クライマックスはやべえ
それではみなさん、さようなら
「ああ……」
僕の目からは涙がとめどなく溢れていて、僕はそれを止めようとは思わなかった。なぜならそれはどうやったって止まらないからだ。
心をがんじがらめに縛っていた糸をほどいてしまった、いや、ほどかれてしまったのだ。僕が何カ月も抑圧していた心を、いとも簡単に開放させてしまったのだ。
僕は知らず知らずのうちに頑張っていたのかもしれない。心の中ではつねに不安でいっぱいだったのかもしれない。できることならもっと早くにこうしたかったのかもしれない。しかし僕はそれを無意識に隠していた。自立しなくてはならなかった。その気持ちが僕を引き締めさせた。
最後に涙を流したのはいつだっただろうか。この惑星に来てから泣くことはあっただろうか。僕はそんなことも考えられない。
ただただ、僕はどうしてもその顔を見てしまって、再び魔法にかかってしまったのだ。もう一生治ることのない恋の魔法に。
「ジャスティスさん、泣きすぎですよ」
そういいながらも真白さんの目から涙が流れていたことは、僕の首がひんやりとしたことで十分証明できた。
そうしてこうして、僕達は久しぶりに再会することができたのだった。
さて、こうして僕は真白さんと再会することができたのだが、それまでの経緯を説明した方がいいだろうか。いや、しなくてもいいかな。
まあ、聞きたい人だけ聞いてくれたら幸いである。
話は少し前にさかのぼる。
僕はピカチュウもどきに言われてルフィもどきを探していた。
「ルフィー!」
「ゾルアですよ。ルフィは彼が意識しているキャラクターの名前ですよ」
「意識しているとか言ってやるなよ……」
僕はチンパンジーの大吾郎と一緒にルフィもどきを探していた。いつもの場所からはもう数十キロは離れているだろうか。
なんだかこんな遠くまで来るのは久しぶりな気がする。大吾郎がこの惑星の自浄システムを作ってからは一度も訪れていないかもしれない。
久しぶりに見た景色は前に来た時よりも全然変わっていて、昔の面影はほとんど残っていなかった。
ここまでこの惑星を発展させてくれた大吾郎には感謝の気持ちもあるが、それと同時に無理しすぎていないか心配になってしまう。
「大吾郎」
「どうしたんですか」
「あんまり無理しすぎないでな」
「大丈夫ですよ。私の役目ももう終わりますから」
役目、という言葉に引っかかってしまう。大吾郎はなにかの役割をもって生まれてきたのか?生み出されたのか?
常識的に考えて、人の言葉を話し、それどころか化学の知識にも富んでいるチンパンジーなど存在するわけがなかった。少なくとも人工的に作りだされたなにかであることはすぐに分かることだった。
僕にはそのイレギュラー度合に慣れてしまったのだ。
ふーん、なるほどねえ。で片付けることができてしまうほどに僕の中でのドキドキを失ってしまったのだ。
目の前にどんなに奇怪で異種なものが存在していても信じることができる。いや、信じることはできないが受け止めることはできる。拒絶しないことができる。
しかし、返答はできない。
「ふーん」
僕は適当に相槌をうって話を終わらせる。大吾郎との付き合いも思えば長くなったものだが、未だに意味深なセリフに対する返答を思いつかない。
というか意味深な発言をするな。
厨二病か。
身の丈にあった生き方をしろ!
なにはともあれ、僕と大吾郎は数分ほどしてルフィ―とチョッパーをみつけた。2人は草原に寝転がって昼寝をしていた。
のんきだなあ。
「起きて!起きて!」
僕は2人をユサユサとゆすって起こそうとするが、
「うるせえ!」
バチン!
とゴムゴムの暴力を食らってしまい僕は遥か彼方へと飛ばされた。距離にして数キロほどだろうか。とても少年漫画の主人公を長年勤めているとは思えないような力の乱用っぷりに、世の中は嘘ばっかりだと嘆く僕だった。
そして気絶。
暗転。
「ハッ!」
目が覚めて体を起こすと、なんだか今までに登場していたキャラクターが雁首そろえて集まっていたので、これは今からリンチにあうのかと思い、
「どっひゃー」
バタリと倒れて寝てしまおうと思ったが、そこはやっぱり僕で、
グチャリ。
と倒れた拍子にハムスターを潰してしまった。いや、正確にはハムスターは僕の体に押しつぶされはしたが、潰れることはなく、スルスルと僕のプレスから脱出したのだ。
「こら!」
ハムスターは寝ている僕に向かってハムパンチやハムキックを繰りだしたり、僕の顔に登ってグルグルと回ったりしていた。
いい加減ウザかったので僕は道端に生えていた雑草をブチリと無慈悲にもちぎり、ハムスターの口に詰め込んだ。
そうした途端、ハムスターが光りはじめた。
「え?え?」
僕は困惑する。それはハムスターも同じだったようで、
「ふがぁ?ふがあ?」
と、口に草が詰まっているために上手くしゃべれていなかったが、僕はハムスターと気持ちを共にしていたため、内容はすぐに分かった。
気持ちとしてはハムスターの方が不安だろう。僕だって自分の体が光りはじめたら困惑してしまう。夜とかどうしよう……と考えてしまう。
「始まりましたね」
と声を出したのは白い球体であるジョンソン・ファーストだった。
「え?」
僕はジョンソンの方を向く。ジョンソンは表情なんてものはないはずなのだが、どこか覚悟を決めたような表情になっているのを感じた。
「最初に私は言いましたよね。私は人を呼ぶことが出来ると。そしてそれは今では無い、と」
えーっと。
そんなこと言ってたっけ?
あそこら辺は完全にギャグパートだと思っていたから伏線が入っているなんて考え付かなかった。そんな伏線を今になって引きだされても困って困って。
なんか伏線あるときは前もって言ってくれないかな。それが分かってたら僕も真面目に返答するのに。
そんな僕の思いとは裏腹に、ジョンソンファーストはパックリと2つに割れていた。
「ジョンソン?」
僕はジョンソンに尋ねる。
「潮時です」
ジョンソンは僕の疑問を解決してくれない。なんだか僕を無視して物語が進んでいるようだった。
まあいいけど。
それよりも衝撃的だったのが、チンパンジーもハムスターも、ルフィもチョッパーもピカチュウも、みんな、まるで何かに取りつかれたようにジョンソンへと歩いていく様を目の当たりにしたことだ。
それは、人の――生き物の歩き方と呼べるようなものではなくて、同じ歩幅で同じリズムで、歩き続けていた。
「もうギャグコメじゃねえなあ……」
僕はその異様な光景に呆れたセリフしか出せなかった。
もう真白さんもいないからラブコメでもなくなってしまったし。
ジョンソンの元に全員が集まると、ジョンソンはゆっくりと下降していった。ズズズ、ズズズと下りていき、最終的にジョンソンはみんなを包みこんだ。
「なんだこりゃ……」
もう本当に何かわからなかった。
その後ジョンソンはズズズ、ズズズと地面へと沈んでいき、結局この惑星には僕だけになってしまった。
「どうしよう……」
これからどうしよう。
と思ったのだが、そんなものは杞憂だったわけである。
「おはようございます。良い朝ですね」
僕に背後から声をかけてきたのは真白さんだった。
「というわけで」
僕は真白さんの両手を掴む。
「真白さん」
「なんですか?」
「完」
「え?終わらせるんですか?私の出番少なすぎないですか。せっかくこの惑星に来たのに、すぐに終わるんですか。まだまだ続けましょうよ」
「いやです」
「は?」
「ごめんなさいごめんなさい」
「しっかりしてください」
ゴホン、と僕はわざとらしく咳ばらいを1つして、言う。
「じゃあ真白さん」
「なんですかジャスティスさん」
「家を――」
「?」
「家を作りましょう」
次回、ホームメイドハウス編突入!
また今度ね




