不思議な少女
魔法学園のスタジアムの観覧席から、中央にある壇上の生徒たちを見る。
今日はB組からA組への昇級試験であった。スタジアム内は活気に満ちている。
今回の試験は一般公開されているので、魔法発表会とはまた違った楽しみがある。
それは、昇級の課題である攻撃的な魔法を直に見れることだ。
発表会や事業参観では味わえない迫力を体験できるらしい。
壇上のアインとルシーヌに目を向ける。二人共、緊張している様子はない。
リラックスしているのか、二人で楽しげに会話をしている。
周りの生徒に目を向けると、一様に緊張の面持ちをしている。
流石はトップの成績を収めている二人だ。試験の前に安心してしまう。
「ねぇ、ジーン。この感じなら二人共、合格できるんじゃない?」
横にいるジーンに声を掛けた。優しい目をアインに向けたまま、ジーンは答える。
「そうねぇ~、大丈夫そうねぇ。できれば二人共、受かってほしいわねぇ」
「ああ、せっかく仲良しなんだから、一緒に上がってほしいよね」
「ええ、そう思うわん。仲良しなんだもんねぇ~」
ジーンがにんまりと笑って言った。少し意地悪に見えた。
俺の何かを試しているのだろうか。
「それでは、今よりA組昇級試験を実施いたします」
教師の言葉でスタジアム内が歓声に包まれた。
ほぼ満員の観客たちの声を受ければ、誰でも緊張してしまうだろう。
改めて我が子を見ると、笑みを浮かべてルシーヌと話しをしている。
すでに試験が始まっているのに、この落ち着きようはなんだろう。逆に心配してしまう。
緊張感のない二人を見てハラハラしていると、ルシーヌの名が呼ばれた。
ルシーヌは朗らかにアインに軽く手を振って、壇の中央に立った。
ルシーヌの視線の先にはガッチガチのマッスル体型の石像が立っている。
壇の四隅にローブをまとった大人が四人立っていた。
話しに聞けば、あの人たちは結界を張って、魔法がスタジアムの観客席に飛び火しないようにしているとのことだ。
ルシーヌが杖を構えると、目を閉じた。精神統一の時間だ。
魔力を発動したい魔法の形に変えていく。難しい魔法になれば、一分以上かかるのはざらと聞いたが。
十数秒でルシーヌは目を開けた。
「インフェルノ・バブル!」
ルシーヌの杖から大きな火の玉が大量に発生すると、石像に向かって放たれた。
火の玉が放射状に広がりながら飛んで行く。一つの火の玉が石像に触れた。
大量の爆発音と衝撃がスタジアムを震わせる。一つの火の玉が爆発した瞬間、連鎖的に他の火の玉も爆発したのだ。
耳がキンキンしている。他の観客もそうなのか、みんな顔を歪めていた。
「ジーン、これすごいね。鼓膜が破れるかと思ったよ」
「本当ねぇ。まだ耳が痛いわぁ。でも、これだけすごければ昇級できるんじゃないかしら」
他の生徒たちが魔法を次々と繰り出していく。どれも迫力があって、観客を魅了している。
何度も拍手を送っていると、遂に我が子の出番が回ってきた。
杖を構えて、目を閉じ、集中している。その姿を見てワクワクした。
「どんな魔法だろうね。楽し」
「エア・スパイラル・ニードル!」
「早っ!?」
杖の先に風の渦が形成される。
アインが杖を振るうと、渦が消えた。
その刹那、石像が粉みじんに吹き飛んだ。
「二、ニードルってレベルじゃないだろ……」
「すごいわねぇ。ルシーヌちゃんに負けてないわねぇ」
「うん。これなら、いい結果が期待できるね」
誇らしい息子を二人で見つめる。
本当に大きくなったものだ。アインは今年で十二歳になる。
振り返れば色々あったが、あっという間に思ってしまう。
まだまだ子供だが、その内に巣立っていくのだろう。そう思うと、少しだけ寂しく思った。
・ ・ ・
試験が終わり、ルシーヌと共に昼食をとった。
俺たち家族は魔法学校をあとにして、宿屋へと向かう。
「アイン、今日は良い感じだったな。これなら昇級できるんじゃないか?」
「ん~、分かんない。他の人たちもすごいから」
「そうか? パパが見た感じでは」
目が一つのものに引かれた。
プラチナブロンドのロングヘアの少女だ。
どこか寂し気で、儚げな顔をしている。
浮世離れしているように見える、不可思議な魅力を持った少女だ。歳の頃はアインと変わらないように見える。
その少女は一人で道の端に立って、うつむいていた。
「パパ? どうかしたの?」
アインの声で目が覚めた気がした。
「ああ、あそこの女の子がね」
「え? あの子? 一人だよね……。少し寂しそう」
アインの印象も俺に近いもののようだ。
「ねぇ、パパ。話しに行っても良い? もしかしたら、迷子かも」
「ん? そうだねぇ……。うん、行っておいで」
「うん。じゃあ、行ってきます」
明るい笑みを浮かべたアインを見送り、俺たちも道の端に寄る。
アインが持ち前の明るさで少女に声を掛けていた。少女はアインを見つめて、少しだけ喋っている。
少女は少しだけ笑みを見せた。子供同士だからか会話が弾み始めたようだ。
じっと見つめていると、横にいたジーンが楽しげに小さく笑った。
「ジーン、どうかしたの?」
「微笑ましいと思ってぇ~。本当にアインは誰とでも仲良くなるのねぇ」
「ああ、流石というか何というか。色んな人と仲良くなれるのは、少し羨ましく思うよ」
「あなたにはレンちゃんがいるじゃなぁい」
「そこはジーンじゃないの!?」
驚愕の声を上げると、ジーンが腹を抱えて笑い始めた。
最近、俺をからかって楽しんでいる。レンの登場のお陰で、俺の家での地位が失墜しかけている気がしてならない。
頭が重くなってきたので、アインたちに目を向けて気持ちを切り替えようとした。
そこには中年の男女がいた。少女は女性の手を握っている。おそらくは両親だろう。
アインが俺たちに指をさした。その先を両親は辿って、俺たちにも頭を下げた。
慌てて俺も頭をへこへこと下げる。
その後、少女を連れた両親は人ごみに消えていく。
三人の背中が消えていくまでアインは手を振り続けていた。
・ ・ ・
生徒たちの机を回って、学習進度を確認する。
悩んでいる生徒には何が問題かを聞き、できるだけ丁寧に答えていく。
「せんせぇ~、何か面白い事ないの~?」
いつもの如く、授業の進行を妨げるハンスにため息が出る。
「あのなぁ、ハンス。そんなに面白いことがホイホイあったら、人生大変だろう?」
「せんせぇは面白い事、いっぱいだよね」
「好きで起きてる訳じゃないんだよ……。平穏無事なことを楽しもう。穏やかに一日が終わる。これ程、嬉しいことはないさ」
「せんせぇ、おじいちゃん臭い」
「……お前もいずれは通る道だという事を忘れるなよ」
どうでもいい無駄話で授業の時間を潰してしまった。気を取り直して、改めて教室内をうろつく。
「マサヨシ、ちょっと良いかな?」
村長が教室に顔を出した。珍しい事である。不真面目な生徒はもとより、真面目な生徒までざわついた。
手招きをする村長に従って教室の外に出る。学校の玄関まで連れられると、そこには見たことのある少女がいた。
「この子はルナ・バーミング。今度、この村に引っ越してくることになった、バーミング家の一人娘だ」
村長が少女のことを紹介してくれたが、不意の再開に言葉が出なかった。
紹介されたルナは会釈をすると、俺の顔をじっと見つめる。
「あの、失礼ですが先日、王都にいらっしゃいませんでしたか?」
「あ、ああ、そうだよ」
「じゃあ、アインくんもここに?」
「うん、教室にいるよ。村長、この子を学校に入れるという話ですか?」
村長に確認の言葉を口にすると頷いた。
「そういう事なら早速、みんなに紹介しないとね。じゃあ、おいで」
ルナに声を掛けると、柔らなか笑みを見せた。
その顔から不思議な魅力が伝わってきた。何かは分からないが、とても甘い気持ちになる。
子供の頃からスター性を持つ人はいないことはないので、ルナの魅力も生まれつき持っている才能なのだろう。
好印象をいだいたルナを連れて、教室に向かった。




