ノーサイドゲーム 2
結婚式の余興でハカダンスをするという、そして、なぜか、私の自宅に、オババとその愉快な仲間たちが訪ねてきた。
「こんにちは〜〜。まあまあ、アメちゃん、ひさしぶりじゃのう」と、 オババの仲間である最長老が微笑んでる。
従姉妹の結婚式に、ラクビーでニュージーランド選手が行う『ハカダンス』を披露することになったらしいけど。
平均年齢75歳のツワモノども。
とっさに数えると9人の仲間たち。
ないないない……、ありえないほど、ない!
「ど、どうやって、ここまで」
「おお、アメ。練習しておいたか」
オババが最後尾から怒鳴っている。
練習を見てと頼まれた。
むちゃぶりはいつもの事だけど、しかし、私もハカなんて踊れない。
一応、ネットでその30秒ほどの舞踏は理解した。
それほど、難しいものではないが……、しかし。
「な、なぜ、ここに」
「もちろん練習じゃ。皆、整列!」
オババのかけ声で、同胞たち、一列に並んだ。
「よろしくお願いします!」と、頭を下げてきた。
うわぁ! 体育会系!
お婆ちゃんたち、元ママさんバレーつながりでガチ体育会系。
私、根っからの帰宅部および文化部系であって、こういうノリには羽交い締めで対抗したくなるだけで。
一斉に頭下げられても、背後によろめくしかできない。
「おっし!」って、オババ。
「じゃ、はじめますか」
ハカは、ニュージーランドのラクビーチームが対戦前に敵を威嚇する、あのマウイ族の舞。
相撲のシコを踏むのに似た中腰で踊るというより威嚇するダンス。
オババがメールに送ってくれたダンスは、時間にして30秒もないが、しかし、年長者には激しいと思われ……
シコ踏んで、3拍子で太ももを叩いてを2回、次に3拍子で肘叩いて2回、最後にガッツポーズで「ウっ!」って気合いを入れる。
難しくはない。確かに、難しくはないが、しかし、この面々。
「おおう疲れたのう。ここまでの道のりは、なかなか大変じゃった」と、長老的存在の90歳、休む気まんまんで椅子に座っている。
「時間がない、アメ、練習をはじめる」
「ここで練習を」
「庭は暑いだろう。年をとると熱中症も怖い」
いやいやいや、暑いって問題じゃない。
確かに、この日は全国的に猛暑日だった。
「じゃあ、そこで我らの踊りを見てもらおうか。ほら、みんな、片付け!」
「おう!」
おうって、すでにハカ入ってる。
老人会の9名のうち、長老を除いた8名がリビングのソファやら、椅子やらを廊下に引きづってる。
ちょ、ちょ、ちょって言おうとすると、長老が。
「アメちゃん、大丈夫。後片付けをするから」
「あ、あの、そういう問題じゃあ……」
長老、巾着から水筒を出すと、ずずずっと吸って、さらに太鼓を出していた。
もうね言葉がない。
ただただ呆然とリビングから、ゆっくりと家具が持ち出されるの見ていた。
たいした家具じゃないけど、それにしても、何もないリビングって、こんなに広かったんだ。
って、違う〜〜〜〜!
今、そこ、感心してるとこじゃない!
「この踊り、ずっと中腰ですよ。大丈夫なんですか?」って、長老に聞いた。
「我らを甘くみてはアカンぞ。和式トイレで鍛えてきた身体。洋式便器にすわってる若いもんとはここ」と、長老が、太ももを叩いて続けた。
「鍛えかたが違う!」
和式トイレ!
頭が痛い。
そのとき、奇妙なトキの声がオババの口から発せられました。
「ンナァ〜〜〜!」
どどんどどんどん!
って長老、太鼓を叩いた。
オババの張り上げて声と太鼓、そこで、集まった8名のラクビー選手!
じゃない!
平均年齢75歳のシニアメンバー。
3列に並び中腰になった。
「ちょ、ちょっと、待ったぁ。待ってください、オババ」
「なんじゃ」
「最初の掛け声はなんですか、それ、ハカじゃないですよね」
「わかったかい、雄叫びだ」
もうめちゃくちゃだ。
「じゃ、行くよ」と、オババが言うと全員が再び中腰に。
「ンナァ〜〜〜!」から入る、オババたち老人会のハカダンス。
ka ora! ka ora!(私は生きる! 私は生きる!)
全員がシコ踏んで、3拍子で膝叩こうとしている。
もう、それが、良くも悪くも見事に、バラッバラッ!
これほど揃ってないって、本気ですかって、これ。
せっかちに3回叩いてる婆ちゃんもいれば、1回の人もいて。
そもそも、オババの合図の後、すぐはじめた人、3人もいない。
思わず叫んでた。
「ストップ! ストップ!」
「どうした」
長老も太鼓をやめた。
「全員がバラバラです」
「そうか」
「そうです」
「どうしたらいい」
どうしたらって。
「わかった、わかりました。まず、リズムです。リズムから覚えましょう」
「アメちゃん、リズムって何ですか」
メンバー1のお調子もの羽バアが聞いてきた。
「いいですか。中腰はまだ先で、まず全員が合ってないとバラバラじゃ、ダンスになりませんから。拍手で合わせましょう」
「拍手からか」
「そうです。拍手で、まず合わせるんです。私が歌いますから、同時に拍手してください!」
「わかった」
「じゃ、行きますよ。 ka ora! ka ora!
(訳: 私は生きる! 私は生きる!)」
拍手、バラバラです。
「ダメダメ、やり直し! もう一度、いっしょに」
「どっから入るかわからんがの」
「じゃあ、最初にハイって言います。それから、ンチャチャってリズムで2回ずつ同時に拍手、いいですか」
「わかった」
「いきますよ!
ハイ!
ka ora! ka ora!
私は生きる! 私は生きる!
そうそう、上手。
最初の部分、歌詞も一緒に拍手。
はい!
ka ora! ka ora!
私は生きる! 私は生きる!」
10回くらい繰り替えしていくと全員の呼吸が同じになってきた。
「じゃあ、中腰で、拍手の代わりに膝を叩く。いいですか」
「おうよ」
「はい!」
こんな練習をはじめて1時間後、
「Tēnei te tangata pūhuruhuru
見よ、この勇気ある者を。
Nāna nei i tiki
この毛深い男が
mai whakawhiti te rā
太陽を呼び輝かせる!
Ā, upane! ka upane!
一歩上へ! さらに一歩上へ!
Ā, upane, ka upane,
一歩上へ! さらに一歩上へ!
whiti te ra!
太陽は輝く」
部分まで、なんとか行きつけた。
その時です。羽バアが腰を抑えてうずくまった。
「あっ、たたたっ!」
「羽、どうした」
「ぎ、ギックリ腰が」
「おし、戦列を離れよ、休憩じゃ」と、オババ。
羽バアを廊下のソファに寝かせた。
犠牲者第1号。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃ、少し休めば治る。なれっこじゃ。皆、ワシのシカバネを乗り越えていけ」
シカバネって、もう、どのメンバーもいつシカバネになっても不思議じゃないから。
そうして、休みながらの1時間。
何人かの犠牲者を出しながらの練習が続いた。
「私も参加する」ってギックリ腰でリタイアしていた羽婆が30分後に復活。
「ギックリ腰は」
「みんな、こんな頑張ってるのに、休んでる場合じゃないわ!」
「じゃわ、じゃわ」って、廊下でぐったりしていたメンバーも全員参加。
ラクビードラマ『ノーサイドゲーム』も熱かったが、アメ家のメンバーも熱い。
「じゃあ、いきますよ」
「おう、アメ! 頼む」
「はい!」
必死な老人たちの顔を見て、なぜか、私、感動した。
ついに奇跡がおきたのだ。
「すばらしい!」
「やったな」
もう全員がね。
なにが起きたか理解できず、ぼうっとして、それから、疲れ切っていたので、大きな声がでないが、無言でお互いの肩を叩き合い、自分たちのした奇跡に浸っていた。
やりました。やりきりましたって、それしかなかった。
外は、すでに薄暗くなっていた。
「いったい、ぜんたい、ここで何が起きてる」
仕事から帰ってきた夫が、玄関から入ってきて言った。
はん!
それは、私のセリフじゃ
(つづく)
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