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帰宅部の探偵  作者: 黒岩京華
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7/30

太陽のような人

 神奈備雪子の残した、火宝に関する手紙……。

 そんなものが、本当に存在するのだろうか。


 俺たち、陽神調査委員会一行は今、図書室に向かっていた。

 図書室があるのは、北校舎である。

 まさか、今日一日で三つの校舎を巡ることになるとは思ってもみなかった……。


 北校舎には、図書室や生徒会室、さらには保健室や職員室などがある。

 しかし、なぜこの高校はこんなにも色々な施設がバラバラに別れているのだろうか……。


 すべての施設が一ヶ所に集まっていれば、移動で時間を取られることはないのに……。


「やれやれ……一体、いつになったら帰れるのか……」


 思わず、ため息と共に一人言が漏れる。

 北校舎へ続く渡り廊下の先頭を行くのは、加々島、西沢、北条、さらには顧問の権田校長だ。


 北校舎にも、もちろん生徒は残っていない。

 こんなに遅くまで残ることなんて、初めてのことだ。

 たくっ、テスト期間だっていうのに、俺たちは一体何をやっているんだか……。


「暁斗、大丈夫? 何だか疲れてるみたいだけど……」

「……疲れるに決まってるだろ? 本来、こんな遅くまで残る予定じゃなかったんだぞ? 樹だって疲れただろ? なんだか、顔色が悪いし……」

「う、うん……ちょっと。でも、北校舎には保健室もあるし、いざとなったらそこで休めば……」


 まぁ、先生たちはまだ残って仕事をしているだろうし、もしもの時は俺が樹を保健室に連れて行けばいいか。


「何だよ、だらしねぇなアッキー! 剣道やってた頃は、こんな時間まで残ることなんて、よくあっただろ? やっぱり、体力落ちてるんじゃないか?」

「だね! 暁斗が疲れたなんて、小学校の時は全然言わなかったのに……」

「悪かったな、体力がなくて……長いこと剣道から離れてたんだ。そりゃ、体力も落ちるさ」


 こう言ってはジジくさいが、俺も歳を取ったのかも知れないな。

 恵介や南雲の元気さが羨ましいぜ。


「暁斗さん、大丈夫ですか? 図書室は北校舎の三階だそうですよ! もう少しです、頑張りましょう!」

 先に北校舎へ入っていた北条が、笑顔で俺たちに声を掛けた。

 北条も、大概元気だな。

 というか、図書室は三階かよ……やれやれ、俺は今日どれだけ歩けばいいんだ?





「おい、西沢……一つ聞いてもいいか?」

「はい、なんでしょうか暁斗さん」


 図書室へ向かう階段の途中で、俺はある疑問を西沢に聞いてみようと思った。


 西沢はノートパソコンを抱え、もう片方の手で小さなタブレット端末を操作している。

 いわゆる、歩きスマホか……。


 よく、別のことをやりながら道を歩けるよな。

 止まって操作した方が、集中出来ると思うんだけど……。


「さっき見せてもらった掲示板の書き込み……あの投稿は、火宝伝説の話を投稿した人物と同じなのか? もしかしたら、別の奴がふざけて投稿した可能性も……」

「いえ、投稿したのは同じ人物で間違いありません。投稿されたのはネットカフェからだったので、人物の特定は難しいかも知れませんが」


 さすがというか、なんというか……。西沢は、もうすでに投稿された場所まで特定出来ていたか。

 先程のハッキング能力を見れば、こんなことは西沢にとって容易いものだろう。


「う~ん、しかしなぁ……なんで投稿した奴は、そんなことを知っているんだ? しかも、情報を小出しにしたりして。まるで、俺たちをからかっているようにも思えるんだが……」

「それは分かりませんが、ワタシの調査は確実です。それとも、ワタシが間違っているとでも?」

「い、いや……別にそこまでは言ってないけど……」


 西沢は、一瞬立ち止まって俺をジッと睨み付け、再び階段を上り始めた。

 こいつ……クールそうに見えて、案外頑固なのかも知れないな。

 自分の意見に、絶対の自信を持っているみたいだ。


「もしかしたら、私たちのことを試しているのかも知れないな。もしくは、私たちの他に火宝を狙っている奴がいるのか……。どちらにしろ、図書室に行けば分かることだ」


 加々島の言う通りか……。


 しかし、いくら図書室へ行けば分かると言っても、このもやもやした感じは、どうにも気持ちが悪い。

 なんとか、自分で謎を解けないだろうか……。


「なぁ、西沢。掲示板に投稿された日時は分かるか?」

「はい。火宝伝説の話が投稿されたのは、四月の中旬。雪子の手紙に関する話が投稿されたのは、一昨日の夕方です」

「四月に投稿された火宝伝説の話を見つけて、私は弓道部に仮入部していた恵介に、暁斗のことを聞いた訳だ」

「なるほど……」


 投稿された日時に、法則性のようなものはないか。

 仮に、投稿した人物が俺たちと同じように火宝を狙っているとして、なぜ、掲示板に投稿する必要がある?


 俺たちが知らない、雪子の手紙に関する情報まで知っているのなら、なぜ投稿した人物は自分で火宝を探さないんだ?

 雪子の手紙に関しても、一つ疑問が浮かび上がる。


 火宝伝説の話を聞く限り、俺の先祖である神奈備雪子は、自らが陽神の地を治めるため、白羽家や黒羽家に対して呪いを掛けた。

 結局、雪子は白羽黒羽両家に捕らえられ、首をはねられて処刑された訳だが……。


 神奈備家だって、両家を恨んでいたはずなのに、なぜ火宝なる宝をわざわざこの地に残していく必要があったんだ?

 しかも、雪子が火宝の隠し場所に関する手紙まで用意していくなんて……。


 あ~、だめだっ!


 謎を解くどころか、考えれば考えるほど、新たな謎が増えていく。

 くそっ、いつになったら、俺はぐっすり眠ることが出来るんだ?


「……斗、暁斗! もうすぐ図書室に着くよ!」


 恵介の声で、俺はフッと我に返った。

 考え事をしている間に、どうやら図書室に到着したらしい。


 図書室は、階段を上ってすぐの突き当たりにある。

 しかし、なぜか図書室には煌々と明かりが点いていた。

 こんな時間に、俺たち以外の誰かがまだ残っていたのか……?


「おや? まだあの女子生徒が残っていたのか……」

「ん? あの生徒? 一体、どういうことだ、淡月先生」

「あっ、いや……。加々島君の所へ行く前に、少し図書室へ寄ったのだが、その時、一人女子生徒が残って書き物をしていたんじゃよ」


 えっ? こんな時間に、一人図書室に残って書き物をしている女子生徒……。

 それって……もしかして……。


「机の上に置いた原稿用紙と睨み合って、何か唸っていたよ。アイデアがどうとか、締め切りがどうとか……」


 権田校長の言葉を聞いて確信した。

 間違いない……こんな時間に、図書室に残っている女子生徒は、一人しかいない。


「おい、恵介……もしかして……」

「うん、礼華だろうね。よく見たら、メールが来てたよ。“今日は図書室に残っていく”って……」

「それじゃあ、東さん……また、小説のアイディアが出なくて悩んでいるのかな?」

「おっ! あずまっちが中にいるのか? それじゃ、さっさと図書室に入ろうぜ?」


 南雲は東が中にいると分かった瞬間、喜び勇んで図書室の扉に手を掛けようとした。


「ちょ、ちょっと待った南雲!」


 俺は慌てて南雲に近づき、その手を勢いよく掴んだ。

 ふぅ……危ない危ない。


「おい! 何するんだよアッキー! 痛いじゃねぇか!」

「おい南雲……いいか、よく聞けよ? 東には、絶対に火宝伝説の話をするな! 分かったか?」

「えっ? 何でだよアッキー……」

「そ、それは……あれだよ、ほら! 東は今、小説で忙しいみたいだし、あんまり邪魔するのも悪いだろ?」


 と、言うのは建前だ。

 俺は、東の性格をよーく知っている。

 火宝伝説の話を聞いたら、東がどんな表情を浮かべるか……容易に想像出来てしまう。

 これ以上、面倒くさくなるのはごめんだからな。


「そうだね……礼華も今、新しい小説のアイディアを考えてるみたいだし、静かにした方がいいかも」

「そっか……あずまっちも大変なんだな。分かった! あずまっちを怒らせたら恐いし、今日は大人しくしてるよ……」


 どうやら、南雲は納得してくれたみたいだな。

 ホッと胸を撫で下ろした俺に、恵介が目配せを送ってきた。

 さすがは恵介。彼女の心は、誰よりも彼が分かっている。


「なんだ? 図書室に暁斗の知り合いでもいるのか?」

「ああ、幼馴染みが中で小説のアイディアを考えてるみたいでな。そういう訳だから、加々島たちも、あまりうるさくならないようにしてくれ」

「なるほど……そういうことなら、私も配慮しよう。目的を果たし、さっさと退散するか」

「そうですね……わたしも了解しました、暁斗さん!」


 加々島と北条もこれで大丈夫だな。

 さて……出来れば、東に見つからないように書庫を調べたいが……。

 果たして、うまくいくかどうか。


「では、図書室へ入りましょう」

「書庫の鍵は、わしが持っておる。まず、わしが一人で書庫を調べて……」


 権田校長を先頭に、図書室へ足を踏み入れようとした、その時であった。

 突然図書室の扉が開き、中から女子生徒が一人出てきたのである。

 その隣には、担任の白羽深雪先生の姿もあった。


「あれ? あの人って……もしかして、市川夏海さん?」


 樹はいち早く気づいたようだが、確かに図書室から出てきた女子生徒は、市川夏海であった。

 今日の午後にはいなかった市川夏海が、なぜ図書室に……?


「おおっ! こんな所にいたのか! ちょうどよかった。少し、お前に話が……」

「す、すいません……私、急ぎますので……」


 市川夏海は、加々島への挨拶もそぞろに、足早に階段を駆け下りて行った。


「ん? どうしたんだ、市川の奴……」

「なんか……急いでるみたいだけど……何かあったのかな、暁斗?」

「……って、なんで俺に聞く? 俺が知る訳ないだろ?」


 こう言ってみたものの、神社に続いて、ここでも市川夏海と出会うことになるとは……。

 失敗したな……さっき、なぜ神社にいたのか聞いておけばよかった。


「ところで、白羽先生。あなたも、図書室に用事でしたか?」

「え、ええ……す、少し調べ物を。校長先生こそ、生徒たちを連れてこんな遅くまで……一体、何をやっているんですか?」

「あ、ああいや……別に大したことはないんだ……では、そろそろ行こうか、加々島君?」


 権田校長は痛いところを突かれ、焦りの表情を浮かべながら、加々島と共に図書室へ入っていった。


「それじゃあ、私も失礼します。みんな、あんまり遅くならないようにね?」


 先生は俺たちに優しく微笑みかけ、階段を下りて行った。


「……なんか、怪しいなあの先生。どう思う、アッキー?」

「別に、教師が遅くまで残っているのは不思議じゃないだろ? あまり気にすることはないんじゃないか?」

「でも、深雪先生の名字……白羽だよね? そして、このタイミングで図書室……しかも、市川夏海と一緒。これって、偶然なのかな?」


 恵介の言う通り、担任の名字は白羽だ。

 火宝伝説の白羽家と関係がありそうなのは確かだが……俺と同じ、白羽家の末裔かも知れないし、火宝を探しているという証拠は何もない。


 今はとにかく、雪子の残した手紙を確認するのが先決だ。

 先生や、市川夏海のことは取り敢えず後回しだな。






 図書室の中は、シンと静まり返っていた。

 先に入ったはずの加々島や西沢、さらには権田校長の姿はない。

 恐らく、三人とも書庫の調査に向かったのだろう。


「あっ! 暁斗さん、こっちですよ!」


 俺に声を掛けたのは北条だった。

 北条は入り口に近い席に座り、今まで本を読んでいたみたいだ。


「あれ? 北条さんは、加々島先輩の所へ行かないの?」

「あ、はい……力仕事は、あんまり得意じゃなくて。それに……」


 北条は声を抑えながら、窓際の席に目を移した。

 俺たちも北条の向かいの席に座り、こっそりそちらに目線を向ける。


「あの方が先程言っていた、小説を書いている……東さん、でしたっけ?」

「ああ、その通りだ。あの様子だと、相当悩んでいるみたいだな」


 窓際の席に座り、ペンを回しながらウンウンと唸っているその女子生徒。

 茶髪のショートヘアはぐしゃぐしゃに崩れ、普段はコンタクトなのに、今は眼鏡を掛けている。


 東 礼華


 俺、恵介、樹、南雲とは小学校からの幼馴染みだ。

 南雲とは特に仲が良く、いつも二人でつるんでは、よく俺や恵介にイタズラを仕掛けてきたな。


「東さん……大丈夫かな?」

「いや、大丈夫じゃねぇだろうな。見ろよ、おれたちが入ってきたことに、まったく気づいてないだろ?」

「す、すごい集中力ですね……小説を書くのは、とても大変だと聞いたことがありましたけど……」

「まぁ、東の実力は確かだな。何せ、書いた小説が雑誌に連載されたり、一度、何かの賞を取ったこともあるぐらいだから」


 その時、じっと東を見つめていた恵介が突然立ち上がり、東の方に歩いて行ったのである。


「お、おい恵介っ! 何やってるんだよ! 今の集中している東に近づいたら……」


 俺の言葉は、恵介に届いていないようだ。

 恵介は、笑顔を浮かべながら東の隣に立ち、ポンッと肩に手を置いた。


「やぁ、礼華! お疲れ様。小説ははかどってる?」

「――――ッ!!」


 次の瞬間、声にならない叫び声を上げた東は、素早い動きで立ち上がり、瞬時に恵介の背後に回り込んだ。

 そして、窓に掛かっていたカーテンを棒ごと掴んだかと思うと、その場でブンブンと振り回し始めたのである。


「くそっ! まずいなぁ……南雲、止めるぞ!」

「お、おう! 合点だアッキー!」


 戸惑う北条と樹をその場に残し、俺と南雲は、暴れる東の元へ駆け寄って行った。

 振り回される棒の一撃をかわした南雲は、東の背後に回り込んで羽交い締めにした。

 その隙を逃さず、俺は東の持っていた棒をグッと掴んだ。


「お、おい! 落ち着け、東! 俺だ、暁斗だ!」

「――――ッて、あれ……暁斗? それに恵介も……あ、あたし……さっきまで何を?」


 東はようやく冷静さを取り戻し、手から棒を離した。

 くそっ、相変わらずすごい力だな……息が上がっちまったぜ……。


「よかった! 礼華、ようやくいつもの調子に戻ってくれたね! 僕は、太陽のようにキラキラした君が好きだから……安心したよ」


 まさか、恵介の奴……東を元気付けるために、わざとあんなことを?

 それならそうと、一言言ってくれればよかったものを。まったく、いつも勝手な奴だ。


「い、今……東さんに、何が起こったんですか?」

「あ、あはは……北条さんが驚くのも無理ないよ。東さん、棒術を習っているからね」


 驚きを隠せない北条に、樹が説明しながら二人が近づいてきた。

 樹の言う通り、東は小学校の頃から棒術を習っている。

 その実力は、今も変わっていないみたいだな。


 ただし、東は俺や南雲とは違って、初めから武道に興味があった訳ではない。

 棒術は、自分の書く小説のネタになればと思って始めたのがきっかけだ。


 同じ武道を習っていた者同士、東は勝手に俺をライバルに認定し、よく勝負を挑んできたな、そういえば。

 今は小説が忙しくなったようで、棒術の方はあまり力を入れていないみたいだけど……。


「ちょっと! 小説で集中しているあたしに話しかけたら暴走するって、前から言ってたでしょ? それに、恵介はともかく……なんで暁斗たちまでここにいる訳?」

「えっ? あ、いや……おれたちはその……な、なぁ? アッキー?」


 おい……こっちに振るな南雲!


 東は乱れた髪を整えながら、疑いの眼差しで俺を睨み付けている。

 まずいな……ここで東に火宝伝説の話をするのも……。


「なに言ってるのさ、礼華。暁斗たちも、君のことが心配で様子を見に来たに決まってるじゃないか」


 よし! いいタイミンだぜ恵介。

 その理由なら、怪しまれることはないだろう。


「あ、あたしのことを心配して……? で、でも……」


 まだ、東は半信半疑みたいだ。

 しかし、恵介はそんな東に近づいて行き、両手をギュッと握りしめた。


「礼華……小説も大事だけど、自分の体のことも考えた方がいいよ。礼華が倒れちゃったら、僕だけじゃなく……みんな悲しむと思うから」

「け、恵介……うん、ありがと……」


 恵介と東は、互いにその場でいつまでも見つめ合っていた。

 それにしても、人前だってのに……随分と見せつけてくれるじゃないか……。


「あ、あ……あの! お二人は……もしかして、お付き合いなされているのですか?」


 そんな二人を端から見ていた北条が、顔を赤くしながら質問した。

 隣で見ていた樹も、どこか照れた様子だ。


「ど、どうなの暁斗君? 百瀬君と東さんって……本当に付き合ってるの?」

「なんだ、恵介から聞いてないのか? 中学の時、東の方から告白して、付き合っているみたいだぜ?」


 それを聞いて、樹も北条も驚きを隠せない様子だ。

 もっとも、俺もつい最近恵介に聞いたばかりなのだが。


「ちょ、ちょっと! なに人前でペラペラ喋ってるのよ! は、恥ずかしい……じゃない……」


 東は顔を真っ赤にして、少し動揺した様子で顔を背けてしまった。

 こんな東の表情を見るのは……初めてだな。


「す、素敵ですね! 東さんの方から告白なされたなんて……」

「ちぇ~。羨ましいぜ、あずまっち……そうだ! おれもアッキーにコクって、付き合ってもらおうかな!」

「おい、冗談はよせ南雲。お前の場合は告白じゃなく、果たし状だろ?」


 恋愛か……。


 俺は今まで、異性と付き合ったことはない。

 というか、今後付き合うこともないだろうな。

 他人と、しかも異性と付き合うなんて、面倒くさいにも程がある。

 俺には、一生縁のない話だな……。


「も、もう! あたしの話はいいから! それより……あなた、誰? なんで暁斗たちと一緒にいるの?」


 東は急に話題を変え、北条に照準を合わせた。

 やばい……さっそく、新しいものに興味を示しやがった。


「あっ、初めまして。わたし、北条里菜といいます! 今日は暁斗さんたちと一緒に、陽神調査委員会の活動で……」

「……わぁー! ちょっと北条さん? しー、しー!」


 俺は、慌てて北条の言葉を遮った。

 くそ……彼女は天然か? さっき注意したばっかりなのに……。


「陽神調査委員会? 聞いたことのない言葉ね……暁斗、なんで北条さんの言葉を止めたの? 何か……あたしに隠してない?」

「い、いや……なんでもねぇよ東。な、なぁ樹?」

「う、うん! そうそう! ボクたち、何も隠してないって……ねぇ、南雲さん?」

「お、おぅ! その通りだ! おれたちは、何も隠してない!」


 やはり、東は勘が鋭いな。誤魔化すのも一苦労だぜ……。


「ん~? 何だか怪しいわね……」


 東は、まだ俺たちのことを疑っている。

 まだか、加々島……。早く雪子の手紙を手に入れて、この場から退散しなくては。


「……しかし、なぜ鍵が開いていたのかのぉ……」

「いくら探しても見つからないとなると、何者かが持ち去ったか、あるいは……本当にイタズラだったか……」

「それはあり得ないわ。ワタシの調査は完璧だもの」

 図書室の中に、加々島たちの声が響いてきた。

 どうやら、書庫の調査が終わったみたいだな。ナイスタイミングだ。

 だが、何やら様子がおかしいな……。


「えっ? あれって……校長? それに、また人数が増えた……」

「おい、待ちくたびれたぜ加々島! それで、首尾は?」


 俺は急いで加々島に駆け寄り、小さな声で耳打ちした。

 恵介たちも、東をその場に残し、加々島の元へ集まる。


「……それが、書庫を徹底的に調べてみたんだが……雪子の手紙らしき物は、見つからなかったんだ」

「はぁ!? 見つからなかった? そ、それじゃあ……俺たちは、一体なんのためにこんな場所へ……」「う~ん……手紙がないとなると、火宝伝説の話も、もしかしたらイタズラだった可能性も出てきたね」

「そんなことはありません。ワタシの調査は完璧です。手紙は、きっと誰かに盗まれたんです」


 西沢は、鋭い目付きで恵介を睨み付けながら迫った。

 西沢も頑なだな……絶対に、自分の考えを変えるつもりはないらしい。


「でも、西沢さん……手紙がないんじゃ、火宝伝説の謎は追えないよ。だよね、南雲さん?」

「ああ。いくらなんでも、ヒントも無しにお宝を追おうだなんて、それは、ちと無茶だぜ……」

「ですよね………あっ、でも西沢さん。さっき、手紙は誰かに盗まれたって言ってましたけど、なんで、そう思ったんですか?」

「それは……書庫の鍵が開いていたからじゃよ」


 北条の質問に答え、権田校長が懐から鍵を取り出し、全員の前に差し出した。


「わしは図書室を出る前、確かにしっかりと鍵を閉めたはずじゃ。ところが、さっき書庫を調べた時、なぜか鍵が開いていたんじゃ」

「そして書庫を調べてみたら、雪子の手紙がなかったという訳だ」

「そういった状況から、ワタシは手紙が盗まれたと結論付けました。何か、異論がありますか?」

「……書庫の鍵は、これ一つですか? 予備の鍵は?」

「予備の鍵は職員室に管理しておるし、わしの許可がない限り、鍵を渡すことなどないぞ」

「で、校長先生は、誰にも鍵を渡していないと……」

「そうじゃ」


 なるほど……。


 そういった状況なら、手紙が第三者に盗まれた可能性はあるな。

 だが、鍵もない状況で、誰がどうやって書庫の扉を開けたんだ?

 そもそも、俺たちの他に火宝伝説の謎を探っている奴なんて……。


「ああっ! 分かったよ暁斗! 手紙を盗んだの……市川夏海と、白羽先生じゃないかな?」

「ん? まぁ……恵介の言う通り、その可能性もなきにしもあらず、か……」

「間違いないよ! 市川夏海は、神社でも現れただろ? それに、今日の図書室……これ、絶対怪しいよ」


 恵介はこう言うが、俺にはどうもしっくりこなかった。

 なぜ市川夏海と白羽先生が協力し、火宝を探さなくてはいけないのか……。

 白羽先生の方は、白羽家の末裔かも知れないという理由で通るが、市川夏海と火宝伝説には、なんの接点もない。

 やっぱり、手紙を盗んだ奴は他にいるんじゃないのか……?


「ね、ねぇ? お取り込み中のところ、ちょっといいかしら?」


 話し合っている所へ、いきなり東が入り込んできた。


「なんだよ東。今、ちょっと考え事してるんだ。邪魔しないでくれ」

「な、何よその言い方! あたしのことのけ者にして……それに、邪魔をしてるのは暁斗たちの方じゃない!」


 まぁ、確かにその通りだ。

 こんな大人数でドカドカやって来られたら、東も小説に集中出来ないだろう。


「ふぅ……仕方ないな。で? 何が言いたいんだ、東」

「その、暁斗たちがなんの話をしているのか知らないけど……市川さんと白羽先生だったら、書庫には入ってないわ」

「ええっ!? そ、それってどういうこと、礼華?」

「だって、あたしが証人だもの。市川さんと先生なら、カウンター近くの席に座って、暁斗たちが来るちょっと前までずっと話し合ってたもん。まぁ、何を話してたかまでは分からなかったけど……」

「それが本当なら、二人は犯人じゃない! でかしたぞ、東!」

「ふ、ふんっ! あたしだって、小説ばっかりに集中してる訳じゃないんだからね!」


 そう言って得意気に話す東だが、さっき俺たちが来た時には気づいてなかったみたいだけど……。

 しかし、これで推理は完全に行き詰まったな。

 手紙を盗んだ犯人の候補が、完全に失われてしまった……。


「ね、ねぇ東さん! 市川さんたちの他に、誰か図書室に来なかった?」

「ええ、来たわよ。確か……派手な服を着た男子生徒が一人で……」


 東の口から、思いもよらない証言が飛び出した。

 もし、その男子生徒が手紙を盗んだ犯人だったら……。


「あ、あずまっち! そ、それで? その男子生徒は、図書室で何をしてたんだ?」

「さぁ……そこまでは分からないわね。あたしも小説のアイディアを考えるために集中してたし……あ、でも……なんか書庫の方でずっと物音がしていたような……」


 決まりだな。


 その男子生徒こそ、手紙を盗んだ犯人に違いない。


「ねぇ、礼華! その男子生徒の服装とか、特徴とか、何か覚えてない? もし、その生徒が部活に入っていたら、僕が特定出来るかも知れない!」


 確かに、恵介なら可能だろう。何せ、部活観察を趣味にしているくらいだし。


「う~ん……そうね……。その生徒が来たのは、市川さんや白羽先生が来る前だったわ。とにかく服装が派手で、髪は金髪で短めだった……あっ、あと、耳にピアスをしていたわ!」


 さすがは小説家。人間観察はお手のものだな。

 さて、あとはその生徒が部活に入っていればいいが……。


「………うん、分かったよ。情報提供ありがとう、礼華!」

「えっ? もう分かったのか、恵介?」

「うん! たぶんその生徒は、手品部の部長、“月岡竜大”先輩だと思う」


 月岡竜大……そいつが、手紙を盗んだ犯人かも知れない……。


「月岡竜大。性格には男子生徒ではなく、女子生徒ですね。三年一組、手品部の部長を務めている」

「えっ? あいつ、女子生徒だったの? 全然分からなかった……」


 恵介の情報収集能力も大したものだが、西沢もさすがだな。

 こりゃ、恵介のライバル登場か?


「ワタシの調べたところによると、月岡竜大はかなりのピッキング能力があるとか。だから、書庫の鍵も簡単に開けられたのでしょう」

「なるほど、さすが優衣だな。なら、さっそく手品部の竜大とやらに会いに行ってみよう。まだ、部室にいるかも知れないからな」


 西沢は眼鏡をキラリと光らせ、得意気に恵介を睨み付けた。


「むっ……なんだか、負けた気分なんですけど……」


 恵介はどことなく悔しそうに表情を歪ませ、西沢を睨み返した。

 まぁこれで、次に訪ねる場所は決まった訳だが……。

 はぁ……それにしても、また移動するのか。

 正直、今日はもう歩きたくないんだが……。


「ねぇ、暁斗? さっきからなんの話をしてるの? あたしに教えてくれないかしら?」

「ああ……陽神市に伝わる火宝伝説の謎を、ちょっと追っててな……」

「あっ! ちょっ、ちょっと暁斗!!」

「……えっ?」


 あっ………。


 やべぇ!! あまりにも疲れてて、つい口を滑らせちまった!

 あれだけ他の奴に注意していたのに、まさか自分が暴露してしまうとは……。

 後悔しても、後の祭りだ。この話を聞いた東なら、恐らく……。


「ひ、火宝伝説!? 何、それ!? 小説のネタにピッタリじゃない!! ねぇ、あたしも仲間に入れて入れて!!」


 案の定、東は目をキラキラ輝かせ、図書室の中を飛び回っている。

 もう、こうなったら誰にも東を止められないだろう。


「ほぅ、お前も火宝伝説に興味があるのか。私は加々島琴羽。喜んで、お前を陽神調査委員会に入れてやろう! いいだろ、淡月先生?」

「ふぅ、仕方ないのぉ……」


 権田校長や加々島の許可を得て、東は正式に陽神調査委員会のメンバーになった訳か。

 くそっ、全部俺の責任だ……もう、勝手にしてくれ。


「やった!! 初めまして! あたし、東礼華って言います! これから、よろしくお願いします!」


 東は嬉々とした表情を浮かべ、加々島に深々と頭を下げた。


「初めまして、西沢優衣です。本日より、礼華さんを委員会のメンバーに加える訳ですが、それに伴い、少しお話があるので、よろしいですか?」

「うんうん! オッケーオッケー! あたしも、あんたたちに聞きたいことが山ほどあるし!」


 西沢と東は、すぐ近くの椅子に座り込んだ。

 なるほど……携帯に例の仕掛けを施すつもりか。


「あ、あの……わたしも、図書室で待っていてもいいですか? 少し、疲れてしまって……」

「ぼ、ボクも残ろうかな……」

「あっ、それじゃあ俺も。これ以上歩きたくないし」


 やっぱり、樹も疲れていたか。

 ただ、手品部に行って手紙を貰ってくるだけだろうし、大勢で行っても仕方ないだろう……。


「分かった。なら、残りのメンバーでこれから手品部を訪ねようと思う。それでいいな?」

「そうだね! 僕も、手品部の月岡先輩に興味あるし、一緒に行きますよ!」

「おれもだ、モモチ! なんだか、おもしろくなってきやがった!」


 まったく、恵介も南雲も元気だな……。


「では、あとは任せたぞ加々島君! わしも、そろそろ仕事に戻らなくてはいけないからな……」


 そう言って、権田校長は先に図書室を後にした。

 ホント……何で権田校長は、こんな面倒くさい委員会の顧問なんか務めてるんだろう。

 大変そうだな……。


 まぁ、とにかく……早く手紙を貰ってきてくれと願うばかりだ。

 俺が、早く帰れるように……。

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