第八十一話 太陽に向い咲く花
少女は名をヘリオトロープと言った。
ロマーヌ地下ミサイル基地、統合情報管制用生体ユニット、FCSB-02ヘリオトロープ。
それが彼女の正式名称らしい。
最初はどうやらイタリア語で説明されていたようだがさっぱり分からなかった。
途中から何かに気付いたようで、アイゼンと何か相談しつつ日本語に直してくれた。
彼女はマルチリンガルらしい、非常に優秀だ。
俺と話している間、彼女は自身の体を隠そうともしない。
上から下まで丸見えだった。
さすがに年頃の女の子がこれではまずいと俺のコートを羽織らせたら余計にイヤラシくなった。
「ってそうじゃない!」
あまりに理解不能な出来事の連続で現実逃避を始めてしまうところだった。
自身にツッコミを入れて気を取り直すと、ヘリオトロープとティアマトが驚いたような目でこちらを見ている。
彼女達に「何でもない」とごまかしたあと、俺達の会話の内容が理解できずにやきもきしているティアマトを少し宥め、とりあえず待機をお願いする。
まずは彼女が何者で、何故ここにいたのかを聞かねばなるまい。
「えーと……ヘリオトロープだったね、ヘリオって呼んでいいかい?」
「はい、ご自由にお呼び下さい」
「まずは君がここにいた理由を聞きたいんだけど……」
「了解致しました。ですが現時点ではお伝えするべき項目が多く、全てをお伝えするにはかなりの時間を必要とします、よろしいでしょうか」
「じゃあ細かいことは後でゆっくり聞くとして、何で俺がここに呼ばれたのかを知りたい。
それに目を覚ました時、俺を見てシャルルと言っただろう、それはもしかしてシャルル・アルカードという人の事?」
ヘリオが最初に叫んだ名前、それは俺にも聞き覚えのある名だった。
こんな広い世界でまさかとは思ったが、心当たりがある以上聞かない訳にはいかない。
「はい、シャルル様とはシャルル・アルカード様の事です。
私のマスターであり、私はこの地の守りを言い付けられていました」
「でも、君はここの……ミサイル基地? に所属していた人間なんだろう?
シャルルもここの人間だったのか?」
「私は生体ユニットですので人間には含まれません。
シャルル様はここの人間ではなく……今は計器が使用できないので正確な日時は分かりませんが、ある時ここを訪れた外部の方です。
シャルル様が訪れる少し前に、この基地でミサイルの発射実験を行ったのですが、それに関して思うところがあられたようです。
最後は施設関係者と戦闘になり、施設内の人員を全滅させた後、私を下僕にして頂き、ここの守り人として置いていかれました」
「寝ていたようだったけど……」
「はい、シャルル様とお別れする際に、いずれ迎えに来るから良い子にして寝ていなさいと言われましたので」
断片的な話ではあったが、何となくイメージは掴めた気がする。
ここは古代人の作ったミサイル基地だったようだ。
ある時この施設でミサイルの発射実験を行った所、シャルルがここを訪れた。
そして基地内の人間と戦闘になり、ヘリオトロープ以外全滅した。
こういう事なのだろう。
何故そうなったのかは分からないが、ヘリオトロープの目を見る限り、シャルルはヘリオトロープを眷属化してここに残したようだ。
それならば、本来ヘリオトロープから見たら外敵であったはずのシャルルを信頼しているのも理解は出来る。
そしてあの通路に積んであった人骨も……あれは元々ここに詰めていた人間達のものだったのだろう。
「それにしてもだいぶ長い間ここにいたみたいだな」
「はい、今アイゼンから伝えられた情報では、シャルル様が去られてからおよそ一二二二年経過しているようです」
「アイゼンと話せるのか?」
「はい、アイゼンは私を防衛するための防御ユニットです。
電波信号もしくは光信号などで情報のやり取りが出来ます」
「はぁ……大したもんだ。
しかし一二〇〇年以上も前の遺跡だったのか……それにしては風化があまり進んでない気がするな、外はそれなりだったけど」
「シャルル様の方で状態保存の手段を講じて頂けたようです。
私が眠った後に実施されたようですので、詳細は分かりません」
状態保存……あのスライムみたいな青いマナの塊がそれなんだろうか、どうやったらそんな事が出来るのか……
分からないが、シャルルは思っていた以上に強力な力を持っていたのだという事は何となく想像ができた。
まあ、今の俺から言えばお義父さんになるのだが……
「それで、何でアイゼンは俺をここへ案内したんだ?
俺は確かにシャルルと関係あると言えばあるが、そこまで直接的な繋がりは無いんだけど」
「シャルル様は、ご自身かもしくはシャルル様の眷属に連なる者が迎えに来ると言っていました。
その為の識別情報をアイゼンに組み込んで頂いたのです」
つまりどういう理屈かは分からないが、アイゼンは俺達……とりわけ俺自身をシャルルの関係者と認定したようだ。
だからあの時、俺を目指して進んできたのだろう。
シャルルが存命で、詳細が伝わっていれば何の問題も無かったのだろうが、こちらはそんな事とは知らない。
仲間を傷つけたゴーレムが襲ってきたとなれば必死に抵抗する。
そこに行き違いが生まれてしまったようだ。
ちなみに最初にフローワを攻撃したのは、エルフ族であったかららしい。
エルフ族がこの基地を奪取しようとしている可能性があると判断したようだ。
しかしその後、俺を見つけた事により状況が変わり、俺の詳しい生体情報を得るために接近してきたのだそうだ。
だから一撃与えた後、後退するフローワ達には目が向かなかったのか。
「お連れ様に危害を加えてしまった事に関しては、アイゼンも深く反省しているようです」
見れば何となく叱られる前の子供のような雰囲気を醸し出しているアイゼン。
まあヴァンパイアを守る騎士としては、エルフ族が侵入してきたら敵だと思うのは仕方がないとも言える。
機械だって間違えることはあるという事か。
「千年以上も経ってるんだ、認識が違っていても仕方ない、むしろ敵じゃないと分かってホッとしたよ。
それより装甲がボロボロになっちゃったけど、大丈夫なのか?」
「アイゼンの主装甲はエーテライトで出来ていますので、マナを吸収する事により自動的に再生を行えます。
酷く傷んでしまっているので完全再生にはしばらくかかると思いますが。
それにしても、重火器を使わずにエーテライト装甲をここまで破壊出来るとは驚きです。さすがシャルル様の眷属という事でしょうか」
ヘリオトロープはそう言いながら尊敬の眼差しを俺に向けてくる。
まあ、やったのは俺ではないのですがね……
しかし何やらまたSFチックな話が出てきたものだ。
ここに来てから未知の発見の連続で頭の整理が追いつかないが、こっちは学者じゃないのだからもう少し手加減して欲しい。
エーテライトとはどうやら既存の金属にマナを作用させて作った、いわゆる魔法金属的なモノらしい。
最初の戦争が起きて以降、魔族の元で保護されていた旧人類……つまり俺と同じ血を引く人間達が、魔法に対抗する手段の一つとして作り出したそうだ。
アイゼンもヘリオトロープもそういった人達に作り出されたらしい。
彼らは魔族統治の時代が到来すると、各地に散ってそれぞれの活動を行っていたそうだ。
ちなみに旧人類達の間では、現在使われている共通語以外に、俺がいた時代のいくつかの国の言葉を使用してコミュニケーションを取っていたそうだ。
そうすると、共通語しか使えない新種族達に対してはそれだけで相当高いセキュリティ性が確保される。
この、魔法が浸透した世界で、圧倒的に少ない勢力が科学を軸にして戦っていく為にはそれが一つの武器になったのだろう。
話を聞けば、この基地は元々“天界の門”を攻撃するために作られたものだったようだ。
第二次天魔戦争で魔族が勝利した後、天族は“天界の門”という“空の門”と同様の異空間に繋がる扉を開き、そこに逃げ込んだ。
天界の門を巡っての攻防戦は何度か行われたが、思うように戦果が上がらず、いたずらに犠牲が増えるのを嫌った魔族が天族を地上から追い出したところで戦争は終結。
天界の門は半ば放置される形となったそうだ。
しかしそれでは収まりがつかない勢力が存在したのだ。
ここを作った旧人類達のグループもその一つだった。
彼らは自分達の持てる知識全てを総動員し、魔法と科学を融合させ、この地に地下施設を築いた。
そして来るべき時に備え、一撃必殺の兵器を開発しつつ、万が一にも天族に発見されないよう様々なカモフラージュを行いながら
殆ど地下だけで生活が出来る空間を作り上げたのである。
このヘリオトロープが眠っていた場所にある、地上を模した居住施設もその一つで
長期間におよぶ地下での潜伏生活に耐えられるよう、住人のストレスを少しでも減らそうとする努力があちこちに窺える。
ボルトテック社も真っ青の出来だ。
「ノア、出来れば私にも理解できる言葉で話して欲しい」
ティアマトが面白く無さそうに口を尖らせて抗議する。
どうやら日本語での会話を長くしすぎたようだ。
久しぶりの日本語でつい話し込んでしまった、さすがに三〇年以上慣れ親しんだ言葉は半年程度では忘れない。
「ごめんなティアマト、とりあえず今話したことを皆にも伝えるから一旦集まろう」
「わかった」
俺はヘリオトロープに状況を説明し、皆に詳しい事情を説明してもらう事にした。
ちなみにヘリオトロープは現在使われている共通語も使えるとのことだ。
であればわざわざ日本語で話す必要はなかったのだが、まあ久しぶりに故郷の言葉で思いっきり話せたから良しとしよう。
広間に戻った俺達は、待機していたメンバーにヘリオトロープを紹介し、今まで説明を受けた内容を簡単に説明する。
専門的な話が多かった為、本当に触り程度の説明しかできなかったが、それでもフローワとメイアは盆と正月がいっぺんに来たようなはしゃぎ様だった。
「貴方には周りにヴァンパイアが集まる呪いでもかかっているのかしらね」
「また小さな女の子ですか……本当にノアさんは変態さんですね」
予想だにしなかった新たなヴァンパイア少女の登場に、ルビーナとアリスは呆れ顔でため息を付いていた。
ひどい言いがかりだ、一体俺にどうしろと言うんだ。
「そういえばヘリオ、俺達の仲間がもう一人、大型リフトの先にある大きな扉のところにいるんだけど、あれ開けないか?」
そう言えばユニコーンを待たせたままだった事を思い出したので、ヘリオトロープに相談してみる。
この施設を制御するための存在なら、あそこも開くことができるのではないかと考えたからだ。
「上というと、以前使用していた大型資材の搬入口ですね。
施設が完成してからは埋め立てられて非常口として使用されていた場所です。
恐らく施設が稼働していれば開く事はできると思いますが……現在の施設の状況を確認する為に、管制室へ向かいましょう」
そう言ってヘリオトロープは俺達を管制室へと誘導した。
管制室というくらいだから、メカメカしい計器類やモニターがずらっと並んだ部屋を思い浮かべたのだが
案内されたのは何と居住区にあった木造平屋住宅の地下室。
広さは六帖程で、壁にかかったやけに薄いモニタとノートパソコンのような機械が置いてあるだけの、何の飾り気も無い部屋だった。
「随分殺風景な部屋だな、もっと機械がゴチャゴチャあるものだと……」
「この施設の管理は私達が全て行います、ですからサブマスターの思い描くような複数人での管理を想定した施設はありません」
「私達って、他にもいるのか?」
「正確には“いた”というべきでしょうか。
私の前に任務についていた生体ユニット“FCSB-01ネメシア”は、シャルル様との戦闘で破壊されました。
ですので、バックアップとして作られていた私が自動起動したのです」
「という事は……他には?」
「いません、あの時点では私が最後の生体ユニットでした」
ヘリオトロープは何でもない事のように淡々と話すが、内容は非常に重いと言わざるをえない。
兵器として生み出され、目が覚めたと思ったら即ヴァンパイアにされて千年以上も眠っていたのだ。
酷いという以外にないではないか。
シャルルもせめてここから連れ出して、女の子らしいことの一つもさせてやれば良かったのに。
本人が既に亡くなっているから何を言っても仕方ないが、俺が偶然ここに来なかったら一体どうするつもりだったんだ。
俺が心の中でシャルルに憤っていると、パソコンのようなものを操作していたヘリオトロープが神妙な顔でこちらに振り返った。
「通常動力は全てダウンしています、マナ変換動力による発電だけ辛うじて動作しているような状況です。
ですがこの電力量だと……資材運搬用のハッチは開きませんね。
セルフチェックもエラーだらけで返ってきます、まともに使用できる施設は殆ど無さそうです……ご期待に沿えず申し訳ありません」
そう言ってヘリオトロープは本当に申し訳なさそうに小さな肩を落とした。
どうやら施設自体が瀕死だったようだ、まあ一二〇〇年も放置されていれば仕方のない事ではある。
むしろ一部だけでも生きていたのが奇跡みたいなものだ。
「そう言えばそのミサイルってどうなってるんだ?」
そういえばここはミサイル基地だと言っていた事を思い出す。
であるならば、本来運用されるはずだったミサイルはどうなっているのだろう。
施設自体がかなりのダメージを受けているようなので、とても無事に残っているとは思えなかったが
もし、その古代の遺産とも言うべき兵器を運用できれば……というスケベ心が俺の中を駆け抜けたのも確かだ。
「格納庫に魔力推進式巡航ミサイル“ゼピュロス"が一二機格納されているのは確認できましたが、稼働可能な個体があるのかまでは不明です。
また湖底部にある発射用ハッチが動作しないため、発射自体が不可能です。湖底に堆積した土砂が主な原因だと思われます」
ヘリオトロープからの説明を受け、落胆半分、そしてホッとしたのも半分。
そんな何とも言えない微妙な感情が俺の中で生まれた。
どうやら現実はそう甘くないらしい。
山岳地帯でわざわざ水中発射式にしたのは、この施設の場所を少しでも分かりにくくするためだろうか。
航空機などを作らずいきなりミサイルを作ったのも、恐らく天族の攻撃を警戒してのことなのだろう。
射ちっぱなしなら射つ瞬間を見られなければ場所を特定されにくいだろうが、航空機では拠点に戻らないといけないからな。
「それにしても、いくら俺のいた時代の知識を持っていたとは言え、こんなものを作れるなんて古代人ってのはどういう連中だったんだろうな」
「道のりは平坦とは言えなかったようです、この施設を作るだけでも計画開始から完成まで一五〇年程かかっていると記録にはあります。
記録年表をご覧になりますか?」
俺が頷くと、ヘリオトロープの見ていたモニター上に西暦で書かれた年号がずらずらと表示されていく。
そこにはこの施設運用に関する進捗が細かく記載されていたが、俺の目を引いたのはそれよりももっと以前。
年表の初めの方に簡単に書かれていた部分。
西暦二〇三〇年 第一次天魔戦争開始
これまで分からなかった、最初の戦争が起きた年。
それがこんな形で判明するとは。
これによると俺が最後に東京にいた年からたった一〇年の後、旧人類を滅ぼすことになる最初の戦争が開始されたのだ。
「……どうされましたかサブマスター」
ようやく知り得た事実の衝撃の中、聞き慣れない呼び名が耳に入ったせいで、最初は誰の事を言っているのか分からずに聞き流してしまった。
「サブマスター?」
確認するようなヘリオトロープの声にそちらを振り返ると、彼女の目は真っ直ぐに俺を見つめていた。
「サブ……マスター? 俺?」
「はい、マスター権限はシャルル様にありますが、現状ではマスターは不在で他に従うべき方もいません……
人間種でありシャルル様の眷属と言うことになれば資格的にも問題ありませんので、暫定的にサブマスターとして登録をさせて頂きました」
「いや、登録させて頂きましたって……そんな簡単でいいのか?」
「……ご迷惑でしたでしょうか?」
狼狽える俺を悲しそうな目で覗き込むヘリオトロープ。
こんな可愛らしい少女に切なそうな顔をされてしまっては嫌などと言えようはずもない。
古代人はどういうつもりでこんな少女型の制御装置を作ったのだろうか。
こんな制御装置にお願いされたら何だって言うことを聞いてしまいそうになるではないか。
制御装置に俺が制御される事態が容易に想像できる。
「い、いや、迷惑なんかじゃない。ただ、古代人というものがよく分からなくなっただけだよ……」
不思議そうに顔を傾けるヘリオトロープに俺の疑問をぶつけてみた。
何で女の子が施設の制御装置になっているのか。
「それは移動と防御を容易にする為だと聞いています。
設置型の機械装置だといざという時に動かせませんし、ミサイルの座標設定の際は私が実際に計測を行わなくてはいけないので」
ヘリオトロープはそう言ってもっともらしい理由を並べていたが、どうもそれだけはないと俺は感じる。
それは彼女の護衛用ユニットであるアイゼンにも言えることだ。
効率の良い形というのはもっといくらでもあるはず。
しかしやはり、求めてしまったのだろう……浪漫を。
アイゼンの開発に携わった人間が日本に縁のある人物だという事は恐らく間違いない。
「これが人の夢、人の望み、人の業……」
天族の駆逐に人生を捧げつつも浪漫を追い求めた過去の技術者達に、俺は尊敬の念を抱かずにはいられない。
そんな俺をヘリオトロープが不思議そうな顔で見つめていた。
その後、腹が減った事でだいぶ長い時間が経過したことに気が付いた俺達は、一旦集まり皆で食事を取った。
フローワとメイアは終始興奮した様子で、食事もそこそこにヘリオトロープに質問攻めし出したため、俺とアリスで少々行儀というものを教えてやらなければならなかった程だ。
しかしそれでもメゲていなかったらしく、彼女達は食事を適当に済ますとまたあちこち走り回っては変な叫び声を上げていた。
ヘリオトロープは俺達と一緒に食事を取る。
彼女は制御ユニットという名目だが、体の構成は人間と殆ど変わらない。
モノは食べるし水も飲むし排泄もする。
人間と同じ有機体にエーテル回路というものを組み込んだ体なのだというが、マナを動力として動く回路という以外の事はよく分からなかった。
アリスが言うには、通常の人族よりもマナの吸収速度が速いらしい。
この施設は一見、俺のいた時代にあった機械と似たものが多いように見えるが、実際は電力よりもマナを動力として稼働するものが多いそうだ。
古代人達は魔法が使えなかった代わりに、長い研究の中でマナを電力と同じような動力として使用する方法を編み出した。
この施設はその集大成とも言うべきものらしい。
そしてそのマナで動く動力を総称して「エーテル機関」と呼んでいたそうだ。
それは従来の電力を使用するものよりもずっと強力で汎用性に溢れ、コンパクトであったらしい。
もし戦争が起こらずにマナの存在が明らかになったとしたら、きっと人類は俺の知る繁栄など霞むほどの大躍進を遂げた事だろう。
実際は戦争が起きて人類が敗北したからこそマナが発見された訳で、考えても仕方のない事ではあるが……
だが悪いことばかりではない。
ここを作った人々のおかげで、俺は確信することが出来た。
マナを利用した自動稼働する設備は作れるのだ。
もちろん長い研究が必要にはなるだろうが、全くの一から始めるというわけではない。
ヘリオトロープがいれば、基礎部分の知識は恐らく手に入れる事が出来るだろう。
この遺跡の中にもそういう資料があるかもしれない。
何もこんな要塞みたいな施設を作りたい訳ではない。
俺としてはまず自動縫製機が作れればよいのだ。
それはきっと、そこまで手が届かないほど遠い話ではないだろう。
「運が向いてきたな」
「ノアさんは元々運だけで世の中を渡ってきてるじゃないですか」
ちょっとカッコよく決めようとした所、すぐさまアリスの突っ込みが入る。
内容的にも的を得ている為反論し難い。
「そもそもこんな超絶美少女エルフと知り合える時点でスーパーウルトラグレートワンダフルラッキーマンですからねって無視しないでくださいよぅ!」
最近はそんなアリスの軽口にも慣れてきたもので、超絶の言葉が聞こえるとその後を聞かなかった事にするスルースキルが発動する。
まあ実際はそんな絡みも楽しいのだが、それを言うとアリスが間違いなく付け上がるので言わない。
「ノアさんみたいなムッツリロリコン変態中年さんを相手にしてくれる女の子なんてそうそういないんですから大切にして下さいよう」
「うるせえ、俺はロリコンじゃねえ! たまたま近くにいる女の子が若いだけだ」
「ロリコンはみんなそう言うんですよ」
「アリスよ、ろりこんとは何だ?」
「小さい女の子が大好きなダメ男の事ですよ」
「そうか、ならば私はノアに気に入られるのだな……」
ほっとしたように息をつき、俺に笑顔を向けるティアマト。
そしてそれを見て困惑するアリス。
「あ、あの、ティアマトさん? それはどういう意味で……」
「うん? ノアは小柄な女性が好きなのだろう、ならば私の体は好かれやすいという事だ」
「あー……いや、それは、ちょっと」
予想外の回答にアリスが困っている、とても面白い。
ティアマトはわりとストレートに好意をぶつけてくる、本人にはそこまでの意識はないのだろうが、聞いていてドキッとする場面がよくあるのだ。
竜族の感覚は未だに慣れない。
そうしている間にもアリスはティアマトから質問攻めにあっていた。
アリスにからしたらネタにマジレスされて落とし所が分からないといったところだろうが、まあいい、これで少しは大人しくなるだろう。
「……お」
「アリス、生物が若い個体を求めるのは当然の事だ、若い個体はその若さを利用して悪い事など無い」
「お前のような女がいるから! ロリコンがなくならないんだあぁぁぁぁぁ! です!」
「うわっ! どうしたアリス、なぜ怒っているのだ!?」
途方に暮れたようなアリスの叫び声を聞きながら、俺はこの先のやるべき事をヘリオトロープと相談するのだった。




