ゴーカートは豪快に
「ジャスティスさんジャスティスさん!」
「なんですかなんですか?」
「バーベキューしたくないですか?」
「NG」
「英語……」
「真白さんは英語だめなんですか?」
「いや、さすがにそのレベルなら大丈夫ですけど。そもそも、NGって英語なんですかね?」
「自分で英語って言ったんじゃないですか。自分の発言に責任を持ってくださいよ頭悪いんですか?」
「いや、私はまだ“英語”としか言っていないんで、その後に続く言葉はまだわからないじゃないですか」
「じゃあ、真白さんは何て言おうと思ってたんですか?」
「えっと……」
「とくに考えてなかったんですね」
「いや、いけます」
「そうですか期待してます」
「……えいごリアン」
「古いですね。20点です」
「ジャスティスさんが点数をつけていいと思ってるんですか?」
「なんか手厳しいなあ」
「かかあ天下ですからね」
「はあ」
ははあ天下。
「というわけで、バーベキューですよバーベキュー」
「道具はあるんですか?」
「空輸してきました」
「空輸……」
「はい、もうそろそろ届くはずですけど」
「そうですか」
「ヘリポートにいきましょうか」
「ヘリポート……」
「あ、我が家にヘリポートあるの気付いてなかったんですか?」
「気付いてませんでした」
「自分の家なのに気づいてないんですか。異端ですね」
「ごめんなさい真白さん」
「謝ったら許してくれるとでも思ってるんですか。痛んで死ね」
「いや別に、異端ですね、と痛んで死ねって無理にかけなくてもいいんですよ。そもそも、我が家が広すぎるんですよ。何畳あるんですか」
「畳単位で聞かれると正確なことは分からないですけど、たぶん、畳9999999枚くらいはあるんじゃないですかね」
「ちょっと畳単位で言われても分かんないですね。数値カンストしてますし」
「じゃあ畳単位で聞かないでくださいよ」
「やはり日本人たるもの、いつでも畳の心を忘れてはいけないと思いまして」
「うーん。一理ありますね」
「じゃあ、ヘリポートいきますか。案内してください」
「いいですよ。こっちです」
「うわああああああああああ、速い速い速い速い!まって真白さん真白さん!」
「どうしたんですか。とりあえず、車停めますね」
「グゲッ」
僕は衝撃で言葉にもならない呻きを口にする。
「どうしたんですかジャスティスさん」
真白さんは僕がいかれた人だというような顔をしながら聞く。
「急停止しないでくださいよ。僕、半分ぐらい座席から飛び出しましたよ」
「全部飛び出てしまえばよかったのに」
「ひど!夫婦ですよ!?」
僕と真白さんはあの劇的な告白があってから、すぐに入籍と同棲を始めた。この家も2人の愛の巣ということなのだが、真白さんに一括で払ってもらったので僕の意向は含まれていない。気が付いたら馬鹿みたいに大きな家に招かれた。
「なんでシートベルトしてないんですか」
真白さんは僕に聞く。
「だってゴーカートですし。僕、初めて聞きましたよ。敷地内をゴーカートで移動する人。もっと自転車とかバギーとかあるでしょう」
「バギー?」
「忘れてください」
「忘れましょう」
「やったあ!」
「いい年の大人が無邪気に喜ばないでください。腹が立ちます」
「なんか今日の真白さん、当たりが強いですね」
「久しぶりなんで距離感を間違えましたね」
「数か月ぶりですしね」
あの怒涛のエンディングから数か月が経ち、僕と真白さんは互いに距離感を掴み損ねていた。
「謝ってください」
「え?僕が謝るんですか?なんで謝らなくていけないんですか?」
「あたりまえじゃないですか。誰のせいで数か月も休みだったと思っているんですか」
「いや、僕が原因じゃないですよ」
「え?そうなんですか?」
「あたりまえじゃないですか。ただの主人公になにができるんできるっていうんですか」
「なるほど!自分が主人公という自覚があるということですね!」
「え!僕って主人公じゃないの!?」
なにせ、登場人物2人だ。僕が主人公で真白さんがヒロインだと思っていた。というより僕は主人公じゃなかったらなんなんだ」
「ジャスティスさんはモブです」
「2人しかいないのにモブなの?」
「はい、主人公は私です。ヒロインも私です」
「自己完結してる……」
なんだその物語。なにが楽しいんだ。
「じゃあ、また車を動かしていいんですか?」
真白さんはゴーカートのハンドルをグルグルと撫で回しながら僕の方を向く。
「シートベルトするまで待ってください」
「大丈夫ですよ。私が心のシートベルトをしてあげますから」
「なるほど!」
全然わからなかった。なんだろうか、心のシートベルトって。そもそも心のシートベルトをしても僕が吹っ飛ぶことに変わりはない。
僕は話をしている最中にちゃっかりとシートベルトをつけた。
「あっ!そういえばジャスティスさん」
真白さんは胸のあたりで手を合わせて、さも閃いたように話す。
僕は真白さんの聞いてほしいオーラを感じ取った。じらそうかとも思ったが、運転席にいる真白さんを挑発させたら、このまま崖でチキンレースをさせるかもしれないので大人しく聞いてあげることにした。
真白さんの場合、チキンレースとか言いながらも絶対に崖から落ちるだろう。ついうっかり、とか言いながらアクセル全力で崖へ進んでいくだろう。
「どうしたんですか?」
僕はできるかぎり真白さんを挑発しないように聞く。
「ふっふっふ」
真白さんはニヤニヤと笑っている。
嫌な予感しかしなかった。
「私の家には珍しいものがいっぱいあるんですよね。私の個人的なオススメは……」
「オススメは……?」
バチン!
鈍い音が僕の近くで聞こえた。
僕は恐る恐る真白さんの方を向くと、そこには右手にハサミを持ったまま満面の笑みをした真白さんがいた。
「それは……?」
僕は兢々としながら真白さんの右手にあるハサミをゆっくりと指さす。指さしたはずだったのだが、僕の手が地獄のごとく震えていて上手にハサミを指させない。
「これは、真白ちゃん秘密道具の1つである、なんでも切れ~るハサミです」
「グッフェ~~!!!」
僕のシートベルトはバッツンと2つに切れていた。
「飛ばしますよ!つかまってください!」
真白さんはゴーカートのアクセルを力いっぱい踏み込んだ。
「ドッヒャア~~~!!!!」
僕は掴まる場所がなかったので座席に指の力だけで掴まった。
「ジャスティスさん、キャラがぶれてますね」
シートベルトがない豪速のゴーカートに乗せられてキャラがぶれない人がいるのだろうか。
少なくとも僕は違った。




