ただいま、現世
翌日、照彦達が起きると、フォルシアが照彦の鎌と瓶を手渡した。照彦はそれを受け取ってお礼を言う。
「ありがとうございます!」
「良いのよ、無事に直せて良かったわ」
照彦は、それを腰に着けてある鎖に付けた。二つとも、小さく縮み、携帯出来る状態になる。
「あの、骨突って返した方が良いですか?」
「それは…、あなたに譲るわ。ちょっと癖がある鎌だけど、骨突も使ってもらった方が喜ぶわ」
照彦は、二つの鎌が着いた鎖を見つめた。
死神達は、術が施されてある鎖や麻紐を持っていて、そこに鎌やその他の道具を収納しているのだ。
「俺達は、今から現世に帰ります。フォルシアさん、それと、火山屋の皆さん、本当にお世話になりました!」
照彦達は火山屋の皆さんにお礼を言うと、フォルシアが何か思い出したように手を叩いた。
「そうだ、お土産渡さないと!」
フォルシアは蔵に向かって走り出すと、日本刀を持って帰ってきた。どうやら、真由が持ってる風月華と同じように、冥界の刀らしい。
「これは『風水華』という刀で私が造ったの。霊晶石で出来ていて、持ち主の力を吸収して変化するのよ」
霊晶石とは、六水晶になるといわれている冥界で採れる天然の鉱石だ。持ち主の力を吸収して、変化するといわれている。
照彦は、風水華も受け取った。
「フン、わしの風月華を真似てお前も刀を打ってたとはな」
「まあ、そうね」
フォルシアはクスリと笑って頷いた。
「また、冥界に来た時は是非寄って行ってね!」
「ありがとうございました!」
照彦達は、火山屋を後にした。
そして、照彦達は、馬車に乗って青波台の近くの門まで向かう。三途の川に近づいた時、ふと、小魂も一緒に付いて来てる事を思い出した。
「あれ?小魂、一緒に現世に行くのか?」
「ピッ?」
「一緒に現世に行って大丈夫なの?」
小魂自身も、魂喰虫が現世に行って良いのか分からないようだった。
照彦達は、一度馬車を降りて、商店街に向かう。そして、クリスの店にやって来て、聞いてみた。すると、クリスは店の奥から古びた本と、霊水晶の金魚鉢を持って来た。
「これ、私が小さい頃に使ってたものよ。あなたに譲るわ」
「えっ…、良いんですか?」
クリスは眠い目を擦って、頷いた。
「現世に行ってもいいけど、餌は大丈夫かしら?」
「餌って?小瓶の中身飲ませるだけじゃ駄目なんですか?」
「それでもいいけど、魂をあげたり、もしくは霊水晶をあげたりした方が良いんじゃないかしら?」
「そうですか…」
照彦は、後で真由に余った霊水晶があるかどうか聞いてみようと思った。
照彦は、クリスと別れると、金魚鉢に三途の川の水を汲んで小魂をその中に入れた。そして、歩いて門まで向かう。
門を潜って青波台の白部山に戻ってきた照彦達は、一旦そこで別れた。
「それじゃあまたね、照彦君」
「また学校で会おうな!」
照彦は真っ直ぐ家に向かわず、小魂を連れて、ビガラスの屋敷に向かった。真由達はそこで勉強会をしている。
「真由姉ちゃん!ビガラス兄ちゃん!有沙姉ちゃん!」
真由達は、教科書やワークを広げて勉強をしている。受験が来年に迫った真由達は、部活が無い日はこうして勉強している。
照彦は、その間に入って膝の上に金魚鉢を置いて座った。
「あれ?照彦君どうしたの?」
「ごめんね、勉強の手を止めて」
三人は首を振ると、小魂に目を向けた。
「この子、可愛いね!」
「この子は魂喰虫の小魂、さっきまで俺達冥界に行ってたんだ」
小魂は、鉢から顔を出して笑った。
「俺達…、って事は一人で行った訳じゃないのか?」
「まぁ…、そうだな」
「ねぇ、誰と一緒なの?」
「えっと…、ペグルと絢音とかな」
「絢音って誰?もしかして…、照彦君にガールフレンドが出来たの?」
「別に、そこまでの関係じゃ…」
照彦は、絢音の事を真由に言った事を後悔した。話してしまえばすぐに真由にその事について質問攻めにされる。今はお茶を濁してこれ以上その話をしないようにするしかない。
照彦は、冥界から持って帰った風水華をビガラスに手渡した。
「ビガラス兄ちゃん、冥土の土産って言ったらあれだけど、お土産」
ビガラスはそれを受け取って、早速鞘から抜いてみた。
すると、風水華がビガラスの霊力を吸収する。そして、風水華は蔦を巻いた形状に変化する。
「風水華は持主の霊力で変化する刀なんだ」
「へぇ…、そうなのか。笛が無くなってからこれといった武器がなかったからな、これで真由と一緒に戦える」
ビガラスは、嬉しそうにそれを眺めた。
そして、ビガラスが風水華を鞘に仕舞うと、扉の隙間から小さな黒猫がトコトコとやって来た。照彦は、その黒猫を見るのは初めてだった。
有沙がメスの黒猫の黒大豆を飼っている事は知っているが、ビガラスが飼っているとはどういう事だろう。
「この子は?」
「ああ…、黒大豆の子だよ。俺が引き取ったんだ。オスで名前はノワール、フランス語で黒っていう意味さ」
「ビガラス兄ちゃんってイギリス人だよね?」
「でも、日本人が別の都道府県に行くような感覚で別の国に行くぞ?島国だけど、日本と違ってトンネルで大陸と繋がっているから特急で渡れるからな。フランスもよく行ってたな…」
異国の感覚に、三人は驚くばかりだった。
「へぇ…、そうなんだ」
「にしても、ビガラス兄ちゃんの方が真由姉ちゃんよりも名前のセンスあるんじゃない?」
「何よ!黒って事には何も変わりないじゃないの!」
「真由のセンスはよく分からないな…」
ビガラスは苦笑いを浮かべて、寄ってきたノワールを膝に乗せた。
そして、照彦は真由と有沙と一緒に家に帰った。先に有沙と別れた後、照彦は真由と一緒に帰る。
「そうだ、真由姉ちゃん、霊水晶が欲しいな」
「どうして?」
「小魂にあげたいからな」
「ピッ!」
小魂は金魚鉢から出て、ヒレを手のように上げた。
「う〜ん、家にあるかな、ちょっと待ってて!」
真由は、先に家まで走ると、段ボール一杯の霊水晶を持ってきた。
砂粒のような欠片から、手の平に乗るような水晶玉まで、大きさは様々である。
「ありがとう、真由姉ちゃん!」
照彦は、それを持って真由と別れた。
そして、照彦は住宅街の坂道を登っていく。その上に、照彦の家があった。照彦の家の近くからは、水平線と青波台の町並みがよく見える。
「小魂、ここが俺達が住む現世なんだよ」
小魂は、初めて見る街の風景に目を輝かせていた。
「俺は死神として冥界で産まれた、だけど、育ったこの青波台、現世の方が落ち着くな…」
照彦は死神で、本来は冥界に居るべき存在だ。だが、現世で育った照彦は、ここが自分の世界のように感じられる。冥界に行ったのを通して、ここに居られる事の有難さと温かさを知った。
照彦は、自分の家の玄関を開けた。
「ただいま!」
そして、照彦と小魂は、一緒に笑顔で入って行った。




