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理の魔術師は育てる。  作者: アイネ
第一章『邂逅』
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④聖域2



 

やり方は至って簡単だった。

まず利き手とは逆の手の指を使う。

人差し指と親指で丸を作る。


それだけだった。

それだけだったが、実に理論的な鍛え方だった。


「まずその指で作った丸に沿って魔力を流す。時計回りとか逆回りとかは指定しないが、統一していた方がやりやすい。それを毎日全ての時間でやり続ける。これの本質は常時魔力を動かすという一点に尽きる」



 


人間は魔力を補給する方法がある。呼吸と捕食である。

 

前者の呼吸、この世界の空気中には魔素がある。大地の性質上、全ての場所が平等の濃度ではなく、地形的な差があるが、空気中に魔素がない場所は存在しない。その空気中にある魔素を呼吸によって体内に取り入れる。すると体内にある血液が魔素を分解して、魔力に変換する。それを魔術師は本能的に、意識的に使用が出来る。


後者は魔獣や植物にも、大なり小なり必ず魔力が存在する。その動植物を喰らうことで、魔力を得る。だがこれには、この魔力自体が毒となってしまう可能性がある。ある程度加工して食せるレベルにしないと、他の生物が変換した魔力を喰らうと魔力酔いが発生し、場合によっては肉体を蝕んでしまう恐れがあるのだ。


なので最も安全に魔力を得る方法は呼吸なのだ。

 

呼吸で魔力を変換しながら、指で常に魔力を動かす。

常時魔力を使うことによって、少しの水しか入らなかった小さな水槽も、強制的に膨張していく。少しずつ微々たるものでも、やがて時間をかけて沢山の水が入るような大きな水槽へと変貌する。


これが彼の言う、効率のいい方法だった。


「実際この方法はかなり荒い。常に魔力を動かす集中力が必要になるし、呼吸で得られる魔力もたかが知れている。しかし過去の賢者たちはこうやって時間をかけて魔力を使って実績を得ている。的外れな論理では無いはずさ」


確かにギャレンは普段やり慣れてない高出力の魔力を出し続けながら、アダム君を攻撃し続けた。一応上級貴族である彼が簡単に息が切れる理由としては筋が通っている。




 

そして僕はその方法で魔力を動かした。

普段魔力を動かすことに慣れていない僕は指で作った小さな丸程度の大きさの魔力の移動自体には、然程苦戦しなかった。


でもそれを持続することが難しかった。何秒続けては息が切れて呼吸を整えてやり直す。何分続けては結局息が苦しくなり、止めてしまうがまた整えてやり直す。



今までの苦労を思い出した。折角念願で入った魔術学院は排他的で、差別による向上心を利用する。一般市民であった自分には到底及ばない、圧倒的に上級の存在。


そしてそこから始まる苦行の日々。全てが苦痛だった。

今はそれを糧に呼吸するだけで、魔力を小さく運動させるだけで気楽に安定出来そうだった。



「よし、こっからは座学だな。魔力運動を続けながら話を聞けよ」




 


▫︎

「よし、これである程度は教えられた。後は意思だ」


一通りアダム君から魔術の座学を終えた僕は、自身の魔術師としてのビジョンを着々と浮かび上がらせていた所だった。堅苦しい”意思”をこうやって問われるのは、それも魔術師としての本質を学ぶ機会になるのか。


なんだか、少し身構えてしまう。

  

「俺が問いたいのは、続ける意思を聞くのではなく、


 強くなる意思だ」


 


この”聖域”に手を翳す。まるで此処の空気がアダム君に味方したように、何もない場所に扉が出来た。


「ここに扉を作った。この扉は簡単に開く。この扉を開けて外に出れば、君は意識の外側。つまりの『聖域』から出られるわけだ。しかし外に出なければ、ずっと中にいられる。ずっと鍛錬出来る。だから君の意思次第で君の強さが決まると、いうわけだ」


コツコツと、聖域内に彼の歩く音が言葉と共に響く。教授が歩きながら講義をしている雰囲気ではなく、これから厳しい戦場に向かう一端の兵士の面持ちのような、緊張感のある雰囲気だった。



 


「俺は君を無理やり強くさせるつもりはない。


君自身が未来を掴み取りたいという意思が、はっきりと覚悟としてあるのなら、それに簡単な手伝いをする、程度に留めたい。そうじゃないと君が勝ち取った未来でなく、与えられた未来となってしまうからね。


君自身が道を作らなければ、いけないんだ」


彼と視線が合う。黒点から見える据わった言葉と眼差しは現実世界でも味わったことのない、緊張感を表している。


僕はその緊張感で喉の渇きすら、忘れていた。


「だからこの扉をどのタイミングで開けるかは、君が選んでいい。ジーン君の選択で、これからの未来が決まるんだ」



「でもアダム君は全ての時間に干渉出来るんでしょ。ってことは未来も過去も見えるんじゃないの?何でわざわざそんな遠回りなやり方で、未来を決めるの?」


疑心というわけではなかったが、それでも破格の存在であるアダム君の作る未来すらも、別に僕らには得がありそうな、僕らの関係値から見える横道の可能性もある。


でもアダム君ははっきりと言った。


「無粋だな、俺は俺の未来を決めるが、君は君の未来を決めるでいいんだよ。未来を自身で決めたやつが1番かっこいいに決まってるだろ。


だからお前も自分で決めてこい」


アダム君は実は一貫している。

僕を手伝うという意思を最初から提示してる。それでいて、全ての知識を無理やり教え込むことはしなかった。魔術の知識に関しても、あくまで僕らが現実世界で基本的に学べて理解出来る程度の知識を噛み砕いて、講義してくれた。


だから僕がこれから僕自身の質を高めるには、僕自身が考えなくてはならない。




 


「分かった。君の意思も尊重するよ」


こうして、僕は自身の魔力と向き合い、自身の魔術を生かす、内側の意識の時間が始まった。



―――――――――――――――――――――――



 

▫︎


2日後、約束の時間。

決闘の場として設定された所に来ていた。




魔術第一訓練場所。アナベル魔術学院内の生徒間の魔術決闘には、基本的にこの場所を設定することが多い。それは生徒・教授たちの暗黙の了解であり、過去の事例からも僕はこの場所での決闘を覚悟していた。


此処には観覧出来る場所も用意されている。B組で貴族としても名門な塚田ギャレンがG組の烙印を押された僕との闘いなんて、恐らくそういう”面白さ”しかないのだろう。学年関係なしに多くの生徒たちで埋め尽くされていた。


そしてやっぱり、観戦席の一角にはG組のみんなが、見たくもない僕のやられる姿を、見に来させられている。

 


「これより、B組塚田ギャレンvsG組橋本ジーンによる、魔術決闘を正式に行う!!!!」


 


やり慣れた審判が僕らの名前を読み上げた。

ギャレンには期待と羨望が込められた黄色い声援が、僕には滑稽に嘲笑う声とG組の皆の不安げな視線が。


ギャレンもその言葉を聞くと、憎らしい陵辱するような目で笑う。対して僕は緊張の雰囲気を崩せなかった。


僕とギャレンは既に対面している。

石造りの訓練所に、模擬的なコロシアムの中央の出立で、僕らは向かい合って、お互いの存在を確認する。


そして決闘場の近くには、アダム君が悠々自適に座っている。足を組み、これから紅茶を煽るのではないのかと思ってしまうほど、リラックスしている。




「お前、勝った時の約束は忘れてないだろうな!!」

「当たり前だろ、ちゃんと金貨30枚、此処にある」


大きい声で遠くのアダム君に向かってギャレンは約束の内容を分かりやすく話す。「こいつに魔術決闘を申し込まれれば、金が手に入るぞ」という、まるでカモの存在を提示するように、他の生徒たちに聞こえる声で確認する。




「そこにいるG組のゴミには申し訳ないが、こんな楽に大金が手に入るなら、俺の貴重な時間を削ってまでやる魔術決闘も悪くねぇなぁ!!」


「君はまだ僕のことをゴミだと認識してるんだね」


安堵した。この油断をしている相手の姿をこんな分かりやすく認識できるなんて、この闘いを始める前から、僕の中にある自信がどんどん強くなっていく。


 


「なら安心して、闘えるよ」

ただ僕は、今目の前にいる警戒心も恐怖心もない奴には油断はしない。例え今の身についた実力を信じていても、この闘いを確実なものにするまでは、完全な過信はしない。


それが、彼の言う”意思”であり、僕の今の”強さ”だ


 


すると、

「おいおいおい、なんであの人がここに!!」

「てかこんな近い距離で初めて見るぞ!!」

「あんな人がこの学院に何の用があるんだ?」

「知ってる?あの人ってこの学院出身なんだって」

「でも、たかが生徒間の魔術決闘を見に来るなんて」


正装な出立ち。どう見ても格式ある人間と分かる。そして何より陛下の意味を示す王冠と魔術師としての格を表す魔杖。


我が国、シュゲイン王国の全てを統べる王。

“国王エイブラハム”が側近の一人を連れて、この会場に来ていた。


「おい、どんなサプライズだ!?」

「…………僕も驚きだよ」


 


「それでは、両者構え!!!!!」

収集がつかないこと状況に、流石の審判も剛を煮やし、声高らかに宣言する。


 


「決闘開始!!!!!!!!!」

開幕の鐘が鳴った。

 

学生の決闘でも審判はしっかりといます。まあ、決闘によって優劣を着ける授業もある学院ですから、その審判を出来る人を雇うぐらい、朝飯前ですわ。


さあ、漸く戦闘が始まります。

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