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光の距離  作者: 鈴音サラ
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4/12

4噂の一年

 本格的に部活が始まってくると、文化部と運動部はサイクルがだいぶ変わってしまう。少し寂しさは感じるが、一緒に下校はしなくなったので、翌日教室で怜に部活の様子を聞いてみた。

 椅子を後ろに向けて身を乗り出す。


「美術部にしたんだろ?そっちはどうよ」

「別に普通かな」


 こちらには目もくれず、授業の準備をしながら答える。


「普通って……面白いとか、つまんないとかあるだろ」


 怜は軽くこちらを見ると、手に持っていたペンをくるりと回した。


「楽だよ。厳しくないし、みんな自分のペースで好きに制作してる」

「お前やる気ないな……」

「そうかもね。自分の写真模写してるだけだから」

「ふーん……」


 これはこれで問題ありそうな感じだな。

 先生が来ると、ホームルームで委員会の発表がされた。偏りがあったようで何人かは希望とは違う配置をされてたが、人気がないのか、俺と怜は美化委員に決まった。


「良かったじゃん」


 後ろの怜にこっそり話しかける。


「うん」


 返ってきた返事は声が明るかった。


 


 放課後は早速、委員会の集まりがあった。「部活の前に委員だなんて忙しいんだな」なんて、怜と喋りながら教室に向かう。中に入ると、席には既に何人か来ており、見知った顔が目に止まった。サッカー部の部長だ。


「こんにちは」

「お、加藤じゃん」

中村(なかむら)部長も美化委員なんですね」

「サッカー部の子?」


 隣に居た三年生らしき人が質問した。


「そうそう、だから遠慮なく使って」


 部長は口角を上げると、恐ろしい笑顔を俺に向けた。


「俺は三年の津田(つだ)。よろしく~」

 もう一人の先輩も挨拶してくれる。ゴリラのような部長と違い、細くてキツネみたいな感じの人だ。 


「あ、加藤です」

「北河原です」


 俺と怜は挨拶すると、空いている席に座った。

 しばらくすると先生と委員長たちが前に出て、委員会の説明をされる。怜の言っていたように、清掃や花壇の手入れがメインの仕事だった。活動は基本、一年生と三年生がペアになってやるそうだ。

 事前に組み合わせは決まっていて、俺は津田先輩、怜は中村部長だった。正直部長は怖いので、怜には悪いが、俺じゃなくて心底ほっとした。 

 今日は初日ということで、説明を兼ねみんなで軽く校内外のゴミ拾い。校内を見終えると、今度は外の校舎周りをぐるりと見て回る。


「基本どこもそんなにゴミはないから、外だけの朝清掃は結構早く終わるよ」


 落ちていたティッシュを拾いながら、津田先輩が教えてくれる。


「本番は植物の世話だな!土運んだりするしいい筋トレになるぞ」


 中村部長が俺をバシバシ叩いてきて体がよろめいた。そういう目的で入る人もいるのか、と納得する。


「でも怜にはキツそうだな」


 困り顔をしている怜は「まぁ頑張るよ」と、自信なさげに言った。


「普通にキツかったら先輩頼りな」


 中村部長は、俺の時とは違って優しく肩を叩くと怜に声をかけた。部員に対してと、それ以外での差が激しくないだろうか。そんなことを考えながら、集めたゴミの片付けを進めた。

 ひとしきりゴミをまとめ終えた時、遠くから黄色い声がしてきた。こちらに向かっているようだ。小走りに集まってきた女子達は、躊躇いもなく怜に声をかけてきた。


「北河原くんだよね?」

「ねえねえ!君ってモデルとかSNSとかなにかやってるの?」

「え?いえなにも……」


 女子複数に囲まれた怜は、突然のことに目を白黒させて硬直している。


「今度動画撮ってもいい?」

「インストにあげようよ~!」


 女子達は矢継ぎ早に喋ってくる。一体なんなんだ?


「えぇ!?あの、僕そういうのはちょっと……」


 怜は後ろに後ずさると、手に持っていたゴミ袋を握りしめた。


「お前ら作業中にうるせーぞ」


 そんな怜を見かねたのか、中村部長が大声を出す。この女子達に怯まないとは、すごいなと関心してしまった。


「中村こそうるさいんだけど」


 一人が腕を組みながら、じろりと中村部長を睨んだ。この女子達も三年生だったのか。なんで三年の女子が怜にこんなに絡んで来るんだ?


「はあ?いなりきてお前らなんなの?」


 部長は苛立ちも隠さず言い返し、怜を庇うように間に割って入った。一触即発の雰囲気に俺も冷や汗が出る。俺はこのまま見てて大丈夫なのか?思わず津田先輩に視線を向けた。すると、津田先輩もまずいと察したのか、険悪な二人の仲裁に入る。


「原田さん、北河原くん困ってるからやめてあげてね」

「えー!ちょっとぐらいいいじゃん」

「津田くんも中村の味方するなんてひどーい」


 津田先輩の言葉にも女子達は全然気にしていない。


「ほら、北河原くんだって先輩に囲まれると怖いからさぁ」


 津田先輩は苦笑いしながらめげずに、群がってきた女子達を強引に遠くに追いやった。

 それでも女子達は、遠巻きにこちらを見ながら黄色い声を上げてお喋りをしている。

 みんなため息が思わず出た。


「北河原くん大変だね~」

「なんなんすか?あれ」


 嵐が去ったかのようだ。俺は状況がわからず津田先輩に聞き返した。


「三年の中で可愛い一年がいるって噂になってて、実は北河原くんちょっと有名なんだよね」

「馬鹿らしい」


 中村先輩は怒っているのか、乱暴にゴミ袋を持ち上げた。 


「北河原は、もしまたなんか言われたら俺らに言いな」


 怜の頭をぽんぽんと軽く叩くと、安心させるように怜に声がけする。


「ありがとうございます……」


 怜は俯いたままか細い声で答えた。部長は怜の肩に手を置いて、そのまま連れていくように歩き出した。 


「加藤くんもちょと気をつけてね」


 津田先輩は俺を気にかけてくれたが、今日の感じだと今後も何かありそうで不安になった。少なくとも今までは、こんなことなかったんだけどな。

 俺は走って怜に声をかける。


「俺もいるから大丈夫だって」


 気休めなのは分かっているが、なにか言わずにはいられなかった。


「陽介もありがとう」


 怜は力なく呟いた。

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