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ロミオとジュリエット



 オババの誕生日会。

 招待客は老人会とか、元ママさんバレー友の会とか、なんだか年齢層が、ものすごーく高いほうに偏ってる気がするけど。

 気のせいだろうか?


「アメ、料理は、なにがなんでも勝江に張り付かせるから。我らのロミオとジュリエット、仮面舞踏会で引き合わせ、頼んだわよ」

「ロミオとジュリエットって、なんですか」

「コードネームです」

「コードネーム、必要ですか?」

「ふふふ、何事も形から入ることが重要。まあ、あれも意地になると相当に手強いですからね。お菓子の奪い合いから、いい勝負してきましたから、ちなみに、あなたはジュリエットの乳母役」


 う、乳母……、39歳になる優ちゃんの乳母って。


 シェークスピアの戯曲では、ロミオ16歳で、ジュリエットは14歳。こっちのロミジュリ、35歳と39歳って。


 いいの? いいのか、ロミジュリ、それでいいのか。

 ちょっと、せつなくならないか。


 1968年に上映された映画『ロミオとジュリエット』


 当時、ジュリエットを演じたオリヴィア・ハッセーは17才。

 今なら淫行条例に抵触しそうだけど、むちゃくちゃ可憐で可愛いかった。あの映画のジュリエット、天使が舞い降りてた。


 音楽はニーノ・ロータ

 仮面舞踏会でのカウンタテナーの美しい声、今聞いてももうっとりしてしまう。



 優ちゃん、39歳。精神年齢的には10代かもしれない。

 まあ、過保護の優ちゃんと働き詰めの太郎くんは、恋愛精神年齢ではそのくらいかもしれない。ロミジュリ路線で許されるかもって。


 エセ誕生日会に車をとばしながら、そんなこと考えていた。

 何度かUターンして帰りたいと思いながら、我が家の安寧あんねいという使命感だけで頑張った。


 で、パーティ会場に到着。がやがやと庭から外へと声が響いてくる。


「ああ、アメ、来たのね。じゃあ、仮面配ってね」


 オババは私を確認して、声も高く、顔の血色がいい。


「あの、パーティって6時からじゃ。まだ5時半ですが」

「みんなね、気が早いのよ。ほら、年を取るとせっかちになるから」

「優ちゃんは?」

「庭にいるわ」


 そこには、椅子にすわった優ちゃんがいた。

 シニア世代に混じった39才って、なんていうか

 ほんっと若い!

 キラキラ輝いている。

 なるほど、オババ、こういう作戦か。


「太郎くんだけ7時に招待したから、手はずはわかってるわね」

「て、手はず? どうすればいいんでしょうか」

「アメ。そこはあなたの腕の見せ所。7時から期待しているから」


 また、丸投げかい!

 オババの丸投げ、そろそろ熟練の域に達っしてる!


 100均で購入した仮面を配りはじめると、最長老感がすごいお婆ちゃんが杖で立ち上がり、声をかけてきた。


「ああ、あんたか。アメさんかい。お若いわな、そんなんで今日は大丈夫かね」


 うわー、私も若者分類に入ったー!

 周囲を見渡すと、そこは老人たちの花園。


 で、ん? どういう意味だろうか?

 大丈夫って、どういう意味なの?


「あ、あの今日は大丈夫って」

「はあ?」

「あの大丈夫って、どういう意味ですか?」

「はあ?」

「今日、大丈夫って、どういう意味ですか!!」

「声がでかい! 勝江さんに聞こえたら困るじゃろ」


 ついでに、庭にいた人々が、こちらを見てシーと指を立てた。


 知っている!


 ま、まさか、この30人の仮面をつけた老人会の人々。

 全員が知っているのか。

 全員、知って、ワクワクしながら、楽しんでいるのか。

 なんちゅうこっちゃ。

 オババ、どれだけ力を持ってる!


 敵にまわしたら怖すぎる。


 そうして、いつしか午後7時近く、辺りはすっかり暗くなった。


 アメ家のジュリエット優ちゃん。

 オババの誕生日パーティで、のほほんと笑う優ちゃん、ちょっとばかり不安を感じるのも確かだ。


 庭でお婆さん、お爺さんたちに囲まれ、まるで他人事のように食事をついばんでる。


 太郎くんが来ることを知っているのか。

 頃合いを見計らって、私、隣に行った。

 そして、「太郎くんが来る」と囁いた。


 優ちゃんは、私の声が聞こえてなかったようだ。普通に紙皿の里芋を箸でつまんで、それを、口もとに持って行こうとして、そして、いきなり咳き込んだ。

 近くのお婆さんがハンカチを渡し、私は背中をさすり、里芋はコロコロと転がっていく。


「太郎さんが、本当に」

「ええ、外に出ましょう」

「ママには」

「叔母さんは知らない」


 優ちゃんは小首を傾げて、しばらく、無表情でいた。


「7時にくる予定。会わないでいいの?」

   ・

   ・

   ・


 彼女は首を振った。たぶん、彼女が自分の意思で答えたの、初経験かもしれない。


「会いたい」


 聞き取れないほど小さな声で、唇の動きだけで言葉の意味が読み取れるくらい細い声で、会いたいと囁いた。

 その声は真剣さに満ちていて。

 この子は恋をしている。

 すがりつくような視線が絡まり、まるで悪いことをした子どものような目で訴えて来る。

 会いたい、会いたい、会いたい、と。


「あの人はどこに?」


 優ちゃんはそう言った。


(つづく)

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