⑨星人
「…………そういえば、ひとつだけ陛下と確認しておきたい事があります」
「なんだい?」
全ての話が終わりそうな繋ぎ目、僕は一昨日から流していた事実をこの際確認しようとする。
「アダム君って何者なんですか?」
そう国王との会話でも節々に疑問が増える存在だった。実際現代の魔術師が長年かけて漸く理解出来るレベルの魔術知識を、易々と僕みたいな生徒に言える人物。
それに”時空術式”もそうだ。
様々な想像から生まれる創造を形にしたものが魔術、でもあくまでも想像と創造が可能な限り実現性があるものを術式化している。
結果的に副次効果として”時間”に影響する術式は探せばあるだろうが、直接的に起因するようなものは、少なくとも僕は聞いた事がない。
「陛下と面識があり、到底人間が使える代物ではない術式を使用する魔術師。それに陛下に魔術を教えたって言ってましたけど、それって何年前の事ですか、少なくともアダム君は何十年と生きている人間ということに、なってしまうんですが」
「これに関しては私からではなくアダムが答えるしか無いのだが、どうするつもりだ?」
「……まぁ、この際問題はねぇだろうな。必ず疑問として上がるのは、どの未来でもそうだったし。とりあえず今度クラスの皆んなに全てを話す機会を作るか」
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「というわけで俺の話だが、まず俺は人間じゃ無い」
次の日、教室内にはG組のみんながしっかりと着席している。あの決闘以降しっかりと対面する機会も無かった為、僕の話を追及する空気感はあったのだが、相変わらずアダム君はこれを壊してしまった。
“人間じゃ無い”
人間の定義とは何なのだろう。僕らはその哲学的な問答に少し苛つきながら、彼の話を遮らず全てを聞くことにした。
「俺たちはこの世界、この星が出来る随分前から生まれた、そういう生物だ。えーっと、納得しないだろうが、俺もこれ以上の解答を持ち合わせて無いんだ。この世界に降り立った時から、この”時空術式”は使用出来たし、未来を見て言語や服装、言葉遣いを学んだんだ。だから俺がここにいる理由は、明確な答えは俺自身も知らないんだよ」
うーん、まぁ、だろうな。って感じの答えだった。確かに僕らもいる意味を問われれば、答えようの無い曖昧な言葉しか出てこない。
「あと、”時空術式”だが……………………」
彼は”時間”を教えてくれた。僕が成長出来た理由も交えながら、教卓にある林檎を使って、彼の出来る可能性を全て見せてくれた。
正直僕も初見なものが多く、何でもありな術式性能に僕の不甲斐なさが粗目立つ。必死に誓約使って術式使った僕の無能感が、こういう時に出てきてしまった。
しかしその慢心が差別の根源とも言える
憎きB組のギャレンに勝った優越感は結構毒で、進歩しなくてもこの実力さえあれば、大丈夫と一瞬過ってしまった。だからこの学院は腐敗していたんだろうな。
僕は少しだけ落ちては戻ってを繰り返す。
「というわけで、俺のことについてこんなもんだ。曖昧な答えしか答えられなくてすまんな。一応これでも全ては話しているんだ。理解してくれ」
とひとしきり彼の話は終わった。彼の全知全能の存在にやはり誰もが驚く。そんな人間が近場にいるなんて、想像だにしなかったことだ。
そしてこの後は、国王の計画をクラス皆んなに僕が伝えた。少しだけ噛み砕いた説明になってしまったが、”G組で差別を受けていたものを救いたい”と”若者自身で未来を決めれる環境を作りたい”の2点は強調して伝えさせてもらった。
やっぱりこの話の肝は後者だと思う。
正直我々差別に抵抗がなかったといえば嘘だが、日々に慣れてしまったのも事実だ。僕があんな風に成長してしまうまで、自身の可能性なんて捨てていた人もいる気もする。
それを”未来を決める権利”を与えてもらえる、ことの幸せは多分にあると思う。後はどれほどの人がついていくか。
僕は何人かは来ないと思っていた。まぁ、向こうでも何されるか分からないし、何なら強くなりたく無い、成長したく無い人もいると思う。
「一応俺はエイブラハムから皆んなを成長する手伝いをしてほしいと頼まれた。だから成長する機会は与えるけど、成長する意思の決定権は皆んなにある。もしそれで未来を決める恐怖があり、今の状況のままでいいのなら俺は尊重する。後でしっかり言ってくれ」
「じゃあとりあえず機会だけは与える。皆んな楽しんで生きろよ、俺たちみたいに」
一時の魔力の高まりがあり、
『聖域』
皆を覆うように包む。
こうして僕以外の人間は意識のなかへ沈んでいった。
そしてその刹那の1秒後、皆が起きる。
「じゃあ、未来を決めたい人は、一緒に行こう」
こうして僕ら全員は真の魔術師として、新たな”真ハイム魔術学院”に入ることになった。”G組”のレッテルを捨てて、全ての可能性がある世界へ、僕らは飛び立つ。