18,幼女、暇を持て余す
明日から旅行にいってきます。
年明けにまたあいましょー。
よいお年を!
「リリィちゃん! リリィちゃん!」
「わぷっ。マスター、苦しいです」
「ピィィィィィ!?」
ライアが半泣きしながら物凄いスピードで突進してきて、その勢いを殺さないまま抱きついてきた。
ライアの背後にはアルバートさんとクルスの姿も確認できる。
よかった、みんな無事だったんだ。
俺がいなくて心細かったのか、ライアが俺の体に回す腕はぎゅっと力が篭もっていてふりほどけない。
しかし、あまりの圧力に雛がびっくりしている。
離して貰わないと。
「マスター、雛が驚いています。そろそろ離してください」
「ぐすっ……。あれ……? その子どうしたの……?」
「ピピィ!」
「フッ…………龍を配下としたか……」
「むっ! やるなリリコット! 我が輩も欲しいのだ!」
もはや半泣きから全泣きとなっていたライアに解放して貰うと、ドヤ顔おうじ様と筋肉おじ様が追いついて声をかけてきた。
ライアはもちろん二人にも怪我や汚れなど見当たらない、難なく迷宮攻略できているようだ。
アルバートさんが雛のこと欲しいとかいっているけど、龍って飼えるのか?
まぁ、飼う気満々だったんですけど。
あとクルス、配下じゃない。
もうこの雛は俺の子だ。
異論は認めない。
「えっと、雛に懐かれました」
「わぁ! ヒナちゃんって名前をつけたのね? 初めましてヒナちゃん、私はライア。よろしくね」
「マスター、名前はヒナじゃ……」
「フッ……このオレを崇めるがいい、炎獄龍よ」
「いや、それもちが……」
「ヒナか! 可愛い名だな! 我が輩はアルバート! よろしくなのだ!」
「ちょっ……」
「ピピィ!」
泣き顔から破顔一笑したライアとさえずるクルス、そして豪快に笑うアルバートさんにより勝手に雛の名前を決められてしまった。
いや、もうヒナか……。
ヒナも満更でもなさそうだ。
かっこいい名前ェ……。
心の中で俺が落胆していると、抱きついていた為に膝を折っていたライアがぱっと立ち上がる。
そして、膝をポンポンと手で軽くはたいてから真剣な表情を作った。
その後に、一言ずつに怒気を含めるかのように声を大きくして言い放った。
「リリィちゃん! 心配したんだからね!」
心配……心配か。
そうだね、俺も心配してたよ。
俺はライアに言葉を返す。
「ワタシも心配しました。マスターたちが迷子になってしまって、どうしようかと」
「ピ! ピ!」
ヒナも「ボクもボクも!」って感じで鳴いている。
可愛い。
すると、ライアは目をまん丸くしてポカンとした後に、口に手を当ててクスクスと笑い出した。
心なしか、クルスとアルバートさんからも微笑ましいものを見ているかのような雰囲気が漂っている。
……何よ?
「ふふっ、そうね。私たち迷子になっちゃったの。ごめんね?」
それからライアは言葉を続ける。
「それにしても、龍に懐かれるなんて……さすがリリィちゃん! 喋る使い魔はやっぱりすごいのねぇ」
はて? どういう意味だ?
俺は疑問符を浮かべたままライアに問いかける。
「マスター、使い魔が喋ると何かあるのですか?」
「あら、教えてなかったかしら? 喋ることができる使い魔はね、とっても少ないのよ。しかも、みんな英雄とかのすごい人たちに使役してるの。だから、リリィちゃんはすごいのよ!」
成る程、俺ってすごかったのか。
いや、俺じゃないな。
リリコットたんがすごいのだ。
探し出したらべた褒めしてあげよう。
ん……?
待て、ということは……。
「では、ブレンダさんのマスターはとってもすごい騎士様なのですね」
「うん? ブレンダさんがどうしてそこで出てくるの?」
「はい……? ブレンダさん、喋っていたじゃないですか」
「あ、それはねーー」
なんでも、使い魔と使い魔なら意志疎通は可能だが、その他の種族とは言葉という形では一方通行なんだとか。
つまり、例えば俺がブレンダさんと対話をしたとすると、
「ブレンダさん、あなたは変態です」
『そうです、私が変態なくまさんです』
となるわけだが、ライアがブレンダさんと対話をすると、
「ブレンダさん、あなたは変態です」
『ガウガウ、ガウガウガウガウガー!』
となるわけだ。
ライアの喋る言葉はブレンダさんに通じるが、ブレンダさんの言葉はライアには通じない。
ので、ブレンダさんがライアと意思を通わせるにはボディーランゲージ以外に方法がないらしい。
それはなんだかとっても悲しいなって。
というか、俺みたいな使い魔は英雄たちが召喚するものだ、とライアは豪語してるんだけど、俺を召喚したのがライアってことを忘れているのだろうか。
「さて、再開したところで冒険再開なのだ!」
……アルバートさん……真顔でオヤジギャグとか……。
☆☆☆
「では、参るのだ!」
ところ変わって迷宮地下二階。
俺たちは本来の目的である迷宮探索を続行することにした。
地下二階までの道のりはアルバートさんがマッピングを取っていたらしく、とんとん拍子で潜ることができた。
ちなみに地下二階は岩場だ。
岸壁に囲まれていて、そこかしこに岩が転がっている。
そういうわけで、足場があまりよろしくない。
戦闘の際には注意が必要だろう。
そして、臨時パーティーの配置はこんな感じだ。
前衛:クルス(ダメージディーラー)
前衛:アルバート(アタッカー、タンカー、ヒーラー)
中衛:ライア(サブアタッカー)
中衛:リリコット(サブアタッカー)
護衛:ヒナ(リリコットの護衛)
色々とおかしい。
ヒナは指示してもわかってくれないだろうから仕方ないが。
うん、ヒナは何も悪くないから心配しなくていいよ?
クルスはパーティーで一番ダメージを稼ぐメイン火力の役割。
なお、迷宮内も剣で戦うらしい。
なまじ強いから何もいえないが、魔法を使えば戦闘能力はさらに跳ね上がるだろう。
だが前衛だ。
アルバートさんはパーティーで火力と守りと回復を担当する役割。
正直この人が一番おかしい、アルバートさんはDランクだそうなので、頼りにはなるのだけども……。
わかりやすくいうと、物理で殴りつつ敵のタゲを引きつけながらパーティーの回復をする。
だが僧侶だ。
俺とライアの役割は火力補助だ。
隙を見計らって敵にちょこちょこ攻撃しては離れる。
俺たちはまともだ。
ヒナはまんま俺の護衛だ。
俺の傍から離れようとしない。
よって護衛だ。
以上の役割分担で迷宮攻略に挑んでいる。
「ゴゴガゴゴ」
「「「「ケタケタケタケタ」」」」
そんなことをしている間に敵と遭遇した。
スケルトンソーディアンが四体にザントゴーレムが一体。
こいつらの特徴をざっと説明すると、スケルトンソーディアンが片手剣持った人骨で、ザントゴーレムは土で構成された三メルト程の人形。
スケルトンソーディアンとザントゴーレムのどちらにも胸に核が植えつけられている。
「フンッ………」
すぐさまクルスがツヴァイハンダーを抜き放ちザントゴーレムに接近する。
「フッ……喰らえ! 天魔壕殺剣!」
おい! そのネーミングやめろ!
「雑魚が…………このオレに出会ってしまったことを来世で悔いるがいい」
剣閃一つでカチンッとクルスは鞘にツヴァイハンダーを納める。
その瞬間に核を突かれたザントゴーレムはくずおれる。
いや、剣納めるなよ!
まだスケルトンソーディアンが残ってるから!
「ワーハッハッハ! 見よこの肉体を! そんな軟弱な体では相手にならないのだ!」
アルバートさんがスケルトンソーディアンに挑発……挑発……? しながら殴りかかる。
二体のスケルトンソーディアンが粉砕された。
「今! 『ブリッツ』!」
ライアがスケルトンソーディアンの核を横から叩く。
残り一体だ!
「ワタシもいきます。『ピアジン」
「ピピピィィィ!」
ブレスを吐くヒナ。
灰と化す骨。
「………………」
やることないわぁ……。
装備はまだまだ出ません




