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ポンペイ

 姉の愛する男を奪う。


 ふたりの間には叔父という、若い頃には、さぞモテただろう魅力的な男がいた。

 姉妹は男をめぐる関係に蓋をして、休火山のままシニア世代まで生きてきた。


 その長い時を刻んじゃった休火山が、今になって噴火の危険性を増していて。

 それって、古代ポンペイのヴェスビオス噴火に近い感じで、一瞬であたりを焼きつくしそう。


 噴火警戒レベル4!


 気象庁によれば、それ、避難準備の段階だから、

『警戒が必要な居住地域での避難の準備、要配慮者の避難が必要』ってレベル。


 アメ、

 以前も書いたけど、心がもろい。

 自分的には、この場合、要配慮者であって、すでに避難すべき状況である。


 ついでに位置関係を描写しておくと、


 叔母の自宅キッチンには一枚板の重厚なダイニングテーブルがある。

 けっこう、大きい作り。


 オババが耳にイヤフォンつけて音楽聞いても、正面に座っていると聞こえない距離感。


 そして、オババの隣に座っている私にはかすかに聞こえる距離。


 つまり、オババの右に私が座り、正面に叔母って位置。


 私、どこでも逃げ道確保の精神で生きてるから……。

 オババの右隣が、一番玄関ドアに近いんで、そこ、確保した。ここまでは、でかしたって自分を褒めてる。


「私、妊娠したって嘘を言ったのよ。あの男に」


 って、叔母が吠えた瞬間に、オババの顔色が変わり、私は右足を外側に出し、わからないように椅子を背後に押した。


「じゃあ、流産って」

「結婚してから、そういうことにしたの」


 で、私、猫背になって、スタートダッシュ態勢。

 もう、噴火直前。

 警戒警報レベル4.5


「あの男はそれを知っているの」

「知らないのは姉さんだけよ」


 レベル5!! レベル5!!


 要配慮者、すでに避難が完了してなきゃいかんかった。


 そっと、椅子から横にずれて、匍匐ほふく前進しようとしたら

 オババにシャツ、掴まれた。


 つ、強い! で、オババ、


「そう」って、むちゃくちゃ低い声で目を細めた。


 もうメッチャ、警戒警報!

 レベル5までが気象庁のレベルだけど、ここレベル6!

 鐘ガンガン鳴ってる。


 オババ、シャツ掴んだまま、こっちを、ゆっくりと流し目で見た。


 こ、怖い!


 私、ニコって、ひきつりながら笑ってみた。


 オババ、片方の唇をあげ、得意の皮肉な笑顔を浮かべた。浮かべたけど、いつもと違う。

 いつもの余裕かましてる奴じゃない。


 ちょっと泣いてるみたいに見えて……、心が冷えた。

 で、トスンって、椅子に戻った。


 OK、オババ。

 噴火しろ、灰は受け止めよう。

 盛大にやってやれ!


「あなたの結婚がダメになったのは、私のせいだと言いたいの?」


 え? オババ、噴火方向、そっち?


 じゃないでしょ、普通。男をだまし取った、そこ怒るところでしょ。

 噴火の火吹き加減、間違ってない?


 で、その間違い火の粉に、叔母、ぜんぜん動じない。

 見事に受け止めた!


「そうよ!」って断言した。


 おいおいおい、がっぷり四つに組んで、なんでか、叔母のほうが被害者ヅラ。

 オババ、徹底的に喧嘩の方向性を間違っている。


 オババ、今こそ、ここで、かませ!

 噴火の位置を直せって、救出用のタオルを投げてみた。


「あの」って。

「喉がかわきませんか」って。

「こんな大事な話をしてるときに、喉など乾きません。緊張が足りん!」って、ふたりセゾンで怒られた。


 オババと叔母、同時だぁ。


 さすが、姉妹、息だけは合ってる。

 って、私、泣いてもいい?


(つづく)

 映画『ポンペイ』

 古代におきたヴェスビオス火山の噴火を扱った超大作。


 無敵の剣闘士グラディエーターとして生きるマイロは、ポンペイの有力者の娘カッシアと身分違いの恋に落ちます。


 西暦79年8月24日、ヴェスビオス火山が噴火。

 マイロは奴隷の地位から自由を得て、愛する人を救い出すことができるかってのが縦糸で、

 ヴェスビオス火山の噴火が横糸です。

 古代の史実に基づいた映画です。

 一瞬で人々を飲みつくす火山の恐怖を描いて秀逸な作品でした。

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