れつつある王城までの道を移動する。


 いつもの要領で姫様の部屋まで行き、部屋にいる姫様の様子を窺う。

 昨日は暗い顔をしていた姫様だったけれど、その暗さは今は見られない。私が来ると伝えてあるからか、ソワソワしているように見える。

 誰かと会いたくて仕方ないんだろうね。


「こんばんは、姫様」


 私が声をかけると、姫様が私の方に顔を向ける。


「こんばんは、今日も来てくれて嬉しいわ」


 姫様は、さっきまでの落ち着かない様子とは違い、凛としながらも優しく微笑んでいる。

 私が来たから王族としての振る舞いに切り替えているんだろうけど、その前から私が部屋の様子を見ていたと言ったら、どんな反応をするのかな……。

 可哀想だからしないけど。


「早速ですが姫様、頼んでおいたモノはありますか?」

「貴女に言われた通り、包んでおいたけれど……」


 姫様は躊躇いながら、いくつかの包みを取り出し、私はそれを受け取ると包みを開く。


「まさかとは思うけど、貴女それを食べたりはしないわよね?」


 姫様が私の行動に不安を覚えたのか、そんな事を聞いてくる。そのまさかだけどね。

 私は包みの中身を摘むと口に放り込んだ。


「ちょ?! 駄目よ、吐き出しなさい!」

「うぐっ?! 姫様…く、苦しいです!」


 私が包みの中身を口に入れた瞬間、姫様が私に飛びついてくると襟を掴み上げてきた。

 姫様のまさかの暴力的な行動に反応できなかった私は、そのまま首を絞められる事になり、口に入れたモノを飲み込めなかった。


 昨夜も思ったけど、姫様は何かあると飛びかかってくる習性でもあるのだろうか?

 姫様が頰を抓って欲しいと頼んできたので抓ってあげたのに、後になって姫様が飛びかかってきたのだ。酷くない?


 とまあ、昨夜の事は置いておくとして……。


「姫様、調査の邪魔をしないでください」

「邪魔って何よ! だって、ソレ……毒なんでしょう?!」

「毒かも……と言ったではないですか」

「同じ事よ! もし本当に毒が入っていたら貴女も倒れてしまうわ!」

「姫様の話を聞く限りでは、そこまで強い毒ではないですし、少量なら問題はないかと……」

「でもっ」


 姫様が私の心配をするのは分かるけれど、これは必要な事だしね。

 私が姫様に頼んだのは、食事を食べずに少しだけ取っておいて欲しいという事だ。


 まずは毒が、どうやって盛られているかを調べなきゃだしね。食事か医者か……。

 私が思いつくのは、この二つくらいだったけど、魔法もあるこの世界ならではの方法もあるかも知れない。

 そっちは私は分からないので、一番調べ易い食事から手をつけてみる事にしたのだ。


 そしたら首を絞められたんだけどね……。


 姫様の暴力(抗議)が激しかったので、包みの中身は口に含むだけにして、その後で吐き出す事にした。

 ちゃんと残さずに食べるつもりだったのに……。


「それで何か分かったのかしら?」


 姫様の目つきが悪い。

 これで何も分からなかったら容赦しないぞ、と目が訴えている気がする。


「やっぱり食事に毒が混入していますね。さすがに毒の種類までは特定できませんが……」


 毒の特定ができれば調べるにも色々と楽なんだけどね。

 いつか機会があれば色々な毒を集めて、味と匂いを覚えてみても良いかもね。

 って、そんな特技どこで活用するんだよ! 厄介ネタしか飛び込んで来なさそうだよ!

 という訳で、利き毒計画は無かった事にしよう。


「私の食事に毒が……。もしかして兄上は知っていた? だとすれば、私は……」


 姫様が何やらショックを受けている。

 まぁ、当然その可能性に行き着くよね。


 自分のお兄さんが、姫様に毒を盛って動けなくしていたかも、となればそうなるか……。

 とはいえ、それはまだ可能性の一つでしかないからね。


 まだ分からないよ。


「姫様。……まだ陛下が毒を盛っていたと決まった訳ではありませんよ」

「なら、なぜ! なぜ兄上は顔を見せに来ては下さらないのですか!! 何か事情があるにせよ、妹に毒を盛っている事実に、後ろめたさを感じているからではないのですか?!」


 姫様が怒鳴り散らす。

 ずっと溜め込んでいた不安を吐き出すように。


 そりゃ見舞いに来なかった王様を、少しも不審に思わない訳がないよね。


 でも少ししか話はしていないけど、あの王様なら毒を盛っていても何食わぬ顔で見舞いくらいできそうだけどね。

 王様の顔、見てないけど。


「落ち着いてください、姫様。まだ陛下が関わっていたと決まった訳ではございません」

「貴女は兄上の使い…なのでしょう? 私を丸め込むように言われているのではないのですか?」


 姫様の疑いの目が私に向けられる。

 一度、疑い始めるとキリがないよね。


「何も言われてませんよ」

「嘘よ!」

「本当です」

「嘘!」


 私と姫様の間で、嘘本当の応酬が始まる。ホントにキリないね。


「そもそも私は姫様とお会いするのに、陛下からの許可も指示も受けていません」

「えっ」


 ようやく姫様が静かになってくれた。

 騒がれて誰かが駆けつけたら困るからね。


「貴女は兄上の使いではないのですか?」

「姫様にお会いした時、他の用事で使い走りをさせられはしましたが違いますね。できれば関わりたくもありません」


 本当だよ? 別にツンでもなんでもないんだよ? いつまで経ってもデレませんとも。姫様の事がなかったら、もう王城にだって来る予定なかったんだから。


「なら、なんで貴女は毎夜私の所に……?」

「昨夜も言ったではないですか、忘れてしまったのですか……?」


 姫様がハッとする。

 やっぱり姫様は冷静じゃなかったね。

 よっぽど毒の事がショックだったんだろうけど、暴走しちゃダメですよ。


「取り乱したわ、ごめんなさい」

「姫様が取り乱すのは慣れたので、ご安心ください」

「いじわるっ……!」


 姫様がいじける。

 揶揄いやすいからついね。


「真面目な話、陛下が関与しているかどうかは、まだ分かりませんが、姫様の下に様子を見に来れないのは何かしらの理由があるのかと……」

「貴女に心当たりはあるの?」

「全くないですね」

「そう……」


 姫様が気落ちする。

 まだまだ、これからですよ。


「そんな顔しないでくださいよ。それを調べる為に私は王城に来てるんですから」

「貴女は兄上の使いではないと言ったけど、それなら誰の使いなのかしら?」


 今度は姫様が私を揶揄うように笑いながら聞いてきた。

 誰の手下でもないんですよねー。


「んー……。誰、と言いますか。私は困っている方の味方ですよ」

「なら兄上が困っていたら、兄上の味方にもなるのかしら?」

「だから陛下に使い走りにされた訳なんですけどね」

「たしかにそうだったわね……」

「姫様は困っている上に、可愛らしいので誰よりも優先しちゃいますよ」

「あら嬉しいわ。そんな事を誰にでも言っているの?」

「そんな事ないですよ。私、男性は苦手なので近寄られたくないですし」


 揶揄うつもりが、私が遊んでいる娘みたいな扱いされるところだった。誤解ですからね!


「貴女は、これから毒の事を調べてくるの?」

「はい。ですので今日はこの辺でお暇させていただきます」

「また…明日も来てくれるのよね?」


 姫様が顔に若干の不安を滲ませて尋ねてくる。


「勿論です」

「なら、良いわ……」


 私の返答に姫様は安心したのか息を吐いた。

 あ、そうだ。忘れてた。

 私は冷めてしまった串焼きを取り出した。


「姫様、すっかり冷めてしまいましたけど、屋台で買ってきた串焼きです。お一つ如何ですか?」

「まぁ! 下町の食べ物は久しぶりだわっ」


 そう言うと姫様は串焼きにかぶりついた。

 行儀が悪いとか言わないんだね。良かったよ。

 王城の食事は毒が入っているから、少しでも食べられる物を差し入れしないとね。


 勿論、魔薬入りかどうかは、私の鼻でバッチリ確認してあるから大丈夫だよ。

 そこのところは抜かりありませんとも。


 姫様と一緒に私も串焼きを食べる。

 ここに来て、すぐに食べれば良かったね。でも美味しい。


「美味しかったわ、ありがとう」

「いえいえ、喜んでもらえて良かったです」


 私は串焼きを食べ終えると、すぐに立ち上がる。

 食後はゆっくりしたいところだけど、これから調べる事があるからね。


「行くの?」

「はい」

「なら、気をつけてね。……それと、また明日ね」


 また明日か……。

 アルフリードさんとも、その言葉で別れているね。

 まさか私が、こんなに人と関わる事になるなんてね。しかも生活の為なら分かるけど、ただ頼まれただけだったりするんだから困る。


 私、厄介事には首を突っ込みたくないんじゃなかったの?

 なんとも難儀な性格だよね……。


 けれども面倒だとか厄介だとかを置いておけば、友達との約束事みたいで良いかもね。


「はい、姫様。また明日です」


 私は挨拶を返すと、影に潜って部屋を出て行った。






シラハ「友達との約束事にしては、内容が物騒なんだけどねー」

アルフリード「そういえば、シラハは僕のことは苦手ではないの? 男だけど」

シラハ「男と見ていないので大丈夫です」

アルフリード「ぐはぁ?!」

イリアス「貴女、酷いわね……」

シラハ「え、そうですか?」

イリアス「心に深い傷を負わせるなんて……」

シラハ「心はダメだけど、体なら良いと……。なら去勢させるしかないですね。さぁ姫様、アルフリード様を脱がしてください」

イリアス「承知!」

アルフリード「姫様そこは淑女として恥じらいを持とうよ?!」

シラハ「姫様って変態さんだったんですね……幻滅しました」

イリアス「貴女が脱がせって言ったでしょう?! 騙されましたわー!」

シラハ「姫様、揶揄いやすいなぁ……」

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