「三十七」
「綻び」と言うモノは、本来この世には存在しないモノを呼び寄せ、カタチを与えてしまう。
例えばそれは、部屋に響く怪奇音だったり、写真に写り込む奇妙な影や光だったり。
本来はカタチを持つには至らない筈だった――『犬神』だったり。
後悔先に立たずとは言うけれど、先のことが分かっていたら端から後悔なんぞしない。未来のことなど知りようのない人間だから、後悔などしてしまって然るべきなのだ。
――後悔しないわけがない。済んでしまったことなのだと、どうしようもなかったことなのだと分かっていても、己の愚かしさを呪わずにはいられなかった。
どう言い訳しても、これが俺の責任であるのは間違いなかったから。
日頃、佐保ちゃんの霊媒体質はちゃこの力によって抑えられている。しかしそれは、ちゃこが傍にいなければ著しく効果を減退させてしまうモノなのだろう。
それでも、直接的な霊障のない場所での生活ならさしたる問題はなかったのかも知れない。
だが。
だが、もし――霊障の要因が存在する場所に、独りのこのこ出掛けて行ってしまったら。
……彼女の身に、今いったい何が起きているのか、確証はない。
けれど、一つだけはっきりとしているのは――ちゃこが傍にいれば、こんなことはけして起きなかった、と言うこと。
俺がつまらない猜疑心で、彼女からちゃこを引き離した。
それが全ての間違いだ。
鬱陶しいうんちくを語るしか能のない、ただのつまらないオタクのくせに、訳知り顔でオカルトに首を突っ込んだ。それが間違いだったのだ。
……だけど。
確かに俺は、無力なただのオタクだけど。
――やれるだけのことは、やってやるさ。




