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アルキメデスの大戦

 アラフォーで初産を迎える優ちゃん。

 義理叔母の言いなりであった優ちゃん。


「ママ、結婚式にでるつもり?」って、思わぬ一言で叔母を大破した。


 不沈空母、戦艦大和叔母、あっさりと撃沈!


 映画『アルキメデスの大戦』でも、しょっぱなに大和が撃沈してる。そこ、冒頭の見所。で、誰も口を挟めなかった。


 そして、叔母が病室から逃げた。


 この場合の対応。


 1 叔母を追いかけて慰める

 2 優ちゃんをしばく

 3 優ちゃんに理由を聞く


 真面目なはなし、優ちゃんの変化についてけないちゅうか、どうしてこうなったと聞いてみたかった。

 で、オババが叔母のあとを追ったので、


「優ちゃん」と、言ってみた。


 言ってみたけど、言葉が続かなかった。


「アメ姉さん。私のこと、ひどいって思います」


 逆に優ちゃんに先手をうたれちまって、私、とまどって、やはり言葉がでなくて。


 で、どうなんだろうか。ひどいとは言えないって思った。

 叔母の暴走はどこかで止めなければ、自分ルールで優ちゃんを縛る。

 その無意識の毒親ぶりから逃げるには、カルト集団の洗脳から離脱するのに似てると思う。


「私ね」って、穏やかな口調で優ちゃんが話をはじめた。

「ママの言うことは絶対だって思ってきたの。そんなふうにしか育ってこなかったし、自分はとってもダメ人間だって思っていたの。本当に、なにもできないから……

 ある日、なんだか、このまま死ぬのかなって思ったら涙が出て止まらなくなって、だってドラマや映画で、みな楽しそうに生きてるもの、自分のことは自分で決めて。

 でも、私はずっとママの言うとおりで、恋もしたことなかった。

 それでネットに勇気をだして自分のこと書いてみたの。そこで出あった太郎さんは、私のこと素敵だって、かわいいって。

 私、ずっと自分は醜いって思ってきたから。

 こんな私、誰にも愛されないって。こんなにバカでどうしようもない女は、生きてる価値もないって」

「優ちゃん……」


 言葉を失った。

 前にも書いたが、優ちゃんはホントなにもできない。

 でも、素直で可愛い。


 39歳で、でもとても若く見えるし、醜くもない。

 平均以上の美貌。

 なぜ、そんなふうに思ったのだろう?


 だから、優ちゃん、母である叔母を、太郎くんとの日々を経て、徹底的に否定しているんだ。その段階は必要なんだって思う。


「でもね。失敗ばかりだけど、アメ姉さん。私、今、とても幸せなの。

 太郎さんが私と一緒で幸せだって言ってくれて、そんなこと言われたの初めてで。だから、いろいろなこと必死で覚えているの。

 ママはいつも私のすること、そんなことしちゃ、ダメダメってばかり言ってたけど、太郎さんはいつも素晴らしい、こんなこともできるんだって言ってくれるの、下手くそなおにぎりさえ美味しいって」


 優ちゃん、鈴を転がすような声で話している。


 でもなぁ〜〜、優ちゃんの美味しいおにぎりって、そこだけは、私、想像できないぞ。


 太郎! ホントえらいな。


 まあ、深く考えるのはよそう。


 ともかく、今、優ちゃんは前に進んだのだ。

 結婚は二人でするって、結婚式場もウエディングドレスも、自分で選ぶと決めたのだ。


 親の出番はもうない。

 叔母、それを理解できない。


 いっぺん、北海道に送って、キタキツネの子離れを見てくるといいと思う。


 キタキツネの子離れって、それは過酷な野生の世界なんで……


 春に生まれた子ギツネ。

 夏になると、母親は3日間の悲しい行動をはじめる。


 子離れの時期だ。


 それは子ギツネにとって突然の事件。


 いつものように、巣穴に入ろうとすると、母ギツネが狂ったように襲ってくる。

 子ギツネはびっくりして、それでも巣穴に入ろうとする。

 しかし、母は決して許さない。


 何度も何度も、自分の家に、母の元に戻ろうとする子ギツネたち。

 しかし、母ギツネは厳しく拒否する。噛みく。放り投げる。


 その攻防が3日ほどつづいて、そして、ついに諦めの時がくる。


 子ギツネたちは自分の力で生きていくために、母の元を去るしかない。


 悲しく、苛烈な子離れの儀式。

 子ギツネたちの10匹に1匹しか生き残れない自然の脅威に、母は解き放つ。


 これが野生の掟。


 子は親離れして、はじめて自分の足で立つ。


 優ちゃん、39歳。


 太郎くんという伴侶を得て、彼にすがるのではなく、隣に立って歩こうとしている。


(つづく)

 映画『アルキメデスの大戦』

 原作者:『ドラゴン桜』を書いた漫画家三田紀房。

 監 督:『永遠の0』の山崎貴

 出演者:菅田将暉 柄本佑 舘ひろし 田中泯ほか


 1930年、対米開戦を視野に戦艦大和を建造し、日本の国威を世界にと計画する、この映画はフィクションであり実話ではありません。


 物語は、予算の無駄遣いと計画に反対する山本五十六が、櫂直かいただしを召喚するところから動きはじめます。彼は帝都大学100年に1人と言われた天才数学者です。


 戦艦大和建造見積もりの嘘を数学的に暴く櫂、キャッチコピーに、すべてが凝縮されています。

 曰く「これは、数学で戦争を止めようとした男の物語」です。


 ともかく、菅田将暉さん、すごくいいです。最高です!


 柄本佑さんとのコンビも、間の取り方が漫才みたいで面白いし。

 天才でコミュ障って役柄、板についてます。


 なにより、数字を美しいと感じる感性、必死になったあなたは

 本当に『美しい』。

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