3話
いつもと変わらぬモノクロの日に、その人はやって来た。
吊り上がった真紅の瞳をギラギラと輝かせ、ずんずんと私に向かって近づいてくる。
「おいトレニア、俺と決闘しろ!」
「……えーと、リアトリス君、だっけ?久しぶり」
「はあ?久しぶりってお前、会ったのつい最近だぞ」
あれ、そうだっけ。
目の前の彼は嘘だろと言いたげな目でこちらを見ている。
「それより、またやるの?」
「当たり前だ!」とうるさい声が耳にキーンと響く。めんどくさいなあと零せばぎろりと睨まれる。半ば引っ張られるようにして、私は再び決闘場へ連行された。
・・・
「ッ〜!お前なんか嫌いだ!くそ、くそ!」
この前と同じように、びしょ濡れな姿で幼子のように癇癪を起こす彼と、その様子を冷めた目で見つめる私。勝敗は火を見るより明らかだ。
「次だ、次こそは必ず……!」
彼は地面を睨みつけたまま、拳をぐっと握りしめている。
流石に何度も濡れるのも可哀想なので、持っていたハンカチを水の滴る頭にそっとかぶせた。
もう済んだことだし、帰っていいかな。
そう思い立ち去ろうとすると、手をガシッと掴まれた。地味に痛い。
「次は絶対俺が勝つからな!覚えてろ!」
彼は子供向けアニメの悪役のような捨て台詞を吐く。先程あげたハンカチを被っているせいでいまいち格好がついていない。
私の中ではその時の出来事もまだ他人事で、心が動くようなことはなかった。