アラジンの魔法のランプ
自宅で受話器を取った瞬間、大音量の音がながれてきた。
曲がラップ!
前夜はストレスが最高潮に達して爆睡した、その翌日なんだ。
で、受話器を耳から外してスピーカーにして、キッチンカウンターに置き受信ボタンをおした。
「もしもし、アメ。おはよう」
やはりオババだ。
昨夜は、叔母も大丈夫ということで、優ちゃんだけを残して帰った。
「いつでもどこでもの、アメです」
「昨夜はご苦労さまでした」
「オババさまも、それに、私、太郎くんの苦労話にやられました」
「なかなかの苦労人。いや見所がある」
「ですが、優ちゃんとは」
「それで、ちょっと相談があるんですよ」
キタキタキタァーーー!
オババの相談って、たいてい決定事項だ。
辞書では「相談」の意味は物事を決めるために他の人の意見を聞いたり、話し合ったりすることだから。おそらく、世界すべての辞書が同じでも、オババ辞書では意味が違う。それだけは確信してる。
「どういうご相談でしょうか」
「あなた、ランプから出てくる魔神になってちょうだい」
「ランプの魔神? ジーニーですか」
「そうですよ。体重も順調に増してるようだし、似合ってるわ。でね、昨日で太郎くんの気持ちはわかったでしょ。ですからね、ここはなんとしても、優ちゃんと結びつけなくちゃなりません」
体重も順調って、魔神よりさらに引っかかるけど。
「でも、叔母さんは大反対ですが」
しばし、沈黙が続いた。まるで、考える猶予を与えようって具合で、それで、いつも通り、私、なあんにも考えてなかった。
「アメさん。あなた、そんな愚かでしたっけ」
「……」
「よーーく、考えて御覧なさい。優ちゃんがこのチャンスを逃して、他に嫁げることなんてあります?」
「それは、ないです」
「本当に何も考えてないわね。いい、夫には捨てられたも同然の妹を、つまり、あなたの叔母と従姉妹を、将来、誰が面倒を見ると思うの?」
「えっと。政府とか」
「アホですか。面倒をみれる身内がいるものに国は助けてくれません」
な、なんちゅう不覚!
アメ、あんたはアホか!
そ、そこまで、考えていなかった。考えつかなかった。
私は愚か者である。
未熟者すぎた。さすが、オババ、だてに年齢を重ねていない。
私、自分の頭をガツンと一発張り倒した。
私の夫には妹がいるが、いま、海外に住んでいる。帰る予定もない。
優ちゃんは叔母の一人娘で、結婚しなければ、その結果。
つまり、将来、頼るのはウチしかいない。
オジジ、オババにさらにって、ないないない。
介護は経験済み。それはもう綺麗事ではなくて、実家の両親で大変な思いをした私。病院に行くことがストレスになっている。
「なります! 魔神だろうがなんだろうが、もう、なんでもやらせていただきます」
「理解したかね」
「はっ、隅から隅まで、この危機に対処せず、どこで危機管理ができましょうや」
「ふむ」
「でも、叔母さんの嫌がることをしてもよいのですか」
「あれは、なかなか大変で、子どもの頃から厄介な女でありましたよ。太郎さんならば、優ちゃんともども」
「な、なるほど」
オババと利害が一致してしまったぁーー!
こりゃ、優ちゃん、ぜったい駆け落ちでもしてもらわないと。
最後のチャンスだ。崖っぷちなのは優ちゃんだけじゃない。アメはさらに崖っぷちだった。
「では、願いを太郎くんから聞いておいで」
「オババさまは何をするんですか」
「私の役はランプじゃ」
そ、それってー。なんもしないってことじゃないか。
オババがランプをこすったら、私が出て行くってことじゃないか。
すべてを私に丸なげしたぁぁあーー!
(つづく)




