「三十八」
俺の仮説では、『霊媒』とは世界の「綻び」を意味し、また「綻び」を生むモノだ。
しかし一般的な観念に於いて、『霊媒』――『巫』や『口寄せ』とは、その身に霊を降ろして――即ち『憑依』させて、死者の言葉を伝える役目を負う者、と解釈されている。
そしてそれは間違いではなく、やはり『憑依』は『霊媒』の最も大きな属性であり、『霊媒』のアイデンティティーであると言っても過言ではないだろう。
つまり『霊媒』とは、先天的に霊を『憑依』させ易い――され易い、存在なのだ。
……これはあくまでも俺の推測であり、やはり確証はない。
だが――確信に近いものを感じている。
――仙巌園佐保の肉体には、『犬神』が『憑依』している。
馬鹿げた妄想だと笑われても仕方のない考えだ。そんなことは百も承知だった。
――けれど。
……けれど、佐保ちゃんの両親はけして笑わなかった。
真剣な眼差しで、じっと俺の話に耳を傾けてくれていた。
彼らも分かっていたのだ。自分達の娘が普通ではないと言うことを。
だから、早妃の異能のことも、早妃の虫の知らせによって俺達はここにいるのだ、と言う嘘も――少なくとも、嘘だろうとは言わなかった。
どうやら佐保ちゃんは、既に俺達のことを両親に話してくれていたらしく、それも俺達が信用を得るに役立ってくれたようだった。
当然と言うべきか、警察にはとっくに通報が済んだ後だった。
しかし、警察に――「あちら側」の世界のことを知らない人間に、どうこう出来る事件でないことを俺達は知っている。
それに、下手をすれば、記録に残る数多の『狐憑き』の事例のように、気が触れた狂人のように扱われてしまうかも知れない。
そうなれば、佐保ちゃんの将来に傷が付いてしまう可能性だってある。
俺は、俺達は、どうあってもそれだけは防がなくちゃならない。
そのために、俺達がすべきことは、ただ一つ。
――警察よりも先に、佐保ちゃんを見付け出す。
……絶対に。




