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帰宅部の探偵  作者: 黒岩京華
8/30

超能力者の問答―推理編―

 暇だ……とにかく暇だ。やることがない。

 図書室にいるのだから、本でも読んで時間を潰せればいいのだが、あいにく、俺は活字が苦手だ。

 ただ、静かに図書室の椅子に座り、闇に染まった窓の外を眺めているだけ……。


 早く……早く戻ってこい、加々島……。



 加々島たちが手品部に向かってから、すでに十分程の時間が経過している。

 しかし、いまだに加々島たちが戻ってくる気配はない。

 ただ手紙を貰ってくるだけなのに、なぜこんなに時間が掛かっているんだ?


「以上が、これまでの陽神調査委員会の活動内容です。あと、携帯をお返しします。ありがとうございました」

「うんうん! サンキュー、西沢さん! それにしても、随分本格的なのね……なんだか、ますます楽しくなってきたわ!」


 西沢の説明と、携帯への仕掛けは終わったみたいだな。

 火宝伝説の話を聞いて、東のテンションはさらに上がっている。


 西沢の話を聞いている間、東は目をキラキラ輝かせ、必死にメモを取っていた。

 まぁ、小説のネタが見つかって何よりだが……。


「もう、暁斗ったら! こんなおもしろい話を、なんでもっと早く教えてくれなかったの?」

「いや、別に……隠すつもりはなかったんだけどな……」


 東は笑顔で俺に文句を言いながら、携帯を懐にしまった。

 というか、そんなおかしなテンションになって面倒くさいから、言いたくなかったんだよ……。


「それにしても東さん、小説をお書きになるんですね! わたし、尊敬しちゃいます!」

「そ、そう? ありがとう、里菜ちゃん! まぁ、あたしが書いてるのはファンタジーやミステリーのライトノベルなんだけどね……」


 東は、もう北条と仲良くなったみたいだな。

 ファンタジーにミステリー……まさに、今回の火宝伝説は打ってつけという訳だ。


 東の小説は、残念ながら読んだことはないので、内容がどんなものかは分からない。

 だが、東はたびたびおかしなテンションになったり、妄想ぐせがあるのか、話が非現実的な方向に行ってしまうことがある。


 そういったことを考えれば、小説の内容も、恐らく夢と冒険が詰まった素晴らしい物語なのだろう。


「……ところで、まだ恵介たちは帰って来ないのかしら? 早く、雪子の手紙を見たいのに……」

「だな……俺も、早く帰りたいんだが。西沢、加々島からはなんの連絡もないか?」

「ええ、まだ何も」


 すっかり疲れてしまったのか、樹は机に突っ伏して眠っている。

 そろそろ樹を家に帰してやりたいが、加々島の許可がない限り、勝手に帰ることは出来ない。

 あの女のことだ、俺や樹を裏切り者呼ばわりしかねないからな……。



「あ、あの……東さん? 一つ、聞きたいことがあるんですけど、よろしいですか?」

「ん、なに? 何が聞きたいの里菜ちゃん? なんでも聞いて!」

「あ、あの……百瀬さんとは、どういった経緯でお付き合いを……?」


 北条の質問を受けた東は、みるみるうちに顔を真っ赤に染めていった。


「えっ? はっ? そ、その……け、恵介の話? しょ、小説のことじゃなくて?」

「あ、あああ……そ、その……す、少し気になったもので……。あっ! その……ぜ、ぜひぜひ聞きたい訳ではないので……」

 東と同じく、北条も顔を真っ赤にして、うつ向いてしまった。

 おいおい……なんだか気まずい空気になっちまったな。

 まぁ、東と恵介がどのようにして付き合うことになったのかは、俺も気にはなっているけど……。


「おい、話してやれよ東。別に、隠すこともないだろ?」

「う、うるさいわね暁斗! い、言われなくたって、話してあげるわよ!」


 東は一回咳払いをして、深く息を吐き出した。


「そうね……恵介は、あたしの小説を最初に読んでくれた人だったの。彼を好きになったのは、その時から……だったかな……」

「小説を……ですか?」

「うん! 恵介は、あたしの小説を本当に楽しそうに目をキラキラ輝かせて、一気に読んでくれた……最初に書いた作品だったし、あんまり自信はなかったんだけど……彼が、あんまり楽しそうに読んでくれるから、なんだかあたしも、知らないうちに自信がついてきて……」


 なるほどな。


 恵介は、不思議な話やミステリーなんかの本はよく読んでいたし、どこかで東と気が合ったのだろう。

 小学生の時は、二人ともそんな素振りは見せてなかったけど……。

 まったく、男と女は分からないもんだ。


「それで、中学の時にこ、告白を……?」

「こ、告白っていうか……け、恵介と一緒に話してると、心が落ち着いてきて……その……小説もはかどるっていうか……」


 ちっ、聞いてるこっちも恥ずかしくなってきたぜ。

 人の恋ばななんて、好んで聞くもんじゃないな……。


「け、恵介ってしっかりしてるように見えて、案外頼りないのよ? だ、だからあたしが面倒見てあげなきゃいけないと思って……だ、だから……中学の時に……こ、告白を……」

「す、素敵です! 素敵ですよ、東さん! だからお二人とも、とっても綺麗なオーラを身に纏っておられるのですね!」

「えっ? お、オーラ?」

「はい! お二人からは、とても暖かいモノを感じます!」


 ポカンとする東を、北条が穢れなき眼差しで見つめた。

 さすがの東も、北条のテンションに付いていけなかったか……。


「東、一つ言い忘れていたよ。北条はな、昔から霊感があるらしいんだ。お前が好きそうな話だろ?」

「ええっ!? 霊感!? 本当なの、里菜ちゃん?」

「う、うん……子供の頃から、色々見えたりして……」

「すごいわ!! 火宝伝説に霊感少女……。ねぇ! 詳しい話、もっと聞かせてよ、里菜ちゃん!」


 東のテンションが急に上がり、目を輝かせて北条に迫った。

 これには、さすがの北条もたじたじ。

 まったく……やっぱり東には誰も敵わないな。


「……それにしても、恵介と東にそんなことがあったなんて、思いもしなかったぜ。なぁ、西沢は恋愛とかに興味あるか?」

「はい? 今、何か言いましたか暁斗さん」


 何気に話しかけて西沢の方を向けば、西沢は耳につけていたイヤホンを外し、無表情で俺の方を向いた。

 イヤホンからは音楽が漏れている。どうやら、さっきまでゲームをしていたらしい。


「いや、なんでもないよ西沢。悪かったな、さっきまでゲームしてたんだろ?」

「ええ、琴羽が戻って来るまでの暇潰しに。暁斗さんたちの方は、恋の話で盛り上がっていたみたいですが」


 こ、こいつ……ずっと静かにしていたと思ったら、俺たちの話に耳を傾けていたのか。

 クールそうに見えて、案外こういった話に興味があるのかも知れないな。


「なぁ、西沢……お前、なんで加々島と一緒に火宝探しなんかしてるんだ?」

「なぜ、ですか?」

「あ、いや……お前、加々島と違ってあんまり火宝に興味なさそうだし、なんか他に理由があるのかと思ってさ……」


 西沢は少しノートパソコンの画面を見つめたあと、表情を変えずにまた俺の方を向いた。


「琴羽は小学校からの幼馴染みで、唯一ワタシに話しかけてくれた大切な友人だから、という答えでは駄目ですか?」

「えっ? あ、あの……それって、一体どういう意味で……」


 一瞬、西沢の口元に笑みが浮かんだように見えた。

 大切な友人だから……。それが、加々島と一緒に火宝を探している理由……。


「………けんなってんだ! なんなんだあいつはよ!」


 その時、図書室の外から大きな声が響いてきた。

 あの怒号は……南雲だな。


「どうやら、琴羽たちが戻ってきたようですね」

「そ、それじゃあ、雪子さんの手紙を貰ってきたんですね!」

「えっ? 戻ってきたの? 雪子の手紙……待ちわびたわよ!」


 東と北条がテンション高く立ち上がると、南雲が荒っぽく扉を開けて図書室へ入ってきた。

 そのうしろからは、恵介と加々島が続く。


「くっそ! だめだ、いくら考えても分からねぇ! あ~、イライラするぜ!」

「まぁまぁ、落ち着きなよ南雲。こうなったら、暁斗に聞いてみるしかないよ」

「そうだな。暁斗なら、この謎を解くことが出来るかも知れん」


 なんか……また様子がおかしいぞ。


 ただ手紙を貰いに行ったはずなのに、なぜか南雲は異常に憤っている。

 そして、恵介と加々島は互いに目配せしながら、ニヤニヤと何かを企んでいるような顔で俺のことを見ているし……。


「待ってたわよ! それで? 雪子の手紙は手に入れたの?」


 東が待ちきれないといった様子で、一目散に加々島たちの元へ駆け寄って行った。


「……そ、それがな、あずまっち……その、手紙のことなんだが……」

「済まない、皆。確かに、月岡竜大は雪子の手紙を持っていた。だが、持ってくることが出来なかったんだ」


 加々島はそう言って、わざとらしくうなだれた。

 おいおい……一体どういうことなんだ?


「あ、あの……なぜ月岡先輩は、手紙を渡してくれなかったんですか? 何か理由があるのでしょうか?」

「恐らく、月岡先輩も、僕たちと同じく火宝伝説の謎を追っているんだと思うよ? そうじゃなかったら、わざわざ書庫から手紙を盗んだりしないでしょ?」


 恵介の言葉に、場の空気が一気に張り詰めた。

 まさか、俺たちの他に火宝を探している奴が本当にいるとは……。


「……なるほど。あたしたちのライバルが現れたって訳ね……。いい! これこそ燃える展開だわ!」

「全然燃えねぇよ! たく、先を越されてどうすんだ……」


 東のテンションにはほとほと呆れ返る。

 雪子の手紙がないと、火宝の隠し場所が分からない。

 隠し場所が分からなければ、火宝伝説の謎は永久に解けることはない。


 そんなことは、絶対に許されないぞ!

 今日俺は、一体なんのために付き合わされたと思っているんだ!


「……で? お前たちは諦めて、すごすごと戻ってきたという訳か? あいつは、書庫の鍵をピッキングで開けたんだぞ? それは犯罪だ! そのネタで月岡を揺すれば、手紙を奪えたはずだぞ」

「う~ん……本当は僕たちもそうしたかったんだけど、フェアな勝負を仕掛けられたら、こっちもフェアじゃないといけないでしょ?」

「フェアな勝負だと?」

「そうだ。“雪子の手紙が欲しければ、オレ様と勝負しろ”と言われてな。謎解きやら手品の種を暴く勝負を仕掛けられたんだ。三回勝負で、二勝したら手紙を渡すという条件だ……」


 なるほど。月岡竜大は手品部だったな。

 しかし、謎解きや手品の種明かし勝負とは……。

 また面倒くさい相手だな。


「それにしても、ムカつく奴だぜ! あいつ、自分のことを“超能力者”だとか抜かしやがってよ!」

「超能力者? はっ、ばかばかしい。へっぽこ手品師の間違いだろ?」

「……そうだな。恵介、奴が見せた手品を再現出来るか?」

「うん、出来ると思いますよ! さっき、記念に月岡先輩からトランプを貰ったし!」


 そう言って、恵介は懐からトランプを取り出し、素早くシャッフルを始めた。

 相変わらず、手際がいいな……。


「す、すごい……百瀬さん、手品が出来るんですか?」

「そうそう! 恵介は結構器用なのよ!」

「そ、そんなにハードル上げないでよ礼華……手品は、ただの趣味でやってただけなんだから……」


 恵介は少し照れながらカードを纏め、俺の前に裏向きのまま広げた。


「さぁ、暁斗! この中から一枚選んで、それを皆で覚えて!」

「……トランプマジックによくあるパターンだな。よし、じゃあこれを……」


 広げたトランプの中から一枚選び、それを全員に見せた。恵介は、うしろを向いている。

 俺が引いたカードは、ハートの3だ。


「おい、覚えたぞ恵介」

「うん、オッケー! それじゃあ、僕がカードを切っていくから、好きな所でストップって言ってね!」


 これも、手品によくあるパターンだ。

 恵介は、なんの迷いもなくカードを切っていく。


「よしっ! ストップだ、恵介!」

「オッケー! ここでいいんだね? それじゃあ、選んだカードを束の上に置いて!」


 選んだハートの3のカードを束の上に置くと、恵介は残りのカードをその上に重ねた。


 ん? これは、もしかして……。


「それでは、暁斗が選んだカードを当てたいと思います! まず、カードの束を机の上に置いていって……」


 恵介は、カードを裏向きのまま机の上に置いていった。

 そして、何枚か机の上に置いた時、恵介は突然その手を止めた。


「……うん、たぶん次のカードが暁斗が選んだやつだね。選んだカードはなんだった?」

「言っていいのか? ハートの3だ……」


 恵介がニコッと笑って、次のカードを表向きにして机の上に置いた。

 そのカードは、紛れもなく俺が選んだハートの3だ。


「す、すごいです百瀬さん! まるで、本物の超能力者みたいでした!」

「やるわね、恵介! でも……こんな手品ぐらい、暁斗なら簡単に見抜いちゃったんじゃない?」

「……まぁな。おい、恵介。そのトランプ、少し調べさせてもらうぞ」

「えっ? あっ! ちょっと暁斗! それ、手品師に嫌われるお客さんだよ……!」


 手品の種はもう分かった。

 これ以上、無駄な時間を過ごす訳にはいかない。

 俺は、恵介から強引にトランプを奪い取り、その束を調べ始めた。


 カードを一枚一枚調べていると、思った通り、一枚だけ、不自然なカードを見つけることが出来た。


「よし、これだな……さぁ、よく見てろ。これが、この手品の種だ!」


 そのカードを両手で持って左右に引っ張ると、ペリペリと音を立て、二枚重ねになっていたカードが剥がれ落ちた。

 その様子を見て、東と北条が驚きの表情を浮かべる。


「えっ? どうして……カードが二枚重ねになっているんですか?」

「トランプのカード二枚を、両面テープでくっつけ、束の下にセットする。カードを切る時、仕掛けのカードを動かさないのがポイントだ。そして、相手に選んでもらったカードを束の上に置いてもらい、残りの束をその上に重ねれば……」

「あっ! 分かりましたよ暁斗さん! 選んだカードが、仕掛けたカードの下になるんですね!」

「そう! そして、カードを順番に机の上に置いていくんだ。仕掛けのカードは二枚重ねだから、触ればすぐ分かる。そのカードの下が、相手が選んだカードって訳さ」


 カードの二枚重ねは、手品でよく使われるトリックの一つだ。

 単純な仕掛けで、いとも簡単に相手の選んだカードを当てることが出来る。


「ふふふ、見事だな暁斗。まぁ、この手品は私でもすぐにトリックが分かった。実際に解いたのは、恵介だったがな」

「……なら、手品の種明かし勝負は加々島たちが勝ったんだな? それなのに、雪子の手紙が貰えなかったということは、残りの二戦で……?」

「うん……次に月岡先輩が仕掛けてきた勝負が、ダーツ勝負だったんだよ」

「だ、ダーツ勝負!?」


 そりゃまた……手品の種明かしとはまったく違った勝負だな。

 恐らく、パフォーマンスの一種なのだろうけど、それはあまりにもこちらが不利すぎる……。


「おれ、ダーツなんかやったことねぇし、全部外れちまったよ……。ちっ! 剣道勝負ならいけたんだけどな……」

「ああ、私もだ。弓道ならともかく、ダーツなど、今までやったことはないからな」

「なるほど……月岡は、自分の得意なジャンルを選んで勝負を挑んできた訳か……」


 それなら、自分が確実に一勝出来る。

 さっき恵介はフェアな勝負を仕掛けられたと言っていたが、これはフェアでもなんでもない。


「それに月岡先輩、ダーツの腕が異常なんだ。指の間に挟んだ四本のダーツを、一斉に投げたんだよ! しかも、全部的に命中……」

「月岡竜大は、文化祭などで手品を披露する一方、ダーツも趣味にしているようですね。大会でも優勝しているようですし、かなりの腕前なのでしょう。実際、去年の文化祭でも、パフォーマンスとして披露しているようです」


 さすが西沢、情報が的確で早い。

 しかし、恵介がまた嫉妬して、西沢を睨み付けている。

 西沢も眼鏡を光らせ、得意気な表情だ。


 これで、勝負は一勝一敗。

 あとは、謎解き勝負だけか……。


「で、では……最後の勝負は、一体どういうものだったんですか?」

「最後は謎解き勝負だ。竜大は、懐から雪子の手紙を取り出し、こう言った……“雪子の手紙が欲しければ、オレ様が考えていることを当ててみろ”」

「考えていることを当ててみろ……つまり、心を読めってことね? それじゃあまるで、本物の超能力者みたいじゃない!」

「いまだに、訳が分からん……相手の心を読むなんて、絶対に無理だぜ!」


 南雲は機嫌が悪そうに、近くの椅子に荒っぽく腰掛けた。

 この謎解き勝負に負け、加々島たちは月岡竜大に追い返された訳か……。


 しかし……この謎解きはそんなに難しいものか?

 恵介や加々島なら、簡単に解けてしまいそうなものだが……。



 とにかく、謎の答えは分かった。

 とりあえず、恵介や加々島が何を企んでいるのかを、考えてみるか……。


 俺は静かに目をつむり、謎解きの答えを整理すると共に、加々島たちの真意について考えることにした。


 加々島と恵介が図書室に入ってきた時、二人は互いに目配せを交わし、ニヤニヤと笑いながら俺を見ていた……。


 謎解き勝負も、さほど難しいものではない。それなのに、恵介や加々島が答えられず、すごすごと戻ってきた理由は……。


 二人の性格を考えるなら、恐らく……。


(なるほど……そういうことか……)



「……それにしても、モモチとあずまっちの話、結構盛り上がったよな!」

「ちょ、ちょっと南雲!? いきなり何を言ってるのさ!」


 静かに目を開けた時、突然南雲が、なんの脈絡もなく喋りだした。

 それを聞いて、なぜか恵介が動揺している。


「えっ? あたしと恵介の話って……ま、まさか! 話したの、恵介?」

「う、うん……で、でも、南雲はすでに知っていることだし、加々島先輩がどうしても知りたいって言うから……」


 加々島たちの方でも、こっちと同じような話をしていた訳か。

 また、東の顔が赤くなっているな……。


「うむ、実に興味深い話だった。告白したのは礼華という話だったが、まさか……元々恵介の方が彼女を好いていたとは……」

「わーっ! わ―っ! か、加々島先輩! その話は秘密って、言ったじゃないですか!」


 珍しく、恵介が顔を真っ赤にしながら加々島の言葉を遮った。

 元々、恵介の方が東を好きだった……?

 それは、さっき東に聞いた話と違うな。


「えっ……ど、どういうこと、恵介? そ、それって……つまり……」

「………れ、礼華さ、昔から、一生懸命小説を頑張ってたし、僕も、元々本とか、好きで……だ、だから……夢を叶えようと頑張ってた礼華に惹かれたっていうか……。ほ、本当は、僕の方から言わなくちゃいけなかったのに、礼華に……先を越されちゃって……」

「け、恵介……」


 二人は互いに顔を真っ赤にしながら、見つめ合っている。

 心なしか、二人から発せられる熱い空気で、図書室の気温が上がったような……。


「す、素敵……素敵です!! お二人とも、両想いだったんですね?」

「ヒューヒューッ! お熱いねぇ、お二人さん!」

「ちょ!? 囃し立てないでよ南雲!! は、恥ずかしいじゃない……」

「は、ははは……まぁ、恵介と東が両想いだと分かった所で、今日はもう帰るぞ……」


 二人の恥ずかしいテンションには付いていけないぜ……。

 ため息をつき、疲れて寝入っている樹に近づいて、肩を揺らした。


「おい、起きろ樹。今日はもう終わりだ。早く帰ろうぜ?」

「う……う~ん……あっ、おはよう暁斗君。ボク、いつの間にか寝ちゃってたみたい……」


 樹は、寝ぼけた様子で目をこすり、ゆっくりと椅子から立ち上がった。

 やれやれ……これで、ようやく樹も帰れるな。


「えっ? あ、あの……暁斗さん? 今日はもう終わりって……まだ、雪子さんの残した手紙を貰っていませんよ?」

「ああ、大丈夫よ里菜ちゃん! 暁斗がこう言ったってことは、謎がすべて解けたってことだから!」

「そうそう、礼華の言う通り! さっき暁斗、“帰るぞ”って言ったしね!」


 確かにそう言ったが、俺はただ早く帰りたいだけで、好きで謎を解いている訳じゃないんだがな……。


「すげぇ! さすがアッキーだぜ! これで、雪子の手紙はいただきだな!」

「ふふふ……思った通りだ。暁斗、お前なら必ず、この謎を解いてくれると信じていたぞ」


 ちっ、恵介も加々島もとぼけるのがうまいな……。


「おい、白々しいぞ加々島、それに恵介! お前ら……月岡竜大の出した謎の答え、知ってただろ?」

「あっ! やっぱりばれてたか~!」

「ふふ……暁斗の目は、やはり誤魔化せないな……」


 そう言って、恵介と加々島は互いに顔を合わせ、ニヤリと笑みを浮かべた。

 というか、この二人は図書室に戻ってきた時から怪しかったし、何かを企んでいると思っていたが、やっぱりこういうことか……。


「で、でも……なんでお二人は、答えが分かっていない振りを?」

「大方、また俺のことを試したんだろ? それで? 俺に雪子の手紙を貰ってこいとでも言うつもりか?」

「ふふふ……話が早いな。その通りだ、暁斗。陽神調査委員会メンバーとして、初の任務だ。頼んだぞ」

「僕たちは先に校門まで行ってるから、ちゃんと雪子の手紙を貰ってきてね、暁斗!」


 ふぅ、仕方がない……。


 さっさと手品部に行って、雪子の手紙を手に入れてくるか。

 それにしても、月岡竜大……謎解き勝負なんていう面倒なことを仕掛けやがって。


 奴の仕掛けた子供騙しの謎を解いて、俺に無駄な時間を過ごさせた罰として、その罪を償ってもらうぞ。

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