3-9-1.美しい世界は醜いものでできている
風と大地の大国アコードと帝國オルクは争いの対象にあり、これまでの歴史において幾度か戦争も起きていた。今現在は休戦中ともいえ、一時的な平和を保っている。しかし、それは準備期間。いつ仕掛けられるか、今の平和が崩れるのも時間の問題だろう。
「ふむ……」
かつて魔王ヘルゼウスを討った三雄の一人、アコードの元英雄として世界中に名を轟かせていた軍王ロダン・ハイルディンがいる限り、戦争で負けることはないと謳われてきたが、それでも老衰している彼にいつまでもすがっているわけにもいかない。いずれ十字団も、ロダンの後を継ぎ、戦線を駆けなければならないだろう。
チェスで例えるとすれば、最強を誇る女王が後方にいてはならないこともまた、戦法の内だ。
「団長引っかかったなり! はいドーン、チェックでーす!」
白硝子の城を動かし、黒硝子の王を追い詰めるルミア。チェス盤の上で行われているゲームもまた、激闘となっていた。
「おっと、そうきたか……!」
ロダンもあごをさすり、喉をうならせる。逃げても逃げても、チェックされる。頭をひねるロダンに対し、ルミアはご満悦のようだ。
「にゃっはははー! ねぇねぇ、首を狙われ続けて背水に追い詰められるってどんな気持ち?」
「おまえほんと性格悪いな」
観戦していたメルストは呟き、となりで見ていたフェミルもこくんとうなずく。
「はっはっは、むしろこの逆境こそ燃え上がる」そう楽し気に笑い、駒を動かす。
「ロダン団長マジ英雄。典型的な体育会系のそれだわ」
メルストに対し「たいいくかいけい……?」と首をかしげるフェミル。トーナメント戦でチェス勝負をやっていた4人だが、勝ち残ったのはルミアとロダン。決勝戦も大詰めといったところだ。
「ふん、戯言を。大人しくその首を寄越すが良い白銀の王よ! 氷雪の女王はもういない、兵も壊滅状態だ! そんな危機に瀕してもなお、我が漆黒の帝国軍に歯向かうとは愚勇といえよう!」
「ルミアは全力で何を演じてるの?」
「時代の簒奪者として、その純白の王国を漆黒に染めてやろうではないか! ふぁーっはっはっはっはっはお゛ほっ、えっほ、ちょ、蒸せ、げっほ!」
「残念だルミア、チェックメイトだ」
カンッ、と潔い音。
「え。そげな馬鹿なことが――ぬわぁぁぁん! 来てほしくなかったところにビショップ置かないでー!」
「そういう隙を作ることがルミアの甘いところだ、はっはっは」
「ここまで気持ちのいい逆転は見たことない」
メルストと同意して、フェミルはまたもこくんとうなずいた。
「ぐ、ぐぬぬ……」
いかにも悔しそうなルミアは懐に手を入れる。そのさりげない動作をロダンは見逃さない。
「言ってはおくが、前みたいにチェス盤を爆発させることだけはやめてくれよ」
「し、しないしそんなこと!」とすぐに手を後ろに回す。
「今回も、私の勝ちだな」余裕の笑みはまさに紳士な男のそれだ。
奇声ともいえる悔し泣きを漏らし、ルミアはソファに飛び込んだ。
「ヴぇぇぇぇっ! なんでなんで! なんでエリちゃん先生には勝てるのに団長には勝てないのーっ!」
足をバタバタし、顔を埋める。フォローするように、ロダンはやさしく声をかけた。
「何度か勝ってるじゃないか。この間なんか2連勝もしていただろう」
「10連勝したーいのぉーっ!」
「だだっこか」とメルスト。
「絶対に諦めてなるもんか! チェス王にあたしはなる!」
「マシンで世界を取る夢は何処にいった」
「ふふん、君の心の中さ!」
「勝手に夢を押し付けんな」
ズビシと指をメルストに刺したルミアの元気の良さは今日も騒々しい。その一方、コツコツと静かな足音。それだけで二階からエリシアが下りてくると解る。畳んだ洗濯物を片付け終わったようだ。
「あら、チェスは今回もロダンさんが優勝ですか?」
「少し危なかったがね」と満足そうに笑う。
「きーっ、くやしー!」
まだ悔しがっているルミアに「あらあら」とエリシアは微笑んだ。
今度はドダドダとやかましい音。何事かと思えばジェイクが鬼の顔で怒鳴り込んできた。
「キーキーキーキーうるせぇぞキチ猫! テメェの声頭に響くんだよ!」
「うるさいわね、二日酔いしてる方が悪いんでしょ! キーッ!」
いーっ、と睨み返し、さらに甲高い声。ジェイクの頭はキーンと痛む以上に、沸点直前に血が上ったようだ。
「ああ? やんのかゴラ」
「まぁまぁ落ち着けよ。ほらこれ、メディさんの薬あるし、それ飲めば二日酔いも楽になると思うよ。はい水」
二人の間にすんなりと割り込み、薬と水をジェイクに渡す。そんなメルストの親切さに、ジェイクは意を突かれる。
「……童貞のくせに気が利くじゃねぇか」
「童貞は余計だ」
空気も治まったことだ。ほっとしたエリシアはパンと手を叩き、みんなを注目させた。
「さてと、みなさん! 外も止んで、そちらもキリがいいところですし、今からお掃除しましょうか」
*
晴れ渡った昼下がり、空いた時間を使って十字団は拠点の家のこびりついた汚れを洗い流していた。メルストとフェミルは屋根を、エリシアとルミアは壁と窓を、ロダンは家の中を担当している。
「週に一度の屋根掃除に壁掃除、窓掃除……めんどくせぇ」
「しかも……泥雨」
黄砂とは異なるが、たまに土濁雨と呼ばれる土と水の混じったドロの雨が降り注いでくることがある。ただの泥水から油のように家や地面にこびりつきやすい粘性の高い泥までさまざまだ。
メルストのため息ととフェミルの沈んだ顏に、下にいるエリシアは苦笑する。
「もう、ふたりとも文句はダメですよ。お掃除は環境だけじゃなく人の心も綺麗にするのですから、ちゃんとやりましょうね」
「まぁその教えが正論で大事なのは分かっているけど……」と布巾で掃除していると見せかけて分解能力で粘性の高い泥を消去する。「魔法でやればこんな頑固汚れも取れるのに」
「それじゃあお掃除の意味がありません」
「ホントにお坊さんみたいなことをおっしゃる」
「せめて大賢者とおっしゃってください……」
それからもう少し時間が経った頃、メルストは布巾を放り、綺麗になった屋根の一部にゴロンと寝転がった。
「エリシアさん。前から思ってるけどこれキリない。ていうかジェイクどこいった。逃げただろ絶対」
「メル……いつものこと、だから」とフェミルは黙々と作業を続けている。彼女の家事は少々不器用だが、かなりまめだ。
「一番洗浄力もってるメル君が何言ってるのよさ。これでも順調な方だよ?」
壁にスチームを噴きかけてモップでごしごし洗っているルミアが言う。ルミアのやり方は別に何も言われないんだなと理不尽とまではいかないが、少しばかり変に思うメルストであった。
「内装の掃除なら別にいいよ。けど外は果てしない感があってメンタルイルネスレベル」
「どういうことですか……」
半ばあきれたエリシアのツッコミに対して、真顔で返答する。
「心の病」
途端、エリシアは手に持っていた掃除用具を地面に落とす。
「えっ、それは大変じゃないですか! 休まれてください! すぐにベッドまで――」
「エリちゃん先生ー、それ仮病ですー」とルミア。反論するべく、メルストは立ち上がった。
「ちょ、仮病じゃないから! エリシアさんのお世話がないと具合が悪くなるから! これマジ! げほっ、え゛ほっ、あー最近体調が崩れてる感じがするなー!」
わざとらしく咳き込み、身を崩す。それでも心配そうにおろおろしたエリシアに、ルミアは横目で呆れつつ、
「じゃあ大丈夫だね、この掃除もメル君にとっての教養だし」
「ほぁっ!? マジっすか」とメルストはどこからそのような変な声を出せたのか、そう思っても言わないフェミル。
「あの、私はどうすれば……?」と戸惑うエリシア。
「そのまま掃除を続けさせていいよ。ほらほらフェミルんを見習って。真面目にやってるよ?」
「……先生の、お世話……天国」
療養時期のこと思い出したのか、拭く手を止め、しみじみする。そういえば俺のときもそうだったな(料理を除いて)と、まるで幼き頃に母親の温もりを感じていたころを思い出しているような顔をする。
「だよね、フェミルも養われたいよね」
こくり、とうなずく。一呼吸の間の後、お互いに無言のグッドサインを出した。
「先生どうしよー! ここに新しくエリちゃん先生に養われ隊が結成されたんだけどー!」
「えっと、そうですね……どうしてもというのでしたら」
「いやそんなまんざらでもない顔されても。母性の塊か」
そんな他愛もない会話からさらに十数分が経過した後、つまらないを越えて無心を顔に出したまま屋根掃除をしているメルストが、ぶつぶつと呟きはじめている。
「なぁ、魔法術も機械技術も、人々の暮らしを便利にするためにあると思うんだ。錬金術も、いっしょだと思うんだ」
虚空を見つめてつぶやく変人に、下で布巾の取り換えを行っていたフェミルは人として大丈夫かと言わんばかりにルミアに話しかける。
「なんか……言い始めてる」
「たまにああなんのよ、メル君って」
おもしろいでしょ、とルミアはケタケタ笑う。フェミルは首を傾げたとき、屋根の上から高らかに宣言する声が聞こえてきた。
「――というわけで、作る。汚れがつかない屋根も、壁も窓も全部作る!」
「本気でなんか言い始めたんだけど」
「またすごいことを申しましたね……」
半ば感心と呆れを交じり合わせたように言うエリシア。屋根から飛び降りたメルストは、持っていた掃除用具をその場に置く。
「思い立ったが吉! フットワークの軽さ大事! 後回しは後悔のはじまり待ったなし!」
「掃除から逃げたいだけじゃないですか!」
「普段足腰重いヒッキーのくせに、都合良い時だけ軽くなるよねー」
彼女らの割と冷たい声に応えず、白衣の長袖を捲る。
(汚れをつきにくくする材料といえば、あれだ。光触媒。前世じゃ酸化チタンがタイムリーだったか確か)
プラズマ発する右手から創成したチタンに空気中の酸素と結合させる。捲った腕の表面には金属光沢のある酸化チタンがまとっていた。構築能力で何十枚もの壁紙サイズの単結晶酸化チタンプレートを素手から錬成する。
「よし完成っと……勢いであっさり作っちゃったな」
早業で創り出したダイヤモンドのように固くかつ輝く白色の鉱物板を、何層にも重ねる。ジェイクがこの場にいれば真っ先に持ち出してお金にしようと売りさばきそうだ。
「もう創ったのですか!?」とエリシアは驚く。ルミアも背中に背負った重厚そうな蒸気機械ごと関心を寄せてきた。
「へへぇ、これが皮肉にもメル君の汚い心をきっかけに作られた、汚れがつきにくい材料?」
「その言い回しはよせ」
「これで……ジェイクの心も、これ以上、くすまずに、済む」
「ということはフェミルの"穢れ"も浄化――」
「ごめん、物理的に心の汚れはどうしようもできない」
しゅんと残念そうにするふたり。一体なにを期待していたのか。「あーメル君やらかしー」とよくわからない一言に「なんで俺が悪いみたいになってんの」と呆れて返す。
「でも、特に魔力は感じられないような……これで本当に穢れは浄化――」
「だから違うって」とツッコミ。「魔法観点で考えるのも無理はないけど、これはいわば水属性のコーティング魔法で家の表面を包むよりも楽で、能率的だ」
「魔法よりも……!?」と受け入れた表情。一応魔法薬学者の肩書を持つ生真面目な大賢者は、魔法ワードと効率に大層弱い。そのチョロさを前に、鼻で笑ったようなルミアの表情がなんともいえない。
「魔法規準で考えられたら難しいんだけど、太陽の光や照明石、あと魔法で発する光にはエネルギーが宿っていて、それがこの酸化チタンっていう物体に当たると、電子っていう森羅万象に含まれる……んーなんだろな、魔法で言う『魔素』のさらに大元の一種みたいなものかな、それが動き出して物質からスポンと抜け出るんだ」
「魔素の素って、デンシというものは相当小さなものなんですね」
「電子が抜けてできた穴を『正孔』といって、その電子と正孔のふたつが酸化チタンを変化させて、表面に触れた酸素や水と反応するようになって。結果としてスーパーオキサイドアニオンやヒドロキシラジカルといった酸化力の強い物質が発生する」
「なにその魔法用語」と言ったルミアの目は拒絶したように死んでいる。「いや魔法じゃないから」と付け足す。
「でもヒドロキシという言葉は他の錬金術師の方の口から聞いたことがあるような」
「今言った酸化力ってのは、いろいろ意味があるんだけど、ここではよごれやカビの素、あとにおいの元を分解することができる力だと思ってればいいよ」
「それは……いい、かも」とフェミルも関心を示す。
「それともうひとつ……を言う前に、実際にやってみた方が早いか。天気もいいしな」
眩しいほどまでに晴れ渡った天候を見つめ、メルストは酸化チタンの薄い板を一枚持ち、
「ルミア、その掃除に使ってたスプレー貸して」
「……? いいけど」
「うん、ナチュラルにジャム缶手榴弾を渡さないでくれるかな。サイコパスなの君」
「ノリ悪いよメル君」
「爆撃物相手にノリもクソもねぇよ。てか早くその右手に持ってる缶をよこせ」
「はいはい、仕方ないにゃあ」
メルストの調合していた洗剤入りの手持ちスプレーの中身を、自分の手にぶっかけ、蒸発、分解させる。空になった容器に板状から液状へと構造を変えた酸化チタンと創製した水を入れる。
「はい、光触媒スプレーの完成。これを窓に吹きかけてコーティング完了」
そういうと、工房へと駆け出し、ペール缶を持ち出してきた。
「それあたしの使ってた油じゃん」
「うん。じゃあ工房の廃油をぶっかけます。フェミル、おねがい」
メルストの意志が通じたのか、フェミルはペール缶の中身を窓に容赦なくぶつける。
「わかった。……ていっ」
一瞬窓越しにいたロダンが驚愕の顔をしていたような気がするが、気にしないように視線を廃油まみれの窓から逸らした。だが、逸らしても、エリシアやルミアの驚愕した顔が待っているわけだが。
「こっ、これは落とすのに相当な労力を要しますね」
「洗浄魔法使える人が言ってもな」とエリシアを軽く笑うが、内心全部ぶち撒かすとは思わなかったとメルストはフェミルに対して驚愕していた。
べっとりとまではいかないが、どこからみても透明な窓には程遠いくすんだようなガラスにも見える。次の手順へと移り、バケツに創製した純水を手からダバダバと絞るように出した。
「で、雨代わりに水をぶっかけます」
「ていっ」
今度も容赦なく水を叩き付ける。窓ガラスが割れないか心配するレベルだ。きっと窓ごしでまたもロダンがびっくりしていることだろう。
それが起因したことなのか否か、メルストの想定よりもまだマシといえる結果が窓に現れる。窓にこびりついていた油汚れのほとんどが水と共に流れ落ちていた。布巾でふき取れば、目だった汚れやガラスのくすみも気にならないほどの綺麗さになる。
「まぁ、こんな簡単に取れるわけで」
「すごい! あっさりにも程がありますよ!」
「うわーこれはおったまげ。エルフ族もびっくり」
「おおー……かんたんに、取れた」
よかった、と内心ほっとしつつ、「ホントは大量の汚れをすばやく綺麗にしたりはできないけどね」と念のためフォロー。
「どうして水をかけるだけであのとんでもない汚れを流せたのですか? 普通、油なんて水では全然取れませんよ」
「さっきの説明の続きに戻ろうか。酸化チタンは光に当たらないと疎水性っていう水をはじく性質なんだよ。水をかけても水滴になって曇るんだけど、今はこうやって日光浴びてるから、光のエネルギーによって酸化チタンの中にある酸素との結合が切れる」
「強大な力の前に引き裂かれる恋人みたいな?」とルミア。
「まぁ、そういう悲劇のリア充が大量にいるって感じ」と返し、「それは怖すぎますよ」とエリシア。
「で、結合の手がぶっつり切れると、その空いた手をなんとかして酸素と結びつかなければならない」
「尻の軽い女だね」
(チタン女役かよ)
「温もり、ないから、さびしいんだね……」と意味深なことをいつもの調子で言うフェミルに返す言葉も見つからない一同。空気が変わらないように、自然な流れに説明を戻した。
「となければ外部からやってきた水――の中にある酸素と弱く結びつくんだけど、これはつまり疎水性からどう変わったと思う?」
「水に馴染みやすくなった、ですか?」
「そう、水滴として嫌われるように弾かれてた水が、光の恵みによって超がつくほどの親水性、まぁ受け入れてもらえるようになったってわけだ。膜のように広がって、水のコーティングが形成される」
「つまり今まで拒絶していた男を、別れたからと今さらになって付き合ってよって言うような尻軽の性悪女ってわけだね」
「酸化チタンをそんな風に例える人はじめてみたよ」
「それで、水が汚れのところに入り込んで、いっしょに流れるということですか?」
「そそそ。即効性はないけど、これをルミアの工房の内装にコーティングすれば汚れにくいと思うし、水も空気も綺麗にすることができるよ。光があれば、だけど」
「頼もしいですね!」と手を合わせて感激するエリシアの一方で、「ああいう泥臭さが雰囲気出るんだけどなぁ」とルミアは独自のこだわりをもっているようだ。
「光のエネルギーを使って、汚れを分解したりカビのもとを殺すことができる。これが光触媒。水や空気をきれいにするほかにも、植物の光合成と同じ効果をもたらしたりと、いろいろな効果をもたらすんだけど、挙げるときりないから、というより語るときりないから」
「そだね、学者の熱い語りほど冷めるものはないよ」
「狂的爆発機械愛好家がなにを言うか」と真顔で即答する。
「ねえ……これ全部、家に吹きかけるの?」
「それもそれで、大変な作業ですね」
核心を突かれたと言わんばかりに固まるメルスト。確かにとうなずくルミア。
「そこは……まぁ、魔法で何とか」
「そこの効率性は考えてなかったのですね」
参ったな、と困るメルストに、エリシア等は笑う。それにつられてぷっと吹き出したメルストだが、ふと視界に入った町の景色に目が往く。
「……あれ、なんか煙あがってないか? ほらあそこ」
メルストが指さした先、ここから少し遠くのかろうじて見えるであろう場所から黒い煙が立ち上っている。今日は特に祭りのイベントはない。ギルドで戦闘の訓練でもしている人がいるのか。そんな楽観的な考えをしようとも、自然と嫌な考えがよぎる。
まさか襲撃じゃ……と最悪の想定で不安に煽られた時だった。町から十字団の家へ続く丘の道を、3人ほどの町人が必死の形相で走ってきた。
「大賢者様! 大変です! 西の町で火事が!」
「ッ、なんですって……!?」