「誰も知らない」から「楢山節考」へ
太郎くん、もともと無口なタチなのか、それとも、面食らっているのか、何も言わない。
しばらく、気詰まりな沈黙がすぎて。
「「あ、あの」」と、同時に口を開いた。
「いえ、あの。僕のことを知りたいですよね」
「ええ、あの、そう、そうです。あ、あの、なぜ、優ちゃんを選んだのか、それが」
「変ですか、それ」
どう答えようか、迷っていると、その窮地を太郎くんが救ってくれた。
「優子さんはピュアなんです。僕の会った人のなかで、あれほどピュアな人は見たことがない、幼いころに飼っていた子犬のコロみたいに。僕は……」
それから夜の病院で、私は太郎が語る訥々とした物語を聞くことになった。
「俺は高校生んとき、両親を亡くしました」
太郎くんは、低い誠実な話し方で、彼の生い立ちを言葉にした。
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だめだぁーーー! 太郎くんの話を書けない。
書いていくと、その不条理さが映画「誰も知らない」のような暗い内容になっちまう。
再度、トライ!
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今度は「怒りの葡萄」になっちまった。
次!
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うーー、うーーー。もう「楢山節考」
書けば書くほど、暗くなっていく。
うーーーん。
簡単に書くと、高校中退してから、彼は人の嫌な面をさんざん見てきた。農業を営む上でも、若さゆえの世間知らずから簡単に他人を信じ、騙された。決して楽な道ではなかった。
時に世の中は弱い人に理不尽だ。
太郎くんはそれを苦しかったとか、辛かったとか、そういう言葉をいっさい使わず。ただ、こう言った。
「いろんなことって、結局は自分でなんとかするしかない」と。
捨て身だ。
しかし、太郎よ、私は不安だよ。
さらなるイバラの道を選ぼうとしてじゃないか、その、なんて言ったらいいのか。女性を見る目、ほんとにあんの?
こっち身内で、君は他人だけどね。
ついね、ついつい思っちゃうわけだ。
そんな苦労ばかりした男が好きになった女が、よりにもよって世間知らずで箱入り娘のまま、アラフォーになった私のギリ従姉妹ってことに。
39年間、優ちゃんは、ずっと映画とか、海とか、イルミネーション輝く街とか、クリスマスとか、つまり、ざっと思いつくだけ書いたけど。恋人と過ごすイベントや場所全てを家族だけで乗り切ってきた、乗り切りすぎてきた従姉妹だよ。
「優子さんはピュアなんです」と太郎くんは言った。
これまで接してきたことのない女性だという。
その認識は正しい。
あれは、裏なんて考えれない素直な女で、裏切ることはぜったいない。そこは保証できる。まず、ない。あったら困るほどのレベルだ。
これまで太郎くんが経験したような辛い世間とは隔絶した温室育ちだから。
だから、老けない。
そうなんである。
優ちゃん、若く見える。
30歳といっても違和感ない。10歳はごまかせる。いや、20代で通る。
結構、かわいいの。巨乳なの(……)。
で、ささやき声で言った。
夜だから。
そういう時って、なにかの親和性ができちゃって、危険地帯に残された者同士って感覚で、そういう雰囲気が、いい感じに煮え立ち。
例えば、
「叔母さんが反対しているって聞います?」
なんちゃってことを言ってしまった。
(つづく)




