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理の魔術師は育てる。  作者: アイネ
第一章『邂逅』
3/16

③聖域1


 

▫︎

 「ちょっと、アダム君!!なんで僕が戦うのよ!」

 

誰もいない教室、僕の悲痛な叫び声が響く。あの後はとても大変だった。負け戦を仕込まれた僕に向かって、勝機を確実化したギャレン君の意気揚々とした返答と、野次馬たちが渇望している”G組を公に実験台に出来る権利”への獲得。


「いやいやいや、嫌だよ!僕には勝つ可能性すらないし、そもそも反感を買ったアダム君が作った決め事に、何で僕が決闘をする内容が入るんだよ!!」

「そりゃ、ジーン君の最初のやられようを見て、俺に何か微力でもいいから出来ればと思って」



 

稀有な状況下で決定した僕とギャレン君の魔術決闘は、結局野次馬含めた皆の嘲笑を最後に、明後日の最悪の好奇の機会として終わってしまった。


だから、所詮その程度の気遣い、としか僕には思えなかった。この学院でG組になって一年が経つ僕には、たったそれぐらいの気遣いは最もわかり易い烙印を押すような、そんな提案にしか思えなかった。

 

「………いいかい!!!僕はG組なんだ!!ここは、この学院で魔術や武術に対して才能のない、未来がない奴らが集まる最下部の場所なんだよ!!」



 

誰もいない教室だからこそ、真実は言うべきだと。この際僕一人だけが悪態をつくのは問題ないだろう。しかしこの事実を大雑把にあからさまに口にするのは、このオンボロ教室に隔離されている僕ら自体を蔑ろにする。


夢を持って魔術師を志望した。安定した仕事とそれなりの稼ぎの一例を知っていたため、希望を持ってこの学院に入学した。


それが、魔術適正レベルや肉体戦の不出来に、どんどん夢も希望も、打ち砕かれていく。打ち砕かれていく音が明確に聞こえたのが、分かった。


 

 

「あんな貴族に勝てる見込みなんて、無いんだよ!」

「なるほどね。だから、この教室はこんなにぼろぼろなんだな。まぁ推察するに、このG組があることによって他の他クラスの意識向上と危機感の植え付けって事か」


「………こんな制度があるって知ってたら、僕だって入学しなかったよ。でも学院長含めてこの学院の人たちはそれを隠して新入生を募集してた。多分よっぽど金が必要だったってことは、考えなくても予想がつく」



 

勇者が魔王を制して早20年、この国は俄然差別による格差は増すばかりだった。僕らみたいな一般階級の人間たちの希望は年々下火になる一方だった。


それでも昨年から心優しい勇者が新しく王として就任したこの国なら、真新しい政策で国内の生活基盤を安定させたこの国なら、その政府が管轄している学院では何かが変わっていると、僕も一縷の希望を持っていた。


しかし現実は過去と差分はない。

「とにかく魔術の叡智の卵が育てるこの学院で、雑魚の烙印を押されている僕なんかが、ギャレン君のような恵まれている魔術師に勝てる見込みなんてあるはずがないんだ。伸び代なんてあるはず無いんだから、これ以上僕らを巻き込まないでくっ…」


それでもアダム君は僕の目を見て答える。

「あると言ったら?」


「…………は?」


彼は一貫して、忖度なく申し上げていた。

僕らの希望をしっかりと口に出していた。


「俺が導ける。さっきの戦いをした俺がお前たちを、あんな貴族に負けないぐらい、魔術師として名に恥じない実力まで導けると分かったのなら?」


 


不粋過ぎる。滑稽を通り越した、哀れな僕らを悼んだような言葉に怒りが来る。それなら負けじと、普段では浴びせないような、汚い、苦しい言葉遣いで僕は捲し立てる。


「………ふざけんなよ!!!!なんなんだよ、アダム君だって、少し強いぐらいだろ!!!!ギャレン君程度を負かせるぐらいの実力しかない、その程度の魔術師なんだろ!!いい?この学院にはね、アダム君以上の化け物が沢山いるんだよ!!知らないからそんな戯れ事が言えるんだよ!!」



 

「………そうか、分かった。教えてやるよ」


 


飛躍スキップ


「………え?」

僕は森にいた。

この世界最大の森『ムドリーの森』

王国から数百キロ離れた、太古の賢者ムドリーが生涯を犠牲にして森の悪質な魔素を安定化させて、魔獣や人間たちが生活出来る限界レベルにまで低下させた場所。


 


なお、現在でもここの魔素は初見の人間にとっては、とても毒だ。まるで高山病に近い、圧倒的な肉体の酩酊感と不適応による過呼吸が襲う場所。


そこにいた。

通常の人間レベルが耐えれる限界点。

「はぁはぁ……」

魔素が僕の呼吸を不安にさせる。目の前の視界と視線が歪み、崩れる。適応には数年単位が必要なぐらい、鈍痛が僕を襲う。



 

「いいか、俺は『時空術式』を使う」


彼は”時空”と言った。


通常の魔術で用いる”術式”とは、自身が練度の高い想像とそれに合った創造が出来るものを使う。だから慣れ親しんだ地水火風や肉体に影響する術式を使う術者が多いイメージがある。


実際にこの学院の生徒は、その範疇に収まった術式のレベルと性能で魔術師としての研磨を行なっている。


「グァ゙ォオ゙オ゙ォォォォ!!!!!!」


しかし“時空”とは、使用するにはまだまだ世界の理解が足りない。それは自然の摂理、”理”の範疇だ。


それを理解するなんて、人間としてのレベルすら超えている。彼はそれを使うと、今さっき述べている。



 

「時空術式は、この惑星の超次元の時間への解釈と圧倒的な精巧な創造性が必要だ。通常の人間には一生かけても到底理解することも指をかけることも、不可能な術式なんだ」

うつろな僕に向かって、アダム君はつらつらと話す。


 

 

目の前にはこの森に棲みつく、高次元の魔獣が何体も跋扈していた。


彼らにとって、生きることへの生殺与奪。その当たり前の摂理を、無価値な僕は魔獣たちを前に思い知らされてた。これは僕が知ってる、どの生物の、どこの誰よりも、凶暴な生き物だ。


「学院から数百キロ離れたこの場所にこの術式を使って一瞬で来るには、歩いて到着するまでかかる時間を飛ばす必要がある。実際俺は数日の時間を飛ばした」



なんとなく、彼が言ってることが耳に入ってくる。そしてなんとなく、彼が言っている事が理解出来る。耳に入って脳で咀嚼出来るまでには、僕はここの魔素に適応出来たのかな。それでも両の足を再び起き上がらせることは、まだ難しいだろう。


だから彼は何回も消えたような、瞬間があったんだろうな。彼は何回も時間を飛ばして、ギャレン君の攻撃を避けていたんだろうな。




すると四方八方にいる魑魅魍魎の魔獣がアダム君に目掛けて、一目散に向かってきた。


あるものは自分より小さい魔獣を捕食しながら突進を。

あるものは毒物を撒き散らしながら鋭利な牙を。

あるものは天変地異が起きそうな巨躯を。

あるものは遊び道具を見つけた本能を。


 


これは敵意だ。人外たちの、部外者たちへの警告ではない。殺戮宣言だ。四方の逃げ道のない、一方的な差で。

 

「例えば、木の枝の先端を切っても、その切れた枝先は何処かに落ちてる。その枝先を全く違う用途で使うことは、当然に出来る。この場合、時間も同じ原理だ。俺が飛ばした時間はどこかにしっかりと残っているんだよ。

 

全ての事象には時間が必ずある。時間の中で生活をして、時間の中で終える。それは外側と内側、現実と意識にもそれぞれ時間がある。


 いいか、俺は時間を自身の魔力に変換出来る。そして俺は万物の時間に干渉出来る。森羅万象、全ての時間を俺は操れる。それが『時空術式』だ」





「ここに来るまでの時間、こんな風に使うことも」




放出バースト

彼が一瞬だけ表面上に出した魔力がエネルギー攻撃の波のように、彼と僕以外を全て葬り去った。


 

 

まさに一瞬だった。刹那の時間すら味わせないほどの、超次元の出力な魔力が、さっきまで上位存在のように跋扈していた魔獣たちを肉片と化していた。


呼吸をしていた魔獣たちは息絶えて、近くの草木は自身の体を木っ端微塵にされる。土煙が昇り、空気が揺れる。ただそこには、魔力の残響がまだ大気を張り付いている。

「俺には出来るんだ」



そして僕の頭の中に、彼は入る。

「そして今度は君の時間を使う」

聖域サンクチュアリ


「これからは勉強の時間だ」



 

▫︎

 

物理的に閉じ込められた空間ではない、ということだけ分かる。全てには白い背景、まるでまだ何にも染まってないキャンパスのような、無色透明という表現でも成り立つ世界に、僕は急に佇んでいる。


「ここは君の意識が無限に確立されている場所。


 『時空術式-聖域サンクチュアリ-』


 君の意識時間を何千倍にまで膨れ上がらせた場所」


 


「………何する気なの?」

「そんな怖い顔すんなって。とりあえず気楽に。この世界では生物が死ぬことはない。ただ無限の意識時間がある世界に連れてきただけなんだから」


彼は僕の近くで地べたに腰掛けた。

「じゃあいいから、僕みたいに座って」


「……………………………」

疑念が浮かび上がっても、ここは彼が作り上げた領域。あのレベルの魔術師が出来ることを鑑みると、僕は少しだけ素直に言うことを聞いたほうが良さそうな気がした。


 


「まず魔術師というのは、自身の所有する魔力と術式が組み合わさって創造した魔術が生まれる。だかこれは確実な先天的な才能の差がある。小さい水槽と大きい水槽では、そもそも水を入れる量も水に耐えれる強度にも差がある。魔術師も同様で、生まれ持った体には、それに合う魔力総量が必ず設定されいるはずだ。そして総量の差によって、現実の魔術師としての差が生まれる。

 

だからジーン君らみたいに持たざる者がギャレンのような上位のレベルの魔術師に勝つためには、自身と相手の魔力の総量の差を埋めるしかない」


確かに言う通りだ。魔導書や魔術知識などで得られる”術式”には、確かに性能差もあるが、現実問題として、ギャレン君含めてアナベル魔術学院の猛者たちは基本的に凄まじい魔力持っている。


これは一年間通って、事実として理解できる。


「一般的より魔術に適正のある貴族の大半、金で成り上がったやつ以外は過去賢者と呼ばれるものの子孫の可能が高い。ギャレンも恐らく、そういう術式をよく使用する祖先がいたのだろう。


そしてここまで聞いていれば分かる通り、魔術師としての才能は確実に遺伝する」


彼らの祖先は魔術師としての確固たる地位があったからこそ、その肉体や遺伝子は受け継がれ、その子孫たちはその似たような道を軽々しく辿れる。僕みたいな一般下級市民出生では、しっかりと勝てない道理がある。


「そして彼らは先祖代々から続く、時間を伝って今の才能があるんだ。だから今度は君が同じように、時間を使って積み上げていけば、その域には辿り着ける。



今はその方法を君に教える」

アダムの術式が判明しましたね。これからこの作品は魔術師が使用する術式がとても大切になっていきます。是非覚えて下さい。まあ、都度僕が書きますが。

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