クレイマークレイマー
「明日はどうするかな」
「このまま永久にランドのホテルに足止めくらうんでしょうか」
「ま、そっかな」
ないないないないない〜〜〜!
「マジですか」
「コロナのために年間パスが使えないのが痛い」
え? 1年パス、お持ちだったんで。1年パスって、普通、もうちょっと近くに住む人、例えば浦安在住とかの人が買うものって、私、勝手に思っていたわけで。
「おや、アメ。家族全員のパス。常時、持っていた」
「か、家族、全員とは……。で、その範囲は」
「アメ家族と私だ」
「お義父さんは」
「あれは釣りが趣味じゃ。ネズランドの海で釣り糸たらしそうで、怖くて連れてこれん」
さすが、オババの夫!
回避術、ハンパない。
「しかし、いくらなんでも。これ以上は」
「ま、よかろう。とりあえずは、明日は、キャンセル待ちをもって堪能しよう。そういえばソロキャンプの計画も」
ま、まったぁー!
それ待った!
私、思わず手を挙げた。
「どうした、いきなり」
「いえ、なんだか空耳が、叔母さんが来てるような」
「アホな」
いえ、叔母さん。来ていただこう。そして、オババと一戦していただきたい!
私では役不足。
いくらなんでも、せっかく逃げたソロキャンプにまた行くなんて、ここまで来る苦労は何のためだった。
「いけません。これはいけません。早く逃げましょう」
「いったい、どうした、アメ」
「帰る時刻です」
時刻は午後8時。
「そろそろ帰らないと、車の渋滞に巻き込まれて大変なことに」
「そうか。まあ、そうかも」
オババ、名残惜しそうな顔をしているが、強引に連れて帰った。
そうやって、奇跡的に来た翌日。それは平和な日だった。
この日々を、ぜったい死守するってな勢いで、昼寝してた。
と、電話が入ってきた。オババだった。
「ヒマしておろう」
毎日の生活において、自分が少しヒマなのか、かなりヒマなのか、あるいは、すご〜〜くヒマなのかって、そんなこと誰が関心を持っているだろうか。
でも、この場合。
オババからヒマかと聞かれて、そうですと答えた結果は、さすがに学習している。
だから、強い口調で答えた。
「いえ、とても忙しいです」
「それでな」
って、全く聞いてな〜〜い!
「結婚式を行うって話になった」
「へ? 誰がですか」
「優ちゃんたち以外に、誰が結婚する」
「は、いえ、あの叔母さんのことは」
「ああ、あれか」
「離婚のことは……」
「適当に言い繕っておいた」
あ、あのね。どう転んでも適当に言い繕う方法なんてありませんが。
「て、適当にとは」
「適当は適当じゃ。他になかろう」
つまり、叔母さん、離婚を受け入れたんだろうか?
それとも、ちがうのだろうか。
「わかりました。適当に解決してると」
「ま、そういうこっちゃ」
もうね、離婚問題が、こんなふうに適当に解決していけば、世の中、ものすご〜〜く楽なんであって。
『クレイマークレイマー』という40年前にブームになった映画がある。
ある日、超多忙なエリート会社員が、家に戻ると、女房がいなくなっていたって、夫にとっちゃ、ホラーのような状態。
クレイマーってのは主人公たちの苗字で、そのテッド・クレーマー氏、これまで家事なんてやったことがないけど、プライドがあるわけ。
仕事じゃあ、マンハッタンで働くエリートであって、そんなの簡単だって。
でもね、家事やってみるとフレンチトーストひとつ、まともに作れない。
いかに、家庭のこと妻に任せきりだったかって、わかるシーンで、5歳の息子に完璧にバカにされる。
これ、40年ほど前の映画。
でもって、今も、まったく家事ができない男性、いるんだろうな。
うちの親戚は、ちと事情がちがって、優ちゃん、全く家事ができなくて、太郎くんは有能だから。
(つづく)
映画『クレイマークレイマー』
1979年公開アメリカ映画
主演:ダスティン・ホフマン メリル・ストリープ
第52回 アカデミー賞作品賞
ニューヨーク・マンハッタンに住む会社員テッド・クレイマー(ダスティン・ホフマン)は家事と育児、すべてを妻ジョアンナ・クレイマー(メリル・ストリープ)に押し付け、自分は仕事にかかりっきり。家庭を顧みない夫の代表です。
専業主婦であることに疲れたジョアンナは、仕事をしたいと相談するが、テッドは全く取り合わない。
夫は仕事が順調。出世もした。収入も多い。
で、妻の不満がわからない。
そして、ある日、妻はなにも言わずに家を出てしまいます。
夫テッドは息子ビリー5歳の世話と家事をこなしながらの、会社の激務という父子ふたりの生活。そして、はじめて、家事一般なにもできないことがわかるのです。
ビリーを育てるために奮闘するテッド。仕事がおろそかになり会社をクビになってしまいます。
40年前に、妻が飛び出すのは事件でした。日本人の感覚からしたら、マジ、自分勝手な妻だって、当時は思われたと思う。
ジョアンナは家にこもり、家事と育児だけの毎日に、ウツ状態になって家を飛び出したのです。その後、一人になって精神的にも回復し、仕事にもつき、それも順調にこなし、で、息子の親権が欲しくなります。
映画後半部分は、ビリーの親権争いがはじまり、妻と夫が裁判で戦います。
結果は映画で、現代の問題もはらむ、とてもいい映画です。




