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初恋

 教室にルナと共に入る。

 ルナの姿を見た生徒たちがざわついた。


「はいはい、みんな静かに。今日は転校生を紹介します。じゃ、自己紹介を」

「はい、ルナ・バーミングです。みなさん、よろしくお願いします」


 ルナはお辞儀をした。顔を上げた時に、垂れた髪を直した横顔に思わず見惚れた。

 いかんいかん。少女に見惚れてどうする。しかし、不思議な魅力の持ち主だ。

 普段であれば、やかましいハンスたちがただ息を飲んでいる。大人の俺ですら、どこか惹かれたのだ。子供であれば尚更だろう。


「あの、先生?」


 不意の問いかけに体がビクついた。ルナが不思議そうな顔をしている。咳払いをする。


「え~っと、席は~。アインの横にスペースがあるから、そこにしよう。アイン、机を用意してあげて」

「あ……うん、分かった」

「じゃあ、ルナはアインの横に行って。は~い、授業を再開するぞ」


 普段であればブーイングが起きるが、今回は誰も何も言わなかった。

 全員がルナに目を向けているからだ。これはこれで寂しい。


   ・   ・   ・


「ねぇねぇ、ルナちゃんはどこから来たの?」

「ルナちゃん、分からないことが有ったら聞いてね」

「俺、ハンス。勉強が分からなかったら、聞いて」


 男子たちがルナの席に集まっていた。

 質問攻めにしている中、ハンスがとんでもない事を言ったので後で宿題を増やしてやろう。

 ルナの横でアインがモジモジしている。話し掛けたいのかもしれない。ただ、他の男子たちの熱気に押されて行けないのだろう。


「先生、あの子、どこの子?」


 エイミが声を掛けてきた。正直言って分からない。


「俺もさっき聞いたばかりでさ。でも、王都で一回会ったことがあるよ」

「ふ~ん、随分、人気者だね」


 少し面白くなさそうに言った。田舎で転校生とは珍しいので、一時的な人気は分かる。

 だが、それ以上の人気を持っていそうな気がした。


「エイミから見て、ルナのことどう? 不思議な感じする?」

「不思議って言われたら、そうかも……」

「そっか。……さて、うるさい男子を黙らせるとするか。お~い、授業を再開するぞ」


 俺の言葉を聞いて、男子一同から何時にも増して酷いブーイングを受けた。

 少し頭にくるが、通常運転に近いので許容しよう。

 去っていく男子を見ていると、ルナに何度も目をやっているアインが見えた。


   ・   ・   ・


 家族とレンで夕食をとっていた。

 今日あった事を話題に上げる。ルナが学校に来たことを話すと、場が盛り上がった。

 

「アインと会っていた子が来るなんてねぇ。すごい偶然もあるものねぇ~」

「ジーンさん、運命ですよ、きっと! 私がダーリンと会った時のように!」


 確かにすごい偶然だ。それと同じく、レンと会ったのも偶然だ。運命とは思いたくはない。


「すごいよねぇ。可愛いのもあるんだけど、不思議な魅力があってさ。俺も何か惹かれる感じがしてね」

「ダーリン、酷い! これ以上、乙女を泣かせる気!?」

「泣かせとらんわ!」

「でも、昔、いっぱい泣かせたんでしょ?」

「好きで泣かせた訳じゃないんだよ!」


 どこから聞きつけたのか知らないが、昔の話をされても困る。

 大体、あの時はアインの力のせいでモテたのだ。アインが、である。

 そういえば、今日のアインの挙動が気になった。


「なあ、アイン。ルナと今日、話した?」


 アインに話を振った。が、黙々と箸を進めている。俺の声は届いていないようだ。


「ア~イ~ン? 大丈夫か?」

「あっ!? 何? ごめんなさい、聞いてなかった」

「ルナの事だよ。今日、話した? 王都でも話してたし隣の席だから、けっこう喋ったんじゃない?」


 俺の問いに、アインは力なく首を横に振った。

 表情が少し暗い。話せなかったことを、残念に思っているのかもしれない。


 食事を終えると、アインは自室に戻った。

 食後のお茶を楽しんでいると、ジーンが頬を緩めていた。気になるので声を掛けよう。


「ジーン、どうしたの? 笑っていたけど?」

「えっ? そうねぇ~。微笑ましくってねぇ」

「何が? 何かあったっけ?」

「もう……本当に鈍いのねぇ~」


 呆れ顔で言われた。鈍いと言われても、分からないものは分からない。

 首を傾げて頭の中を整理していると、今度はレンが顔をニヤつかせている。


「ダーリン、本当に分かんないの? こ、い。恋だよ、恋。あ~ん、良い響き~」

「何ですと!?」


 思わぬことに口をだらしなく開けていることが、自分でも分かる。

 アインが恋だと。どこか抜けているから、恋などに気付かない鈍感くんかと思っていたが。


「アインだって恋はするわよぉ~。でも、ルナちゃんだったのねぇ。他の女の子たちも良い子ばかりなのにぃ」

「えっ!? 他って、誰!?」

「ルシーヌちゃんに、ハンナちゃん、エイミちゃん。三人共、アインのことが好きだと思うわよん」

「マジっすか!?」


 とんでもない話がジーンの口よりもたらされた。

 確かに三人とは仲が良い。だが、好きという感情を抱いていたとは知らなかった。


 記憶を辿って、そういう素振りがあったかを確認する。

 そういえば、俺のことを二人が恐ろしい目で見ていたことがあった。

 俺がルシーヌを優先した時だ。向けられた視線の正体が分かった。


「ア、アインはモテモテだね。これは末恐ろしいね。修羅場が待ち構えてたりして」

「アインちゃんなら大丈夫じゃない? 甲斐性がありそうだから、四人ぐらいへっちゃらだと思うよ?」

「ま、アインなら大丈夫かもね。俺はジーンだけで限界だよ」

「じゃあ、私がダーリンを養ってあげるね」

「ヒモになる気はねぇ!」


 いつも通り、やかましいお茶の時間を過ごして、一日が終わる。

 アインの恋。おそらく、初恋だろう。恋焦がれているアインが、どのような行動をとるのか少し楽しみである。


   ・   ・   ・


 ルナが学校に来て、一週間が過ぎた。


「ねぇねぇ、ルナちゃん。学校、終わったら遊びに行かない?」

「ルナちゃん、授業分かった? 先生の言葉難しいから、分かんなかったんじゃない?」

「お前等、ルナちゃんが困ってるだろ!? ね? ルナちゃん?」


 男どもが相も変わらず群がっている。

 これには女子たちも面白くないのか、冷たい視線を男子たちに送っている。


 今のところ、ルナと女子は衝突していなさそうだが、接触もできていない。

 困り顔のルナが生徒たちの間から見えた。女子と話しをしたいだろうに、囲まれてしまえば難しいだろう。

 男子と女子で分ける授業をしてみるのも良いかもしれない。


 今後の授業を考えて、横目でアインを見る。

 やはりモジモジしている。ルナと、どう接触したら良いのか分からないのだろう。


 俺がでしゃばることではないので、見守ることに徹する。できれば、悔いのない選択をしてもらいたい。

 どこか微笑ましく、もどかしい気持ちにさせる、我が息子に思わず顔がほころんだ。

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