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カーレオンの領主館は、古い様式で建てられた砦風の武骨な本館と、追加された尖塔に城壁、田舎家風のくつろいだ左翼館、回廊でつながる今様の右翼館と、代々の当主の気まぐれを体現した、かなりの折衷建物だ。統一性には欠け、典雅さや調和は望むべくもないが、たいていの人の好みに合う場所が見つけられる、居心地の良さは保証できる。不思議な建物と言える。庭園も、ほぼ自然林を背後にして、前庭は幾何学的に刈り込まれ、堀にはマスやコイが養殖され、右手には広々とした畑地が広がり、左手には果樹園が、そして最近できた温室が目を引く。左翼館の奥は厩で、その奥は家畜小屋。尖塔の一つには鳩小屋もあるらしい。
「ふふ、驚きまして?」
「はい、とても。とてもすばらしいです」
カサンドラと馬車に同乗してきた若者は、目をきらきらさせて近づいてくるカーレオンの領主館を見つめた。
馬車が車寄せに止まると、扉をあけるのも待ちかねたように、若者は飛び降りた。カサンドラと侍女のセリカは「あらあら」と笑いながら、自分たちも馬車を降りた。館から出迎えの使用人たちが口々に「おかえりなさいませ」と言いながら、荷物を降ろし、館の中にどんどん運び込んでいく。後続の馬車からも、たくさんの荷物が運ばれる。
「後ろの馬車二台分、ほとんどがコリンぼっちゃまの荷物なんですけどねえ」
「コリンに会うのも久しぶりね。セリカも私も、ずっと領地には帰れなかったのですもの。セリカは冬至祭まで実家に帰りなさいね。ご両親にもゆっくり顔を見せてあげて」
館の正面扉は騎馬の鎧武者が通れるほど大きい。それが今日は両扉とも全開だ。館の主がいかに彼らの到着を待ち焦がれていたかがわかる。
真ん中に立つのはカーレオン伯爵だ。その脇にぴったり寄り添う伯爵夫人。反対側に杖にもたれた青年。
「お父様!お母様!コリン!!」
「カサンドラ!お帰り」
カサンドラは駆け寄るように三人に近づいた。
「無事に到着してよかった。天気にも恵まれたね」
「お疲れ様」
涙ぐむ両親の横で、ひょろりと背の伸びた青年が苦笑した。
「こんな出入口で立ち話でなくて、中に入りましょう。カシー姉様もお疲れでしょうからね」
「コリン、ほんとうに久しぶり。顔をよく見せて。元気そうでうれしいわ」
「やれやれ、姉様までこれじゃあ」
自分より背が高くなった弟の頭をなでまわす姉に、コリンは肩をすくめてみせた。
「あのね、コリン。お客様なのよ。手紙でお願いしたでしょう」
家族の輪に遠慮してカサンドラの後方に控えていた若者が、ためらいがちに進み出た。
「君は……モリス、なのか。モリス・フィッツジェラルド!」
「うん、ごめん。どうしても会いたくて、カサンドラ様に無理にお願いしたんだ」
「僕こそ、僕こそ会いたかったよ。謝りたくて、でも王都まではとても行けなくて。何度も手紙を書こうとしたんだ。でも書ききれなくて…」
うんうん、と涙声でうなずく青年たちの背中を、カサンドラはどんと叩いて
「続きは中で座ってしましょう。コリン、私たち疲れてて、揺れないクッションに座らなくちゃ。おいしいお茶やお菓子をすぐにも頂かないと、気が遠くなってしまうかも」
コリンは声を上げて笑った。
「カシー姉様、そこちょっとミリー姉様に似て来たね。さあ、お待たせしました。カーレオン家にようこそ」
コリンは杖を持たない方の手を広げ、館の入口にいざなった。
王都のカーレオン邸は、公爵と姉ミレディアが見てくれる。今回の婚姻無効の件ではすっかり義兄にお世話になった。これもみな、ミレディアが義兄に愛されているおかげ。カサンドラについては、当分の間領地で静養すること、と、二人からきつく釘をさされてしまった。
コリンは歩行訓練に長い散歩を続けているうち、領地の作物に興味を持ったようだ。リストにある本を送ってほしいという手紙が届くようになり、リストの本は当初の植物や作物の書物から、天候、野生動物の生態、蜂や昆虫の本。食べられるキノコの図鑑。家畜の品種改良の本。ハーブ料理の本まで、あっというまに幅広くなってきている。挙句は「今度は本でなく、種や苗木がほしい」と言い出した。コリンが将来につながる興味を持てるようになってくれた。ミレディアと手紙を読みながら、うれしい悲鳴をあげたものだ。公爵も大乗り気で、伝手とお金に物を言わせて、コリンの希望をかなえてしまった。そうなると誰かが実際に荷物に付いてコリンの元まで運ばなければならない。それはもちろんカサンドラを置いてない、と姉夫婦は口をそろえた。
「カーレオンで、お父様やお母様、コリンと過ごしてほしいのよ。あなたが思っているよりずっと、カシーは疲れて傷ついているの。小さい頃は領地の方が好きだったでしょう?王都に行くのをいやがって、奥庭の木のうろに隠れていたじゃない。どうかゆっくりしてきて」
「もちろん、そのうちにはこちらに戻ってもらうわよ。だって、あなたは伯爵代理なのですからね」
「へえ、そんなことがあったの?意外にお転婆さんだったんだね」
くすりと笑うオスカー義兄に、「そうなのよ、今からは想像できないでしょうけど」と笑いころげる姉。
「これから出発すれば、冬至祭の前には着くのじゃないかしら」
そのミレディアの一言にカサンドラの気持ちも動いたのだった。




