リベンジマッチを考えておけ
沖田は、呉基地に戻ると米内光政海軍大臣の側近である、井上成美海軍大将のもとへ、連れて行かれた。
本土の土をもっと踏みしめたい所ではあったが、終戦直後という事で、次なるミッションを与えておきたかったのだろう。
「これは、これは、井上大将。初めまして。厳龍艦長の沖田幸三大佐であります。」
「君があの厳龍の艦長の沖田君か……。」
井上大将は、頼りない50代のおっさんが現れたと思ったらしい。
「もっとパワフルで、豪傑な感じをイメージしていたから、ちょっと違ったな。」
「それは、まぁ良いとして、沖田君。ひとまず終戦を向かえられた事に対して、礼を言わせて欲しい。ありがとう。何とか講和も五分五分から、六部四分くらいの条件までは、持って行くことが出来た。それも、全ては沖田君を始めとした厳龍乗員のおかげだ。」
「しかしながら、日本を含む東アジアは、まだ不安定の中にある。そこで、もう一度戦力を整え、大本営は、憎きアメリカやイギリスに再び戦火を交えたいと、考えているが君はどう思うかね?」
井上大将の言葉は、ずっしりと重かった。その重みを取っ払うかの様に、沖田は口を開いた。
「何の為に、講和したんですか?」
井上大将は言葉に詰まった。確かにアメリカやイギリスに勝ちたいなら、講和する意味はない。
「この講和は、日本が力を再度つけるための休戦のようなものだ。ここで一度、切っておく事で、国民的にも世界へのメッセージにもなる。それは重要な事だ。」
「それでは答えになっておりません。もう一度聞きます。なぜ講和をするのに、また同じ相手と戦火を交えなければならないのですか?米内さんも同じ考えなのですか?」
沖田は少し怒りを覚えた。これだけ厳龍がフル稼働で戦って、ようやく痛み分けに持ち込んだにも関わらず、また機を見て戦争しよう等とは、無政策にも程がある。
「しかしな、沖田君。アメリカ軍はまだ、日本へのリベンジマッチを、考えているという事だけは、頭の隅に置いておいて欲しい。」
井上は、必死で沖田を説得していた。




