・9・遭遇及び潜入
音が聞こえた
「汽笛?まさか・・・・・」
錆びた自転車のチェーンみたいな音がする。自分の声だと気づくまでき数秒、間が空いた。
「やっぱ人と話さないとすぐこうなるな・・・」
別に驚くことじゃない。昔、金曜から月曜の朝まで部屋でパソコンいじってた頃は、週末の恒例行事だったことだし。でも今回は特にひどい。当たり前だ。今まで二週間話さなかった事なんてなかったんだから。
「♪〜〜」
わお。
口笛が思わず出たなんて人生初だ。
汽笛が聞こえたから船が来たんだろうとは思ったけど、まさか軍艦が来るなんて。最高だ。一生分の運を全部使っちゃったかもしれない。これで風呂に入れる生活どころか、食料、医療、身の安全が全部保証されたんだ。幸運以外の何物でもない。心からの祈りを神に捧げよう。人生で二度目の経験だ。素晴らしい。人生で二度も心から祈りを捧げるなんて。
「主よ。私はあなたの星の下に生まれて幸せで・・・ゴホッ、ゴホッ」
迂闊だった。こんな喉がカスカスの状態で叫んだらそりゃむせるに決まってる。水を持っていたことをこれほど感謝したのは人生初、なにかに人生で初めて感謝したのは今月だけで三回目。これも自己ベスト更新だ。
「ーーーっ!!」
乾いた音が響いた。
銃声だ。完全に僕の方を狙って撃ってきてた。あと一瞬気づくのがおそかったら今頃見つかって蜂の巣だ。やっぱり僕には守護天使がついてる。
やっぱり脳内でも笑えないジョークを言うと気まずくなるんだな。僕は今ひとつ賢くなった。
よく見たらあの船、イギリス国旗がついてない。けど見た目は昔プリマスで見た軍艦そのままだ。どう考えてもおかしい。しかもよく見たら甲板にウサギ耳生えてるやつが乗ってる。・・・・・・。うん、一回室内に戻ろう。危険だ。
さてどうしよう。
あの銃撃が間違いだったってことはないか?
でも、もしそうだったとしても獣人が乗ってる。しかも結構立派な服で。見たときは気づかなかったけど、多分かなり上にいる様子だった。
獣人が仕切ってる可能性が高くて、間違いかもしれないけど、銃撃してきた船。
どう考えても、離れるべきだ。
でも、一つ重要なことを僕は忘れている。
そう、あの船は多分お風呂がついてる。それを考慮したら、あながち離れるべきとも言えなくなる、と思う。しかもあの船の乗組員にしてもらえたら食料、医療、身の安全が全部手に入る。条件良すぎないか?
いや、たしかに危なそうな船ではあるけど、安全だった場合のリターンを考えたら、離れたらむしろ損な気がする。
いや、でも危険は危険だ。どうしよう。
いちどあの船の危険度を確かめたい。具体的に言うと、一回中を見てみたい。
その時に見つからなければ、危険でも帰ってこられるはずだ。
結構いい考えだと思う。ローリスクだし、上手く行けばほしかったものが全部手に入る。
よし、侵入しよう。