ノーサイドゲーム
優ちゃんの幸福病から戻った翌日、再び電話が鳴った。
これを取らないと、自宅にやって来るけど、取りたくなかったぁ〜〜。そして、受話器を取った瞬間、オババから謎の言葉が。
「ハカです」
「ハカ? お墓ですか」
「違います。ハカです。『ノーサイドゲーム』というテレビドラマを見ませんでしたか」
「あいにくと」
「それは残念です。ラクビーファンになれますよ」
「ら、ラクビー、ですか……」
「そう、それでね、良い事を考えついたんです」
だめだぁ〜〜!
オババが良いことと言って良かった試しがない。
「ニュージーランドのラクビーでは、結婚式でハカを踊ります」
アカン!
ここは受話器を置くべきところだ。
これ以上、話を聞いてると、とんでもないことに巻き込まれる!
ま、いつものことで、想像の遥か上をいくのがオババ。
「あの、これから人が来ますので、その話はまた」
「待たせておきなさい」
「いえ、待たせておくと殺されます」
「私とどっちが怖い!」
「そ、それは……」
「ハカです!」
「一応、確認しておきますけど、お墓を新しく作りたいとか」
「いいえ、踊りのハカです。ハカを結婚式で披露します」
オババ、なんと結婚式での余興を、ハカ踊りにすると!
ま、ま、待ってほしい!
ハカって、あのハカだよね。HAKAダンスだよね。
ラクビー強豪国ニュージーランドの選手が、国際試合の前に舞う民族舞踏だよね。
「あの、たぶん聞きまちがいでしょうが、あれですよね? ニュージーランドの民族舞踏の……」
「そうです、それです。かっこいいじゃないですか」
いや、かっこいい。
ブラックの衣装。
骨太のでかいラクビーの選手たちが舞えば、かっこよくて見惚れる。
ハカダンスはラクビーだけでなく、ニュージーランドでは一般的な民族舞踏なのだそう。
相手に対して敬意や感謝の意をダンスに込め、結婚式や卒業式、歓迎会でも披露するらしい。
「……というわけです」ってオババ。
「というわけ、ですか」
「アメよ。あの優ちゃんを嫁にって、その暴挙じゃない英断、太郎くんには感謝のしようもない。その気持ちを考えると、ハカしかないと考えたわけです」
いえ、他にもいっぱいあるんじゃないかと。
ハカを踊るって、その八ヶ岳の美しいレストランで結婚の余興でって。
頭が痛い!
「で、どなたが」
「やはり、ある程度の人数は必要ですからね。私の昔のママさんバレー仲間で結婚式に来るというボランティアを募ってみました」
あの愉快な老人会の仲間たちか〜〜〜い。
オババのお仲間の皆さま、最高年齢90歳。平均年齢75歳で、ハカダンスって、想像を超えてる!
「でね、練習するから来るように」
「どなたがでしょうか」
「アメちゃん。おヒマでしょうし」
「いえ、忙しいです。とてもとても忙しいです」
「踊れとは言っておりません。ちょっとお手伝いしてほしいのです」
この甘い言葉、ほんとか? ほんとなのか?
「一応、その、お手伝いというものを、参考までに、と」
「私のお仲間たち、すっかり乗り気になっていますが、なにせ、覚えが悪くてね。だから先生として」
「あの、私も全くわかりません」
「ラインで動画を送っておきました。若いんだから、覚えてきてちょうだい」
「ライン?」
「言葉は簡単なの。だからね。明日の練習、参加メンバーに入れときましたから。それから、ハカ踊りの後にブーケトスなんかもいいのではないかと」
ってオババ、ついでにって感じに付け加えました。
「ブーケトスですか」
ブーケトスってアレですよね。
独身の女性に次の結婚をって投げる花束のことだよね。
「あ、あの、独身の方、出席予定者にいなかったと思いますが」
「おう、いますとも。夫に先立たれた者が何名かおって、暇もて余して結婚式にでるようです」
待て〜!
ちょっと、待て〜〜!
優ちゃん。ご高齢のシニア未亡人に向かってブーケを投げるのか?
それは、もう、カオスを通りこして、ブラックホール。
花束が吸い込まれていくしかない、ブラックホールの世界。
(つづく)
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ドラマ・小説『ノーサイドゲーム』
大泉洋主演・池井戸潤原作
大企業で左遷された男が、企業のお荷物ラクビーチーム「アストロズ」を再生する物語です。
ドラマ中、「ノーサイドは日本ラクビーの誇りです」という会話があって、もともとラクビーについて全く知らない私。
ノーサイドって何と思いました。
ノーサイドとはラクビーの試合終了の意味だそうです。
ラクビーは紳士のスポーツとされ、戦いの後はお互いの善戦を称えあい、試合中のしこりを残さない、という意味だそうです。




