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15 前世・リコの正体

 陽斗はるとれいに捕獲されていた理子さとこであったが、到着したバスに我先にと駆け込んだ。一人掛けの席に座ってようやく逃げおおせたと思ったが、二人は普通に理子の席を囲むように立った。

 席空いているんだからどこかに、できれば離れて座れ、と念じるが、一向に離れる気配は無く、何だか生温くて甘ったるい視線が返ってくる。

 何とか話題を変えたくて口に出したのは、『リコ』の話題だ。


「あ、そういえば結局『リコ』って……前世の『リコ』ってどんな人だったの?」


 前世の事を思い出せば少しは今の理子に対する熱が冷めるかと思ったのだが。

 この話題を振ってしまったことを、理子はひどく後悔することになる。

 なぜならば――


「あの毛並み、たまんなかったんだよな。つやつやさらさらのもふもふで」


 毛並み?……もふもふ?


「肉球も最高だったよ。ぷにぷにして柔らかくて」


 ぷにぷに?……肉球?


 毛並みはともかく(いや、毛並みもどうかと思うのだが)、肉球はない。……人間には。

 ということは、つまり。


 理子は頬を引き攣らせながら、嫌な予感を抱えつつも尋ねた。


「つまり、『リコ』って…」


 陽斗と玲は、にこりと笑って答えた。


「犬だよ」

「正確に言えば、犬の姿をした小さな魔獣かな」


 犬。

 人間にも魔族にも属さない、魔獣の犬。


 それが、『リコ』。


「長めの黒い毛並みの……ミニチュア・ダックスフンド、みたいな?」

「ぽてっとした体型はコーギーっぽい感じもしたけど、垂れ耳だったね。足先が白くて靴下履いているみたいで」

「そうそう!鼻先も白かったよな。目が焦げ茶色でつぶらでさ」

「愛嬌のある可愛い顔だったね。しっぽは短めだけどふさってしてて」


 『リコ』に関するトークで盛り上がる二人。


「……」


 犬。

 人じゃなくて、犬。


 前世・犬。


 ……そんなの覚えているわけないだろうが!


 バスの中なので怒鳴るのを控える理子の頭の上では、いまだに『リコ』もとい愛犬トークが繰り広げられている。


「歩くときにしっぽが左右に揺れるんだけど、短い脚だからちょこちょこ揺れてて」

「あはは、そうだったね。脚短いから、歩幅が狭くて歩数が多くて」

「後を付いてくる様子が必死で可愛かったなぁ」

「うん、あれは癒されたね」

「腹撫でようとするとすっごい嫌そうに逃げるんだよな」

「肉球触ろうとすると嫌がるのも可愛かったな」


「……」


 あーあー、そうですか。

 投げやりになって、窓に寄り掛かり半目で聞き流す理子は、知らなかった。




 『リコ』は犬といっても、人間と魔族の間に生まれた、少し特殊な魔獣であったことを。

 魔力を持ち、魔王と勇者の前では人間の姿をとることもあったことを。

 人型になった『リコ』に、犬型のときから好感を抱いていた魔王と勇者がやがて恋したことも。

 その人型の姿が、現世いまの理子に似ていることも。


 そして――


 前世と同様に、早く理子に所有の証である赤い石と青い石を付けさせたいと二人が思っていることも。



 前世なんて知らない理子は、知る由もなかったのだった。



理子目線の本編は、これで終わりです。

しかしこれからも理子の受難はつきません。今後も陽斗と玲に挟まれ囲まれ捕獲されたままでしょう。


いったん完結設定とさせて頂きますが、今後、番外編で勇者や魔王目線のお話を上げれればと思います。

お付き合い頂きありがとうございました。

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