閑話・モグラの庭師
プライベートの都合でなかなか更新出来ない為、インターバルに。
読まなくても話の流れには支障はないお話です。
『やかまし森の仲間たち』より引用
やかまし森の真ん中は、そこだけ木を切り開いてみんなが集まれる広場にしていました。
友達同士で待ち合わせしたり。
新しく作った歌を披露したり。
木の実で作った素敵なネックレスを売ったり。
みんなが自由に過ごしていました。
広場には花壇があり、いつも四季折々の花が咲いています。
春には黄色い花。
夏には白い花。
秋にはピンクの花。
冬には赤い花。
広場に集まるみんなも、次はどんな花が咲くのか楽しみにしています。
けれど一体誰が花壇の世話をしているのか、知る人はどこにもいませんでした。
ある夏の暑い日に、やかまし森の空は真っ黒な雲に覆われ、あっという間に大雨が降ってきました。
雨は二日間に渡り降り続け、みんな家で雨が止むのを待ちました。
ようやく雲の切れ間からお日様が覗き、みんなが友達の無事を確かめようと広場に集まってきました。
誰一人欠ける事無くみんなが集まりましたが、みんなが目にしたのは、雨で茎が折れ倒れてしまった花々でした。
鮮やかな色の花びらの殆どは土で汚れ、元の色が失われていました。
みんなは花壇の前に座り込み、倒れた花を元に戻そうとしました。
熊さんは大きな手の爪でそっと茎をつかみ。
兎さんは雨で流れた土を寄せ集め。
狐さんは葉っぱで水を汲んできて。
リスさんはその水で花びらを洗い。
みんな今まで花壇の世話をしたことがなかったので、日暮れになっても半分の花しか直せませんでした。
また明日、広場に集まろう。
誰ともなく言い合い、その日はみんな家に帰り、一日中働いたので、みんなぐっすりと眠りにつきました。
翌朝みんなが広場に集まってみると、倒れたままになっていた半分の花も、花びらからきれいに土が取れていました。
みんなは声を上げて喜びました。
でも、一体誰が花の世話をしてくれたのでしょうか。
リスさんが広場の回りの木に駆け上り、昼間は寝ているフクロウさんを起こしました。
「フクロウさん、フクロウさん、ごめんなさい。起きてちょうだい」
「なんだい、もう夜かい?いや、昼だ。寝かしておくれ」
「寝る前に一つだけ教えてちょうだい、物知りのフクロウさん」
「いかにも私は物知りフクロウさ。何を聞きたいのかい?」
「花壇の世話をしているのは一体誰?一晩で花壇がきれいになったんだ」
「なんだい、昼間の君達は知らないのかい?情けない」
「僕達は夜は寝てるんだもの。仕方がないよ。それで誰なんだい?」
「明るいところが苦手で穴掘りと土いじりの名人といえば、モグラしかいないさね。さあさあ、帰った帰った。もう寝る時間だよ」
フクロウさんに追い返されたリスさんは急いで木から降りて、みんなにモグラさんのことを伝えました。
その晩。
モグラさんは土の中に作ったトンネルを通って広場にやってくると、新しい花の苗を土の上に並べていきます。
雨で痛んだ花の中にはどうしてもしおれてしまったものがあり、かわいそうですが花の入れ替えをすることにしたのです。
暗い土の中で暮らすモグラさんは、月明かりでも眩しく感じ、目を細めながら新しい花の苗を抱えて走り回ります。
新しく加えたのは紫色の花。
ようやく全ての箇所に植え替えすることができたので、一息ついて空を見上げると、木と木の間に何か白い布がかかっていました。
目の悪いモグラさんは目を凝らして見ると、文字が書かれていることに気が付きました。
『モグラさん、いつもありがとう。↓』
矢印の下を見ると、籠に入った暖かそうな毛布と赤く色づいた林檎が入っていました。
「はてさて、果物は普段食べないけれど。試しに食べてみようか」
モグラさんは毛布と林檎を大事そうに抱えて、トンネルに通じる穴を飛び降りて行きました。
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「じーい、モグじーい」
脚立に座って大鋏を持ち背の高い生け垣の剪定をしていると、遠くから元気の良い声が聞こえてくる。
「姫様、走っては危のうございますっ」
聞き慣れない少女の声も合わさり、賑やかな様子に手を止めて声の方を見ていると、生け垣の向こうから可愛らしい女の子が顔を覗かせた。
「いたあ!モグじい、聞いて!」
爺様扱いされてはいるがまだまだ現役のつもり。慣れた足取りで脚立から降り、麦わら帽子を取って末の姫様にお辞儀をする。
「姫様、どちらに?って、わ!モグラ!ほんとに?」
どうやら姫様を追いかけていたのは新入りの侍女のようだった。
このモグラの仮面は城内の仮面職人の中でも写実派の筆頭、「白熊」の作。モグラ以外の何物にも見えない筈。
「ねー、言ったでしょう?ここには本物の『モグラの庭師』がいるのよ」
ああ、成る程。
この侍女も『やかまし森』の読者ということか。
見たところ、姫様より2、3歳上のようだ。近い年頃で姫様と読書の趣味も合うならうってつけだろう。
「モグじい、奥の花壇、そろそろ咲いたかしら。見てこよう!」
「あっ、姫様!失礼します!」
「聞いて」とは何だったのか。とりあえず彼女を紹介したかっただけなのか。
駆け出した姫様に続き、慌ただしくお辞儀をして新米侍女も追っていった。
仮面の下で目を丸くしつつ麦わら帽子を被り直し、青空に煌めくお日様を目を細めて仰いだ。
物語のモグラの庭師は、夜中に人知れず花を植え続け、ようやく自分の仕事と知ってもらえた。
日の下でも働ける自分は、自分の植えた花を見て喜ぶ人の顔を直に見ることが出来る。
姫様は「やかまし森と同じ庭師」と喜んで下さったが、姫様の笑い声を聞きながら働けるほうが何と楽しいことか。
モグラの庭師は大鋏を危なくないように抱え込むと、姫様と新米侍女の後を追った。
主人公侍女13歳、姫10歳頃の話で、前半は二人の愛読書の内容です。
蜥蜴さん、モグラじいは白熊の工房の仮面です。
鶏料理長は別の写実派の職人のものを被っています。鶏冠はかなりリアルです。
蛙君はファンシー系を得意とする職人のものです。