母という名の女
アメの前にぶら下がる問題は、叔母のために良かれと思ったことが連鎖反応で、さらに厄介ごとへと進化していくという波であって。
まさに、転げ落ちる坂道をさらにスピードを上げて落ちていくような状況だ。
1年ほど前にみたメキシコ映画『母という名の女』の毒親じゃないけど。
そんくらいの恐怖だって、思ったわけです。
これから、どうなんの?
お縄がまってんの?
てか、最悪、叔母のヒステリーと言葉の暴力に直面するのかって。
無理、ぜったい無理、身体と心が持たないから、そんなことになったら。
それに、離婚届、偽装したわけじゃないし、ただ、夫である叔父に送っただけで、それを叔母本人が知らないって、それだけだし。
そ、そこが怖いんだけど……
「ともかく、まずgoogle先生じゃ。婚姻届が代理人でもいいのか」
私、スマホでチェックした。
「だ、大丈夫です、だれでも大丈夫」
「わかった、では私たちで提出しよう」
離婚届につづき、婚姻届までもかい。
とほほ……、そんな簡単に行きゃ、世の中平和ですって。
きっと、なんかあるから。
暑いし、オバケがでてくっから。
肝試しに繁盛しているのオバケが、「まいど」って出てくっから。
「ですが、書類に不備がある場合、代理人では訂正できないと、そうgoogle先生が書いてます」
オババ、封筒から書類をだしました。
「鉛筆を持っているか?」
「鉛筆?」
「優ちゃんは、こういうことさせてマトモにできるか」
「できません!」
「先に下書きをしておく」
私、すぐに売店でシャープペンと消しゴムを買ってきて、オババ、老眼鏡をかけると、書類をにらみながら下書きを始めました。
「印鑑は?」
「google先生チェック! えっと、実印でも認め印でもかまいません」
「よし、文具店で、すぐさま、二人の印鑑を購入して」
「今ですか」
「今しかない。勝江が戸籍謄本を見ないためには、私たちでなんとかするしかない!」
「は! 行ってまいります」
「頼んだ」
「オババは」
「私は、ここで、もし先に戻ってきたら書類をなんとか……」
そんなことで青ざめてると、ウキウキ3人組が診察室から戻ってきました。
早い、早すぎる。
まだ、印鑑がないんだから。
で、優ちゃんの車椅子を押しているのは、太郎くんで、幾分、顔が紅潮して、どこかキラキラして嬉しそうで。
それは優ちゃんも同じで、以前より痩せて、やつれてるが、目がきらめいて。
叔母、そんな二人を穏やかに見つめている。聖母か! いきなり聖母になったんか。
「やはり、2ヶ月に入っていました。すぐ3ヶ月だそうです」
「そうですか」
「すみません。僕が気づくべきだったのに、無理させて、優ちゃんを貧血で倒れさせるなんて」
「はじめてのことだから仕方がないですよ。でも、超音波って驚きねえ、スロモーションみたいに動いていて。丸いものがピクピと心臓が動いてて」って叔母。
「あ、あの、俺、じゃない、僕たち、お義母さんに結婚、認めてもらいました」
「そ、そうなの。よかった」と、私。
「おやおや、私、そういうことじゃないのよ」と、叔母。
「びっくりしただけで、別に反対なんて、太郎さんがいい人ってわかりましたからね」
叔母、これまでの行動を完璧にチャラにしての、でっかい手のひら返し。
これ、推測だけど、忘れているわけじゃなくて、叔母の心のなかでは自分に正当性があって、そして、おそらく、事態の変化に正当性の帳尻合わせをして、たぶん、結論は孫のバアちゃんになることが正しいって、そうなっているのだろう。
中途の矛盾は忘れている。
「じゃあ、結婚書類を……、太郎くんと優ちゃんで記入できますか」
「なにを書けばいいの」って、優ちゃん、天然だ。
「優ちゃんは自分の署名だけで、あとは太郎くんに」
オババ、婚姻届を渡した。
それで、なんとか、できちゃったんだ。書類が。
なんども見たが、問題はなくて、あとは必要書類を集めて提出するだけの婚姻届が。
「婚姻届を提出するの、二人で行きたいですが。でも、優ちゃん、高齢出産になるらしく、貧血の症状があって、だから数日、大事をとって入院したいとお願いしたので」と、ここで太郎くんがいいこと言ってくれた。
私とオババの背筋に油汗が流れてるなんて、まったく気づいてない。
「そうなの。じゃあ、私が提出してきましょう」と、オババ。
「しかし」
「大丈夫、私も責任もって提出についてきますから」と、私。
「アメさんまで、ありがとうございます」
ここがダムなんだ。ここで川の水、せき止めなくては。
てか、ここで行かんでどうする。
「だから、優ちゃん、委任状を書いてもらえるだろうか」
「委任状ってなんですか」
「婚姻届には戸籍謄本を添付しなくちゃならないから、先ほど、委任状を書いておいたから、ここにサインを」
実は、オババ、待っている間に手書きの委任状を作っていた。
「はい」って素直な優ちゃん。
「おや、私がとってくればいいじゃないの」
叔母が口を挟んだ〜〜〜!
「いや、それは、勝江も優ちゃんに付添いたいでしょう」
「役所に行くくらい、なんのこともないです」
「そこまで言うなら、書類の記入できますか」
オババ! ナイスフォロー!
姉妹争いで、負けなしのオババの知恵。
「書類の記入?」
「そうですよ、役所仕事は煩雑ですから」
「そ、それは」
「結婚するには、華やかな式とか、楽しいことありますけど、実際は事務作業ですよ。あなた、昔から苦手でしょ。そういうこと」
オババ、かぶさるように強調してる。叔母の一番苦手な書類仕事。
そうだった。自分のときも事務的なことが多すぎて、招待状やら結婚式場の手配から、新婚旅行の手配やら、楽しんでいる余裕がなかったような。
そうだ、結婚は事務作業だった!
(つづく)
映画『母という名の女』
メキシコ映画。
今回の内容は、盛大にネタバレはいってますから、ご注意ください。
17歳の女の子が妊娠、相手も17歳という少年少女カップル。
女の子は母とは疎遠で、男の子は親から勘当されています。
まあ17歳ですから、自分の身さえもままならない、そんな子どもが、赤ちゃんの世話なんて無理なんであって。
ミルク欲しがって泣いても、眠いから寝ているという、育児とは、ほど遠い状態です。
17歳の父親もバイトしかしてない少年だから、当然手伝わない。
そこに女の子の母親が登場します。
少年少女は、海に遊びにいくときなどは、楽しそうに赤ちゃんを連れていく。てか、それ、お人形遊びかいというレベルで、現れた母親が必然的に面倒をみるわけです。
で、この映画、恐怖映画なんです。
毒親としての母、パワー全開で娘の結婚、破壊します。
生まれた赤ちゃんを、かってに養子にだすわ。
娘の17歳の男を籠絡するわで、こんな母、いらんわってくらい毒親でした。




