「十一」
幸か不幸か、学校生活に於ける俺の友人の数はけして少なくはない。俺みたいな男に、常時五~六人は連む連中がいると言うのは、控えめに言っても恵まれているだろう。
それと言うのも、中学からの付き合いである一人の友人のおかげでもあるし――弊害でもある。
その男、岡村正雄は根アカのお調子者である。
どのくらいお調子者かと言えば、例えば朝の校門前で出会った早々、背後から声高に愛を叫びつつ抱きついて来る程度には。
「――衆道系の方なのですか?」
なんて、無垢な笑顔で言ってのけた早妃のことは――出来れば今すぐ忘れてしまいたい。
とは言え、そんな間の抜けたやり取りは俺にとっては僥倖だったとも言える。おかげで、余計な肩の力を抜くことが出来た。
俺は正直なところ、昨夜からこっち、サキ子のことで戦々恐々とした思いを抱えていたのだ。
しかし、落ち着いて観察してみれば、どうやら杞憂であると知れた。
――サキ子は、岡村には見えていない。
もちろん、それがイコール「俺と早妃以外には見えない」と言うことにはならないが、それでも、「万人に見えるわけではない」と知れたのは大きい。
何しろ、サキ子と来たら、まるで小さな子供のように落ち着きがないのだ。
サキ子は見るもの全て、聞くもの全てが新鮮なのか、俺の肩口に腰掛けて、ずっと楽しそうにきょろきょろとしているのだ。「住み処」に隠れていようなんて気はさらさらないらしい。
早妃に倣って、自らも岡村に自己紹介を始めようとした時は肝を冷やしたが――何にしろ、見えていなくて助かった。
岡村にサキ子のような愉快な存在のことを知られていたら、いったいどんなことになったか、想像するだけで恐ろしい。
ともかくも、不安は杞憂に終わって、俺はほっと胸をなで下ろしたのだが――ふと「そう言えば」と、岡村は不穏当なこと言ったのだ。
「昨日、校舎裏でさ――惨殺された猫が見つかったって事件、知ってるか?」




