修了のチャイムは一月の寒風と共に
飛行機は着陸した。
僕の横には、前回、ゴリラにボコボコに殴られて死んだはずのエロおやじが、ピンピンして座っていた。
「なんで死んでないんだ……。」
僕は声が漏れてしまう。
「お、聞きたいか。若造。」
「いや、いいです。」
「実は俺はな、吸血鬼なんだよ。」
「ああ、不死身なんですね。」
「そうそう。じゃあ、またの機会にな。若造。彼女は大事にしろよ。」
そういって吸血鬼のエロおやじは飛行機から降りていった。
「うわああああ!!!!!!!!!俺が吸血鬼なの忘れてたあああああ!!!!!!!」
エロおやじは飛行機から降りた途端、太陽にやられて消えた。
「なんだったんだ……。」
「彼女ですって。」
吸血鬼がウッカリミスで消えたことに驚きを隠せずにいる僕に、そんなことお構いなしの真白さんが話しかけてきた。
「え、ああ、あの吸血鬼の人が言ってましたね。」
僕は一瞬、何を言っているのか理解できなかったが、今までした会話をゆっくりと思いだしてみると、吸血鬼の遺言にそんな発言があったなあ、と思いだした。
真白さんは言った。
「私達、結婚しましょう。」
「え?」
僕は真白さんの提案を聞き取れなかったふりをする。
「結婚しましょう。」
「はい。」
僕達は結婚した。
奥にいるゴリラが祝福のドラミングなのか、両手で胸を強く叩いていた。
雰囲気台無しである。
~新婚旅行~
「ジャスティスさん、新婚旅行はどこに行きましょうか。」
「うーん。」
「ワクワク。」
「僕が決めちゃっていいの?」
「当たり前じゃないですか。一家の大黒柱ですよ。」
「わかった。」
「ワクワク。」
「うーん。」
「ワクワク。」
「決めた!」
「どこですか?どこですか?」ワクワク
「島根!」
「却下!」
「鳥取!」
「却下!」
「オーロラみにいこう!」
「却下!」
「え、自信あったのに。」
「はやく!次!」
「うーん。」
「できれば、チンパンジーが住んでいそうな場所がいいですね。」
「じゃあボルネオ!」
「いきましょう!」
~ボルネオ島~
「みてください、ジャスティスさん。凄いですよ。」
「わかった。わかったから揺らさないで。こんな不安定なつり橋なんだから、ゆっくり歩いて。」
「私は安全でにつまらない人生を長く歩むよりも、短くても太い人生を送りたい。」
「かっこいい。」
「でしょう!」
「ドヤ顔やめてください。いや、ドヤ顔はいいんで、揺らさないでください。」
「仕方ねえなあ。」
「うわああ!!!!!!真白さん、こっちこないで、揺らさないで!!!!!!」ドスドス
「ん。」
「つり橋の上でキスされた……。」
「じゃあ、行きましょうか。ジャスティスさん。」
「はい。」サクサクアルイタ
「見てください!ジャスティスさん。チンパンジーですよ。」
「おお、やはり野生は違うなあ。」
「あはは、玉乗りしてますよ!」
「野生か……?」
「おお!火の輪くぐりしてますよ!」
「飼育されてるって分かったけど、それ以上にすげえ!」
「ヤシの実でジャグリングしてますよ。」
「器用だなあ。」
「あ、お久しぶりです。」
「やっぱり、あのチンパンジーだったか。さすがに僕ももう驚かないよ。」
「うわあああああああああ!!!!!!!!!!!!!チンパンジーが喋ったあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「ええ……。真白さん、今驚くのかよ。」
「はい、まさか居るとは思いませんでした。」
「もう何も言えないですよ。」
「楽しかったですね、ボルネオ。」
「そうですね。」
「また来週来ましょうか。」
「新婚旅行の意味。」
「そもそも、お金かかりますよ。僕だってそんなにお金を稼げているわけではないですし。」
「金ならありますよ!」ドサッ
「ポケットに札束……。しかもマレーシアの通貨に換金されている……!」
「抜け目はありませんよ。」
~妊娠~
「いくよ!真白さん!」
「はい!」
「おらあ!」
「おいしょー!」
「ふう。」
「あー、これは着床しましたね。」
「感覚で分かるんですか。それ。」
「私ぐらいになると分かりますよ。それにしても、ムードもクソもないですね。」
「じゃあ、ムードだしますか?」
「できるんですか?」
「チャラチャッチャッ チャラッチャ~」
「それはムーディ勝山ですし、古いですし、字面じゃ分かりづらいですし。0点ですね。」
「普通にショックだ。」
「普通に面白くないですし。」
~出産~
「頑張って、真白さん。もう少しだよ。」
「うるせえな!お前が頑張れや。」ボウリョク
「僕を殴るだけの余裕があるならスッと産んでくれよ……。」
「仕方ないですね。いきますよ。……ふん!」
「「おぎゃあああ」」
「なんでさりげなくジャスティスさんも泣いているんですか。」
「もらい泣きしました。」
「同時のタイミングでしたよ?」
「すいません、嘘です。ふざけました。」
「私が頑張っているのに、ふざけるなあ!」グーデナグル
「なんで真白さんは出産直後なのに、そんなに元気なの……。」
~定年退職~
「真白さん、定年退職しました!」
「お疲れ様です。」
「ありがとうございます。」
「そういえば、娘からビデオレターが届いてましたよ。」
「へえ、あの子もロシアで上手くやっているのか?」
「もう、分かっているのに、そんなこと聞かないでくださいよ。」
「いや、本当に知らないんだけど……。」
「マジ?親の風上にも置けねえ野郎だな。」
「口悪い!」
「あの子はロシアで順調のようですよ。」
「そうか、ところで、あの子はなにを目指しているんだ。」
「ザンギエフを目指しているんですよ。」
「ザンギエフってストリートファイターⅡにでてくる、スクリューパイルドライバー使うやつか。あの子は何を目指しているんだ……。」
「だから、ザンギエフですよ。」
「あ?ああ、僕の言い方が悪かったですね。」
「嘘ですよ。」
「なにがです?」
「ザンギエフなんて目指してるわけないでしょう。なにマジになっているんですか。」
「いや、僕と真白さんの子供だから、全然そんなことになっても仕方がないかなって。」
「うーん、否定できませんね。」
「でしょう?」
「まあ、そんなことは置いておいて、定年祝いのパーティーをしましょう。ジャスティスさんが大好きなチキンカレーも用意してますよ。」
「ありがとう真白さん。大好きだよ。」
「私はそうでもないですけどね。」
「ええ、自分から告白してきたくせに。」
「飽きたんですよ。」
「ショックすぎる。」
「嘘ですよ。カレー食べましょう。」
「よかった。」
~死期~
「もう、僕はダメだ。」
「もうだめですかジャスティスさん。仕方ないですね。私と結婚するときに、私を死ぬまで悲しくさせないって約束したでしょう。」
「そんな約束してないと思うけど……。」
「あれ?そういえば、告白のときにドスドスって鈍い音が聞こえていた気がしたんですけどね。気のせいでしたっけ。」
「それは、ゴリラのせい。」
「ああ、あのゴリ丸ノ譲のことですか。そういえば、ゴリ丸ノ譲は、元気でやってるんでしょうかね。」
「始めて名前聞いた。そういえば、あのチンパンジーの名前はなんていうの?」
「金久・チンパンジー・大吾郎ですよ。」
「名前に種族名入るんだ……。」
「お父さん!死なないで!」
「ああ、娘よ。こっちにきて顔をみしてくれないか。」スッ
「お父さん、私よ。」
「どれどれ、……って、ザンギエフじゃねええかああああああ!!!!!!!!!!結局ザンギエフかよおおお!!!!!!!!娘がいつのまにかザンギエフになっているとか、死んでも死にきれねえ!!!!!」
「ジャスティスさん、うるさいです。」
「あ!容態が安定した!」
「本当ですかお医者さん!!」
「ザンギエフ効果はんぱねえな……。」
「真白さん、頑張って。」
「もう、無理。」
「そんな、言葉をギリギリつむぐしかできないほどに無理していたなんて。」
「ふふふ、ジャスティスさんと一緒に居たいから頑張ったに決まっているじゃないですか。」
「真白さん。」
「いいですか、きちんと洗濯物は色別に分けてくださいよ。色移りしちゃいますから。どんなに食べるのが大変でも、キッチリと毎日三食、食べてくださいね。掃除機はこまめにかけてくださいね。風邪をひかないように、夏は熱中症にならないように、気を付けてくださいね。もうジャスティスさんもお年寄りなんですから。ご近所付き合いも大事にしてくださいね。お風呂に入る時は、浴室の温度をリビングと同じにしてから入ってくださいね。火を使うときは、
「真白さん、もういいよ。全部、分かってるから。僕はどんなときだって真白さんのことを見てきたつもりだよ。何十年間も。今まで見てきたことを、今度は僕がやる番になっただけさ。安心していいよ、真白さん。僕は真白さんに出あって良かったと思っているよ。これも祖父に感謝しなきゃね。初めて会った時のことを覚えているかい、あのときは一面砂漠しかなくて困っていた僕にとって、真白さんが自転車を漕いでいる影が見えたのは、とっても安心したんだよ。もしかしたら、僕は、あの時からずっと真白さんのことを好きだったのかも知れない。僕が気が付くのが早かったら、もっと長い時間を一緒にすごせたかもしれない。」
「フフフ、私が死ぬ直前にまで、そんな困った顔をしないでください。幸せでしたよ。私は。ジャスティスさんと一緒にすごせて。」
「真白さん。」
「また、今度、会いましょうね。こんどは初めて出会った時の2人で。」
「真白さん。」
「そんな、泣かないでくださいよ。ジャスティスさん。私達はコメディーの住人なんですから、最後まで笑って終わりましょうよ。馬鹿話して終わりましょうよ。」
「わかったよ、真白さん。」
「それにしても、ジャスティスさんは結婚してからもずっと私のことを真白さんって呼んでましたよね。もう結婚したら私の苗字は真白じゃなくなるのに。」
「……。」
「……。」
「……御臨終です。」
「……1人になってしまったな。」
「……。」
「……。」
「それにしても、最後にめちゃくちゃ喋ってたな、真白さん。最後の力を振り絞って喋ってたんだろうけど。僕が止めなかったらきっと次章ぐらいまで喋ってたんじゃないのか。」
「いや、あなたも結構喋りますね。1人になってしまったな。で終わってよかったんじゃないですか。最後だけ明らかに蛇足じゃないですか。」
「医者に怒られた。医者に怒られた。」
「……暑いな。」
僕は駅を降りてから、約束の場所である駅前でずっと待ち続けていたが、駅前とは名ばかりで、というより名前を的確に表していて、本当に駅の前、ただそれだけだった。
周りには建物という建物はなにもなく、砂漠が延々と続いているだけだった。
僕が辺りを見渡していると、ある1人の影を見つけた。
その影はゆっくりだが、しっかりと進んでいた。
僕はその影をゆっくりと待つ。
その影は全然進まない。
自転車に乗っているからだ。
僕は待つ。
感じていた暑さなんてものは、どこかに飛んでいっていた。
その自転車は僕の目の前にまで来た。
「お久しぶりです。真白さん。」
「……誰ですか?」
「ショックだ。これ、絶対運命の再会を果たした、的な感じで締めると思ったのに、まさかの一からやり直しルートかよ。まあ、僕はそれでも全然いいけど。」
「……ちょっとへこみますね。それでも全然いいとか言われると。冗談ですよ。ジャスティスさん。お久しぶりです。」
「真白さん。」
「ジャスティスさん。」
「天国でも、会えましたね。」
「そりゃあ、こんな砂漠の中に駅だけがあるんですもん、見つけられない訳がないでしょう。」
「真白さん、遅くなってごめんなさい。」
「大丈夫ですよ。そのかわり、天国でも私がジャスティスさんを振り回しますからね。」
「もちろんですよ。」
「いいように使って捨ててやる。」
「雰囲気ぶち壊しだ。」
2人の話は終わらない。
完
あのー、え、ここで終わるの!?ってなると思うんですよ。僕だって終わりにするつもりはなかったんですけど。
本当なら真白さんの後に六人ほど出会って終わりにする予定だったんですけど、あれだったんですよね。
これから少し、仕事が忙しくなるので、書けないんじゃないかなー。って思ったんですよ。
というより、土日ですら書けるかどうか分からないくらいなんですよね。
なので、とりあえず、自分の中での区切りとして、一旦、終わらせておこうかな。と思ったので、今回、急激な最終回になった訳です。
まあ、自分の趣味で書いているので、放置したままでもいいじゃないか。と言ってしまえば、それまでなんですけど、僕としても、途中で終わらせたままっていうのは、それはそれでどうなんだ。という話にもなるので、じゃあ、とりあえず終わらせようか。と思い、書いたわけです。
仕事が忙しくなくなったら、また書けるようになると思いますので、そのときは、この最終回を消去して、また、続きからを書きたいと思います。
まあ、一度、話を終わらせてしまうと、また再開したとしても、蛇足的な感じになってしまうのは否めないことなので、もしかしたら新しく始めるかもしれません。
拙い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。
それではまた、北海道でも桜が散ったころに会いましょう。




